今月は腰がぬける程ひま月であったのだが昨日久しぶりに労働現場に行ってみたれば帰り際ひどく肩が重かった。最近だんだんと寒くなってきてやっぱり掛け布団と毛布を買わねばつらいなあと考えつつも、まだ大丈夫だろうと俺は薄っぺらい寝袋の中、一昨年買ったユニクロ製ダウンジャケットを着こんで眠る事にし、横になりながら、ああこれなら温かい、いやむしろ暑いくらいだなと満足しながら図書館で借りた三好豊一郎詩集*1を呆け眺めている。
空は青い
空は他人の恋でいっぱいだ
おれはおれの悲しい肺臓の重たい石に手をあてる
それをたたくと錆びた蠣殻の音がする
それはつめたい
それは動かない
おれの生きている肉体の中でその部分だけが死んでいる
死んでしまった地球の半分
(三好豊一郎/四月馬鹿)
昼過ぎ、部屋の扉を蹴飛ばされ、その音で目が覚めた不機嫌な俺の前に、紙包みを持って立つ小野洋子がいた。ベーグルを作ったので持ってきてやったのよ、と。おまえはベーグルベーグルと言うけれどそのベーグルというやつがどういう物だか俺にはまったくわからない、それはベーゴマの仲間かね。あい変わらず金子君の言葉は老人趣味でにおうなあ、ベーグルっていうのは平たく言えば食べ物の事、早く食べてみなさいよ。と、洋子は紙包みを開けながら、寝ぼけへたり込んでいる俺の前に座り、色々と、みせる。ああなる程パンの事ですか、このパンの事をお前たちの種族はベーグルと呼ぶのだね、どれ、ひとつ頂こうか、しかし、お前のベーグルは、随分、固い、とみえて、老人、にはちと、ツラ、イ、パ・・・、ンだね。と、俺はなかなか噛みちぎれない通称ベーグルを口に運び、格闘していた。いやはや、お前のベーグルはまったく、ゴムマリのようだ、金子光晴の「おっとせい」にこおゆうフレーズがあるね、『いん気な弾力。/かな
しいゴム』。ハハハ、お前のベーグルは、ここに出てくる「おっとせい」のようだナ。・・・と、ここまで何の気なしに俺がしゃべっていると、眼前の小野洋子は顔色を変え、怒りをあらわにする。もうあんたには何も作ってやらないと。もうあんたの部屋を訪れる事はないであろうと。い、い、いや、チョチョ、チョ、一寸待ってくれたま
え、オノ・ヨーコ・・・。
そのこころのおもひあがってること。
凡庸なこと。
(金子光晴/おっとせい)