映画館が好きです。だいたい週に1度くらいの割合で行きますが、9割は1人で行きます。つまり10回に1回は人と行くこともあるんですが、そのとき迷うのが、どこに座るか、です。
この問題は非常に興味深い。
ぼくも映画館はたいがい一人で行くんですが、ぼくの場合よっぽど客席がスカスカでもない限り一番後ろの席に座ります。なんでかっていうと、(ぼくのようなタイプの人間はそれなりにいるんじゃないかと勝手に思ってるんですが)普通に客が入ってる映画館で中央部分に座ってしまうとなんか圧迫感を感じてしまい無駄に緊張してしまうのです。で、無駄に緊張してるとお腹がなって「グールルル」となり、それによって周りが「うるせーなー」となったらどうしよう、とか考えてしまいます。あと、前の人の頭でスクリーンがちゃんと見えないとかいうのはよくある事だと思うんですが、そういう状況に置かれた時に、頭が邪魔だなーと思って自分の頭を左右にずらしたりしてると、そうした行動によって自分のうしろに座ってる人間から「なんだコイツ頭フラフラ動かしやがって邪魔だなー」とか思われたらどうしよう、とかそんな無駄な事まで考えてしまいます。肝心な所で気を使わないのに余計な所で気をつかい続けてもうかれこれ三十一年になるのですが、結局ぼくが肝心な所で気の利かない人間になってしまったのは、こういった余計な部分で気を使いすぎて気の残量が0になり、大事な場面に使う余裕がないからではないかと思います。
たとえば電車の席に座っていてヨボヨボの年寄りが乗ってきた時なんかに「ああめんどくさいけど席をゆずってやるか。いやまてよ、だがしかし俺様はいまこの年寄りに席をゆずってやろうと考えているわけだが、もしかすると俺様の斜め前に座っているあのサラリーマンもこの年寄りに席をゆずってやろうかと考えているのかもしれず、さらにもしかすると俺様の隣に座っている女学生もこの年寄りに席をゆずってやろうかと考えているのかもしれず、そのような状況下で俺様が無邪気に年寄りに席をゆずるという事はすなわちサラリーマンA太郎と女学生B子の電車内におけるプロジェクトⅩを妨害することに他ならない。さらに言えばこの年寄りは若者から席をゆずられる事を良しとしないアンチエイジングの頑固頭である可能性も否定できないので、俺様ならびにA太郎B子が座席をゆずる行為はこの頑固爺婆の加齢に対する闘争を真っ向から否定する事になり、自分はまだまだ若いのだと思っていた爺婆は俺様達に席をゆずられた事がトラウマとなり二度と電車に乗る事が出来なくなり明日から自分の家を出る事すら出来なくなり孤独死してしまうかもしれない
だがシカシ、まあそんな事になったとしても所詮他人であるからその悲しい結果を俺様が知る事はおそらくないのであるが、でも、知るとか知らないとかに関わらずこのような考え方で世界を眺めて見れば今まさに俺の一挙手一投足がこの年寄りの生死を決めてしまうといっても過言ではない、まさに俺様はいま人様の生死を左右する重大な局面に立たされているわけであるが、ちょっと待てよ、でも、そもそもこの爺婆は神経痛により膝が痛むので単純に席をゆずられる事を所望しているのかもしれないのだが、そうなるとまた別の問題が発生するわけで、話は先程に戻り、そもそも俺様はサラリーマンA太郎、女学生B子の崇高なるプロジェクトⅩを本来ならば温かく見守る立場、それが無事遂行されたあかつきには拍手を送る、しがない脇役でしかないにも関わらず、いきなり登場しプロジェクトを妨害し、油揚げを奪い取るトンビの役回りを演じてしまう事はすなわちA太郎B子の親切心に対する冒涜に他ならず、俺様の心ない行動によってA太郎は帰宅後やけ酒を飲み線路に飛び込み自殺するかもしれず、B子は覚醒剤に手を出しフラッシュバックに悩みマンションから飛び降りるかもしれず、A太郎B子のその後の人生を考えるとどう考えてもここで俺様があつかましくも爺婆に席をゆずる事は出来ない」
そんな四者四様の思惑が複雑にからまり合う電車内において、その後もA太郎はニンテンドーDSに熱中し(たふりをして年寄りに席をゆずるチャンスをうかがい)B子は携帯電話をピコピコやっっている(フリをして年寄りに席をゆずるチャンスをうかがっている)わけですが、ぼくはと言えば目を閉じて自分以外の三人の人生について深く考え込んでいるうちに、いつしか眠ってしまうのです。駅員に肩を叩かれ目が覚めた時にはすでに山手線は終点で、年寄りもA太郎もB子もすでに車内にはいません。仕方がないのでぼくは駅を出てコンビニを探しカップ酒を三つほど買って飲み、漫画喫茶で北斗の拳を十数年ぶりに読み返し、キンタマをかきながら雲のジュウザの人生について考えているといつの間にやらひと眠り、翌朝また眠い目をこすって仕事に出かけるのですが、仕事の昼休み中、携帯電話でミクシイを閲覧しながら、マイミクシイの■■さんの日記はおもしろいんだけど誤字脱字が目立つなあ、なんて自分の日記の誤字脱字を棚に上げながら他人の日記の添削を一通り脳内ですませた後、フト、「あれ?おれ昨日なにしに電車乗ったんだっけ?」てなことを考え、あ、きのうはつきあっている彼女の誕生日だったんで会いに行こうと思ってたんだわ、スッカリ忘れてた、なんてことを思い出すのです。
で、もちろん、その後で「ごめんごめん電車で考えごとしてたらきみの誕生日のことすっかり忘れてたわ〜」なんてメールを送る、その事すら仕事してる間にすっかり忘れてしまいますので、いつの間にか恋人からも別れをつげられたりしますが、別れた後も別れた事を忘れて元彼女に会いにいったりすると「あんた誰?」なんて言われてしまいます。ぼくは物事を何でも真面目にとらえてしまうので、面と向かって「あんた誰?」なんて言われてしまうと「え?おれって誰だろう?」なんて考えてしまうのですが、まあでもだがしかし肝心な所で気を使わないのに余計な所で気をつかい続けてもうかれこれ三十一年の男の人生とはこんなものです。さて、要するに何が書きたいのかといえば、何を書こうとしてたんだっけ、確か映画館の話をしていたような気がしますが、電車の話をしていたような気もしますし、恋人の話をしていたような気もしますが、全部忘れてしまいました。
追記
ぼくは一番後ろの席で見るのも好きだけど、壁にもたれて立って映画を見るのもけっこう好きです。で、他人と映画館に行った場合なんですけど、さすがに「席どうしよっか」と聞かれて「立って見ようぜ」とも言えないので「好きなとこでいいよ」と答えてます。さて、さっそくですが、今までの話は全部忘れて下さい。いま思い出したのですが、ここからが一番大事な話です。
で、何が書きたいのかというと、この前、映画館に行ったときに、私の直後に切符買ってたおじさんが迷わず私と同じ列を指定していて、思わずときめいた、というそれだけの話なんです。
ぼくはそのおじさんの名前を知っています。彼の名は平民金子。すなわちハテナのid:heimin。そう、ぼくの事です。実は一番後ろの席が好きとか立ってみるのが好きとかそういうのは全部、四月になると毎年ぼくの頭頂部には桜の花が咲きますとか、切った足の爪をあつめてそれをお湯に溶かしてスイトンの代わりに食ってますとか言うくらいのうそっぱちで、ぼくは本当は前から5、6列目の最初の段差があるあたりが一番好きなんです。今度デートしませんか?
