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日々が愛おしくなる『大人は泣かないと思っていた』寺地はるな著

住んでいた村が市町村合併で市になったのを機に「私も自分の可能性を信じたい」と母親が出奔し、11年間頑固な父親と二人暮らしをしている32歳の時田翼。彼と彼を取り巻く人々の物語が7編まとめられている。

 

舞台は九州のどこかのようで、その郡部とあって男尊女卑、家父長制の思想の色濃いところだ。登場する男たちは、翼を除いてほとんど無意識のうちにその考え方に支配されている。それが、自分たち自身までも不幸にしていることにも気づかずに。

 

翼の家の庭にゆずの木があり、隣家に住む老婆がその実を盗んでいると父は言う。半信半疑だったが、ある日翼はその現場に遭遇する。しかし犯人は老女ではなく、彼女の孫を名乗る小柳レモンという若い女だった。

 

翼の母親に昔飲ませてもらったゆずのジュースが美味しかったと言う祖母のために、もう一度そのジュースを作って飲ませたいのだと言うレモンのために、翼は彼女を自宅の台所に入れ、一緒にゆずのジュースを作る。髪を果実のレモンのような色に染めよその庭のゆずを盗むレモンに初め驚くが、読んでいるとだんだん彼女の素朴さにうたれる。この二人の話が第一話だ。

 

男はかくあり女はかくあるものという価値観に縛られている男たち。そうした考えの中で無批判に結婚や子育てを受け入れていく女たち。その枠に収まり切れず、はみ出してしまう女たち。誰もが矛盾や弱さや我儘を抱え、完璧な人などいない。

 

けれども、主人公翼の人生を縛ってしまう元凶である飲んだくれの父親さえも、見放してしまえない愛しさを感じさせる。登場するどの人物もそれは同様で、作者がどの人物にも愛情を持って描いているのが分かる。

 

魅力的な人物もたくさん登場するし忘れがたい言葉もたくさんあるが、レモンちゃんの義父となった小柳さんの温かさと、家族というものについて言った言葉が特に印象に残った。

 

「家族って、僕は、会社みたいなもんだと思う」と小柳さんは言い、「会社の目的って、なにか売ったり、利益出したりすることでしょ。家族という組織の目的ってなんなの」と言うレモンちゃんに、「そりゃ『生きていく』ことだよ。生きていくって言うほど簡単なことじゃないよ・・・(略)生きていくのは大事業だよ。その事業が継続できるならさ、どんな編成だっていいんだよ。お母さんが三人いたって、夫婦ふたりだけだって子どもが二十人いたって、全員に血の繋がりがなくったって、うまくいってるんならいいと思うんだよ。もちろん、ひとりだってさ」

 

そう、生きていくのは、生き続けていくのは、簡単ではない。べつに生まれたい!と思ってこの世に生まれた訳ではないのに、生まれてしまった以上、死ぬその瞬間が来るまで生きなければならない。ならばそれまで、何かの縁で近くに生きる人々と、なるべく仲良く楽しく助け合って生きていきたいものだと思う。

 

そんな優しい気持ちにしてくれる物語だった。

 

 

 

 




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