池袋にて仮名・蒔岡雪子に会う。十一月末以来だ。
俺とのタイマン勝負を望んだ彼女の希望に従って、本日はラバウルの英霊百八人部屋に
残し、一人ノコノコと出かける事にした。酒場「ふくろ」は俺の好きな店だ。俺はホッ
ピーをたのみ、雪子は烏龍ハイをのんだ。俺は俺の俺たる俺なりの何事かを彼女に話し
たのだと思う。いつのまにか二人酩酊し俺は言う。その昔俺はラバウルにいたんだよ、
たくさんの軍人たちといっしょに、俺もまた、一人の浪漫派詩人として、おくにのため
にたたかっていたんだ。浜辺には首から肩にかけて蜘蛛の巣をつけた呑気な原住民がい
てね、俺は彼の家族に歓待され、そこで寝泊まりし、毎日ヤムイモばかり食っていた。海
に入ればそこには生きている人間と銃を持ったまま死んでしまった詩人がいて、あの世
とこの世にもまた国境があるのだという事を知った。その境目には赤い卓袱台があって
俺たちは鳩ポッポとか赤とんぼとか君が代をうたいながらチンチロリンをやっていたん
だ。雪子はチンチロリンのルールを知らないんだったね、それはおまえの勉強不足だ
よ、ハハハ。そのこめかみを、撃ちぬいてやろうか?
なんて事を俺はしゃべっていた。雪子はカウンターに肘をつき、眠っていた。