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沖田修一『探偵さん、リュック開いてますよ』6話「BAD MEMORY GOOD SOUND」


『探偵さん、リュック開いてますよ』の第6話「BAD MEMORY GOOD SOUND」を貴方は観たか。この作品は探偵ものといいながら、各話ごとにジャンルを着替えていく。地底人だ、宇宙人だ、幽霊だ、時代劇だ・・・果てには「殺人事件の犯人は“お湯”」という、これまでのB級テイストのはしゃぎっぷりも充分におもしろかったのだけど、この6話はちょっと別格。ジャンルはラブストーリー。松田龍平の初恋の人として夏帆を召喚して繰り広げられる大人の平熱な恋物語であさらには映画やドラマ、フィクションといったものへの熱烈なラブレターのようにも感じられた。


洋輔(松田龍平)の初恋の人である神林リカ(夏帆)は人気女優。「初恋の人は今」といような三四郎がMCのテレビ番組によって、2人は22年ぶりに再会する。洋輔はリカに好意を寄せながらも、学生時代にリカからもらったラブレターに返事をするどころか、便箋の封を開けず、読むことすらしなかった。なぜかというと、リカの好意は発明品「両思い機」によって作られた“偽り”の恋であったから・・・というあらすじ。女優役(!)で登場する夏帆のもはや大女優というような存在感はやはり別格。そして、その夫役を演じた中島歩がまた素晴らしく、独特な発話の“ボイス“で画面を支配する。そうなってくると、松田龍平の演技も乗ってくて、言葉にするのが難しい微妙なニュアンス(あえて言語化するならば、「生きることの切なさ」みたいな)を全身から発していく。


もう全てのシーンが素晴らしくて、細部に言及すると限がないのだけど、中華屋でのシークエンスなどは特に印象に残っている。他のテーブルで春巻きを食べている中年男性をカメラが捉え、その食べっぷりに影響を受けた2人が追加で春巻きを注文し、春巻きにまつわる出来事を2人同時に思い出す。

リカ:ねぇ一ノ瀬くん 春巻き頼んだら食べる?
洋輔:うん、食べる食べる
リカ:うん頼もっ
洋輔:ねぇ、今岡 覚えてる?柔道部の
リカ:わたしもそれ思い出してた!
洋輔とリカ:春巻き弁当!

春巻きを食べているおじさん、という一つの事象から広がっていく充実した時間。そして、この会話はテーブルにやってきた店員にサッとかき消されてしまう。そのさりげなさ。続く、ひさしぶりの再会に対する“はしゃぎ“に関する会話も、内容や発声含め、これぞ松田龍平という良さがあった。


物語の構造としては、“回転”が軸となる。洋輔とリカがかつて乗れなかったメリーゴーランド、そして観覧車。そのどれもが回るモチーフであり、2人の時の流れが止まっていることを示唆している。一方で、2人の横浜デート(?)で印象を残す“春巻き”とクレープ焼き機のそれぞれの回転。そして、NISHIYAMA bros Ensembleのテープレコーダーを回転させた演奏。画面に“回転”の運動が充足すると、止まっていたメリーゴーランドが動き出す。そして、メリーゴーランドに乗りながら、自転と公転を繰り返す“月”を見上げ、「月が綺麗ですね」とリカにつぶやく。しかし、それをリカに伝えるのは、洋輔ではなく、夫であるタカシ(中島歩)だ。「ちょっと一ノ瀬くん(洋輔)に似ている」人。


タカシの職業は録音技師だ。映画やドラマの“音”というのはほとんどが、タカシのような録音技師が採録した音や音響効果のハメ込みであって、その場のリアルな音ではない。つまり、画面には“偽り”の音が流れている。今話でわかりやすいのは、山下公園での洋輔とリカが歩いているシーン。超がつくロングショットの長回しで撮られていて、被写体の2人がフレームの外にいても、どんなにカメラに近づいてきても、2人の会話の音のレベルは変わらない。当たり前のことではあるのだけど、ここには映像のつく“嘘”がある。映像の嘘はあらゆる場所に満ちている。たとえば、はなから見た目を似せる気がないような学生時代の洋輔たちを演じる役者たち。また、洋輔とリカの飛行シーンはどうだ。

「これは嘘ですよ」と声高に叫ぶかのようなチープな撮影であるのに、どこまでも胸を撃つのはなぜなのだろう。

タカシ:まぁ偽りの恋だ
リカ:それでもいいの
タカシ:え?
リカ:いいの それでも
タカシ:フーン

洋輔とリカの“偽り”の恋が肯定されていく中で、映画(映像)のつく“嘘”もまた肯定され、祝福されているかのようである。そもそもこの6話にいて、“撮る”ということがどれほど頻出することか。洋輔が出演するテレビのカメラ、としのり(大倉孝二)と香澄(片山友希)の尾行によるスマホでの撮影、大挙する修学旅行生たちとの記念撮影、そしてメリーゴーランド前での集合写真。ラスト、洋輔が自身の罪を告白すると、故障していたメリーゴーランドの照明がパッと灯る。女優(夏帆)がいて、カメラ、音、光・・・映画のすべてがここにある。




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