電車が少し遅れていたので、吉祥寺駅の改札を入ってしばらくの間、寒いのでホームには上がらず風のあたらない柱にもたれていた。今年あった色んな事をぼんやりと考えながら、自分のいま通って来た道を見ていると、改札近くの床面に銀行やらツタヤやら薬局やら、その他もろもろのカードが散乱し落ちている。めんどくさいものを見てしまったような気がして「誰か拾いに行かないかな…」と思っていたのだけれど、誰もそのカード群には気づかないし、気づいてもそのまま通りすぎて行く。ホームからは、遅れている次の電車が前の駅を発車した、というアナウンスがあった。仕方ないなと思いながら僕は床に落ちたカードを、しゃがんで一枚づつ拾っていった。終電を急ぐ人たちのたくさんの足が、目の前を通りすぎて行く。ようやく全部ひろい集めて改札に立っていた駅員さんに持っていくと「どうもどうも」と言われた。床をほじくって少し黒くなった、中指の爪。
ぼちぼち電車が来るかなと思い、それにしても寒いとポケットに手を入れて階段を上がっていくと、中頃まで来た所で「●●●●さん、いらっしゃったら至急改札口まで来て下さい」というアナウンスが駅に響く。すると終電到着間近の人混みの中から長髪でミュージシャン風の酔っ払ったおじさんが「ヒョ〜」と言いながら階段を駆け降りて行った。ホームに上がるとちょうど先頭車両が見えて、吉祥寺駅に終電車がやって来た。列の最後尾に並び、扉が開く前からすでに車内に詰め込まれた人たちの様子を見て少し疲れた気分になる。ようやく中に入り、押し出されないように入り口の扉枠の所で腕を突っ張っていると、階段をさっきのおじさんが猛ダッシュで戻って来た。僕は彼のぶんのスペースをあける。鼓動が伝わってくる。首のうしろには汗が流れていた。電車は夜の街を走り出す。
「酔って駅でカードをばらまいた。そしたらそれを拾ってくれた人がいた。駅員に名前を呼ばれた。銀行にはなけなしの六千円。良い人がいる。泣きそう」というような事を、彼は笑顔の顔文字といっしょにツイッターに投稿していた。僕はそれを横目で見ながら俺、俺、俺や、と名乗り出たいような、少し誇らしいような気がして、うれしくなった。別に自分がそこまで良い人だとは思わないけれど、どこの誰かも知らないような人に、役に立てたかと思うとなかなかに良い気分で、駅に着き「降ります〜」と通路をあけてもらいホームに立って、去って行く電車を見送った。なんでこんなにうれしいんだろうと思った。あの人とはもう会う事はないし、やがてお互いに、今日の事も忘れてしまうだろう。でも2011年の最後に、なんだかうれしい気分になれた。去って行く終電車の灯りと、夜気と、今年あった色んな事と、吹けば飛んで行きそうな、この誇らしい気持を忘れないように、ここに書いておこう。