本当に、どこかの町の一角にありそうな小さなお豆腐屋さんの平凡な毎日のお話。でも、現実には、今の世の中には、もうこんな優しい世界はなかなか見つけられないのかもしれない。
京成本線の堀切菖蒲園。その駅から歩いて5分ほどのところにある日比野豆腐店。その店の二代目だった日比野勇吉と見合い結婚して、初は豆腐店の嫁となった。当時は初代で勇吉の父民造と妻の弓代が営んでいた。勇吉が豆腐店を継ぐことになると、仕事に関しては民造は勇吉に厳しかったが、初には民造も弓代も優しかった。
そう、今までよく小説やドラマでは嫁と姑の確執が描かれてきたけれど、昔は知らず、今どき嫁をいびる姑なんてあまり聞かない。大切な息子を愛してくれる女性がなぜ憎かろう。
やがて舅も姑も他界し、勇吉と初は二代目となり、どんどん町の豆腐店が減っていく中でもなんとか営業を続けるが、勇吉は七十歳でがんで逝ってしまう。すでに店は一人息子の清道が継いでいたが、初にとってさらにつらいことに、その清道がまだ五十歳で持病もないにもかかわらず、コロナであっけなく死んでしまう。
店をたたむしかないと思っていたが、清道の妻の咲子が、勤めている会社を辞めて豆腐屋をすると言う。彼女がしっかりした会社に勤めていてくれる方がむしろ安心かもしれないと初は考えていたが、咲子は日比野豆腐店を閉めたくはなかった。
こうして豆腐店を営む女二人と、清道の忘れがたみの令哉との三人の生活が始まる。ああ、あと野良だったのを拾われて日比野家の猫となるハチワレ猫の福もいる。
周辺の人々も含めて誰も腹黒い人の出てこない、気持ちの良い物語だ。それでも十分せつなかったりドキドキしたりしながら夢中で読んだ。
同じ著者の『ひと』という作品は2019年度の本屋大賞の第二位になり、ちょうどこの12月に東京と大阪で舞台公演がされたらしい。この『日比野豆腐店』もドラマ化されたらぜひ見たいと思う。
