
「名探偵津田」のおもしろさは、フィクションによる自我の境界の揺らぎだ。そのおもしろさが加速した第3話においてダイアン津田より提唱された“1の世界”と“2の世界”という概念。“1の世界”とは津田が探偵として存在する虚構の世界で、”2の世界“は、津田がお笑い芸人である現実。この2つの世界の間で、津田は「どっちが本当の自分なのだろう?」と存在の足場がグラついていく。現実が”2“で、虚構が”1”であるのが興味深い。普通は逆ではないだろうか。単なる津田のパッとした思い付きに過ぎないのだろうけども、現実の津田が名探偵の世界に移行する際に、"マイナス1"が発生するということだ。ちなみに、第4話に登場したデロリアンはあえての『バック・トゥ・ザ・フューチャー2』仕様(1ではプルトニウムを動力源としていたが、2ではゴミを燃料に変換する「Mr.フュージョン」が追加された)で、“1の世界”の出来事あるけども、あえてのパート2だ。ややこしい。

この2から1へ、という運動性を念頭に置くと、この第4話において江田島家のかかりつけ医としてお笑い芸人でザ・たっちのたくやだけがキャスティングされている意図が見えてくる。誰しもが双子と認識しているたくやが、"2の世界"では1人ぼっちで存在している。このマイナス1、すなわち”喪失“のフィーリングである。そして、最初に殺害されたのは誰だったか。劇団ひとりである。”ひとり“という芸名が示唆的だが、元々はスープレックスというコンビ。そして、殺人現場を目撃していたのは、元・ビリジアンの小籔千豊と元・巨匠の岡野陽一。探偵の相方であるみなみかわは元・ピーマンズスタンダード。そして、この企画のプレゼンターを務めるのは元・バカリズムのバカリズム(升野英知)。全員がコンビ解散という相方の喪失を経験した、ピン芸人たちなのだ。
そして、女たちもまた喪失している。
いつまでもお慕い申しております
と愛する旦那に先立れるという喪失を抱えた未亡人の幽霊が200年前から現れ、その子孫である理花もまた
私はいつまでも貴方をお慕い申しております
と同じ台詞でもって、名探偵津田への恋心を100年間にわたり持続させ、悲劇を連鎖させていく。理花の想いは、おそらく血を分けているであろう理佐や理奈にまで伝染し、色んな場所や時間でもっと、名探偵津田との恋を多発させていく。”1の世界“に生きる理花たちと、本来は”2の世界“の住人である津田篤宏は、永遠に結ばれることはない。この美しく悲しい恋物語、2→1という、このマイナス1の”欠落“が、「名探偵津田」シリーズの根幹だ。
そういった作り込まれた世界観は、伏線の張り巡らされた無駄のない脚本と評されているが、実のところ無駄な部分はたくさんあり、その無意味なパートこそが「名探偵津田」シリーズの肝であるように思う。それこそ、2025年の流行語大賞にもノミネートされたシリーズを代表する名台詞
長袖をください
もそうだろう。この台詞はストーリーの本筋には何ら関係ない。急遽予定が変更になり新潟行きが決まり、「服の布が足りない、ユニクロに行きたい、となる。この異様なリアリティに即した物語上の“ノイズ”の部分が「名探偵津田」という作品のトーンを形作ってている。第4話であれば、宿泊した部屋に大きな蜘蛛が出るだとか、枕が高くて眠れないだとか、そういった豊かなノイズ。これは、生きることの質感そのものであり、名探偵という宿命への津田なり抵抗だ。そのノイズの振動が、“1の世界”と“2の世界”をグラグラと揺らし、観る者の心をも揺さぶるのである。