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上出遼平『健康チャンネル』

『ハイパーハードボイルドグルメリポート』の上出遼平がYouTubeチャンネルをスタートさせた。その名も「健康チャンネル」である。記念すべき開設1本目の動画は、【朝散歩】と題され、早朝のマンハッタンの街並みが手持ちカメラで捉えられ、歩みの速度と共に風景がヌメっと変化していくという内容。“朝の夜景”とでもいうような夜明け前の街の淡い灯りが、徐々に朝の光に変わっていくまでを捉えた実にヘルシーなムービー。


しかし、その翌日には未解決事件の調査報告という内容の動画がアップされる。なるほど、チャンネル説明には「私の心身の健康と社会の健康を願い、朝散歩や未解決事件の調査報告をするチャンネル」という風にある。凄い振り幅だ。というわけで、チャンネルでは2008年に発生した「岩手17歳女性殺人事件」についての報告が更新されている。曰く「小説より奇なりすぎる」というこの未解決事件に、上出は取り憑かれてしまっている。被害者には同姓同名の友人がいた、という不思議な導入から始まり、東北の田舎町を舞台に、反社会的勢力や警察を巻き込んで展開される事件模様。恐喝、暴力、交通事故、ドラッグ、売春、盗撮・・・蠢く強烈なトピックの数々。調査によれば、大物政治家、宗教施設、心霊現象も関わっているという声も聞こえてくるらしい。そして、車が東北地方の地図上を駆け巡り、常にガソリンの匂いが漂ってくる。デヴィッド・リンチ『ツイン・ピークス』、阿部和重『シンセミア』、渡辺あや『エルピス―希望、あるいは災い―』といった土着的かつ神話的な様相を漂わせるフィクションの傑作が頭をよぎるというか、そういうレベルのお話なのだ。実際に起きた殺人事件なのだということを念頭に置きながらも、あえて言葉を選ばないのであれば、“おもしろすぎる”わけで、上出同様にチャンネル視聴者もどんどんこの事件に憑りつかれ、熱を帯びていく様がコメント欄からもうかがえる。もしかしたら、上出遼平が消えてしまうのではないかという不安(この事件を熱心に調査していたジャーナリストが10年前に自死している)、このチャンネルをきっかけに真実に辿り着けるかもしれないという希望が、ないまぜになっていることも熱狂の根源だろう。これは、まったくもって新しい動画体験だ。


調査で得た事実を上出とスタッフが冷静な態度で並べていき、「なぜ彼や彼女はこんな行動に出たのだろうか?」と頭を捻らせていく。淡々とした語り口で、過剰なBGMやテロップはなし。であるのに、人間とこの社会の未知の領域、知ってはいけない部分を掘り進めていくかのようで、身体の芯から冷えてくる怖さが終始漂っている。わたしたちの日常というのは、薄皮を一枚剥がすだけで、かくも狂っているのか。すると不思議なことに、上出らがチャンネルを撮影している事務所の一角のような無機質なスペースが、まるで最終防壁ラインであるかのように、とても温かくて安全な場所に感じられてくる。『ハイパーハードボイルドグルメリポート』での、“生きることは、すなわち食べること”よろしく、殺人事件を語りながら、1000円のオムライスカレー、コンビニのアイスカフェオレ、チョコチップクッキーやじゃがりこといったカロリーを摂取するシーンが挿入されていて、その生きることのリアルな質感がいい。「生きねば」という気持ちになります。

しかし、上出から醸し出される異様な色気は何事か。すぐそこに死がある場所をくぐり抜けている男からしか出てこないであろう“生命の色気”のようなものがこのチャンネルにはほとばしっている。どうかご健康に。




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