ニーアル・ファーガソン(Niall Ferguson)が以下のようにツイートしている。
"Economics today resembles Catholic theology in medieval Europe: a rigid doctrine guarded by a modern priesthood who claim to possess the sole truth. Dissenters are shunned. ... Neoclassical economics has become the Aeroflot of ideas." Much truth in this.
(拙訳)
「今日の経済学は中世欧州のカトリック神学に似ている。唯一の真実を保持していると主張する現代の司祭に守られた厳格な教義である。反対者は遠ざけられる。・・・新古典派経済学は考えのアエロフロートとなった。」 この文章には多くの真実が含まれている。
これはハジュン・チャン(Ha-Joon Chang、ハジュン・チャン - Wikipedia)のFT論説からの引用で、ファーガソンは後続のツイートで以下のようにも述べている。
To be clear, I liked those sentences, but not the overall argument of the piece. My grievance against economics is its neglect in recent times of ec. history (barely represented in major departments these days). But the state of history departments and of the history profession is far worse.
(拙訳)
はっきりさせておくと、この文を私は気に入ったが、論説の全体的な主張を気に入ったわけではない。経済学に対する私の不満は、近年において経済史を無視していることにある(今日では主要な大学の学科でほぼ教えられていない)。ただし歴史学科と歴史家の状況は遥かに悪い。
これにブランシャールが猛反発した。
Niall and others. Please do your homework. Do the following. Ask to receive the list of working papers from the NBER; it comes out once or twice a week. And discover, to your surprise, the degree to which researchers explore new ideas, deal with current issues, and how it has little to do with the caricature you draw.
(拙訳)
ニーアルならびに皆さん。宿題をしましょう。以下のことをしてください。NBERにワーキングペーパーの一覧を貰うように頼んでください。週一回か二回発行されます。そして研究者が新たなアイディアをどの程度追究しているか、現在の問題にどの程度取り組んでいるか、そして貴兄が描写している戯画と如何に縁遠いかを、驚きを以って発見してください。
コント:ポール君とグレッグ君(2013年第8弾) - himaginary’s diaryで紹介したようにかつてファーガソンはクルーグマンに対しかなり的外れと思われる批判をしたことがあったので、その経済学への理解は割り引いて捉える必要があるかもしれない(経済学者から経済学の議論をもぎ取る - himaginary’s diaryやみんな格付け会社が悪いんや - himaginary’s diaryで紹介した論説でもまともな学者扱いされていない)。最近では、サマーズ「経済学の予測精度は上がっている」 - himaginary’s diaryで紹介したサマーズのツイートで、ファーガソンの経済学への理解を対談で正したことがやんわりと報告されている。
とは言え、新たなマクロ経済学を構築する5つの方法 - himaginary’s diary、機織りとしての経済学者 - himaginary’s diary、経済学者の7つの罪 - himaginary’s diaryなどで紹介したように、現代経済学において経済史が軽視されてきたという批判や、経済学者は経済史をきちんと学ぶべしという主張は度々なされているので、彼の今回の批判には無下に否定できない面もあるかもしれない。
ブランシャールのツイートにも経済学者から賛否両論の反応が付いており、オックスフォード大のMartin Schmalzは、スレッドの皆のために宿題を少しやってみた(I did a bit of the homework for people in this thread)とチャンの元論説に対して展開した批判を改めて引リツした。一方、規制を専門とする経済学者のJames Broughel*1は「I subscribe to the NBER working papers. The caricature is mostly right.(NBERワーキングペーパーを定期購読してる。戯画は概ね正しい。)」とにべもなく斬り捨てている。また、サンターナ大学院大でエージェントベースモデルを使ってマクロ経済学を研究しているというAndrea Roventiniは、「I do my homework every week. Almost all macroeconomic models belong to the Neoclassical paradigm. Economics desperately needs more pluralism.(私は毎週宿題をやっている。ほぼすべてのマクロ経済モデルが新古典派パラダイムに属している。経済学者はより多くの多元主義を大いに必要としている。)」と述べている。そうした反応を、マクロモデルは(少なくとも)5種類必要である件 - himaginary’s diaryで紹介したようにモデルが複数種類必要だと訴えてきたブランシャールが受けるのは少々皮肉な話ではある。
*1:Competitive Enterprise Institute(Competitive Enterprise Institute - Wikipedia)のプロフィール=James Broughel - Competitive Enterprise Institute。