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『極北の海獣』

 

まず、アフリカゾウの脇を抜けて、ドアから中へ入ろう。壁際に、魚やカエルや鳥が、皮のない姿で集められている。薄気味悪い部屋といえるかもしれないが、人々は気にするふうもなく、展示ケースから展示ケースへ熱心に歩き回り、骨や解説プレートを眺め、やがて、だれもがそれに目を留める。


こんな書き出しから思い浮かべる光景は、「自然史博物館 ヘルシンキ」という見出しがなければ、どこの博物館であってもおかしくないものだ。

もっとも私は、この本を訳者に惹かれて手にしたクチなので、原書がフィンランド語であることはあらかじめ知っていた。

ところが、ページをめくると博物館の場面から一転して読者は求められることになる。

 ベーリング海を想像してほしい。シベリアとアラスカのあいだ、太平洋と北極海のあいだの、巨大な水の塊を。一七四一年のベーリング海を。


そこでパッと頭に世界地図を思い浮かべることが出来なくても心配はいらない。
あわててページをめくっても地図は現れないが、本の帯の裏面に、物語の舞台となるフィンランド〜ロシア〜アラスカ地域の地図が印刷されているという親切設計だ。

ベーリング率いる大北方探検隊は、サンクトペテルブルクを出発し、東シペリアの玄関口エニセイクスに到達するが、その時点で既に五年もの歳月を要していたというのだから、その道のりがいかに困難を極めていたか想像に難くない。
いくつかの偶然が重なって、一行が海にこぎ出す前に、メンバーに加わることになったのが、それまでカムチャッカで研究に従事していた博物学者にして神学博士、ゲオルグ・ヴィルヘルム・シュテラーだった。

壊血病との闘い、船の難破、無人島への漂着、ベーリングの死、未知の生物との遭遇。
実際に食した量の5倍も狩られたステラーカイギュウ、毛皮目的で乱獲されたラッコやキツネ…。
第一部は18世紀の史実に基づいた海洋冒険譚であると同時に、知的欲求、食欲、征服欲、物欲……人間の果てしない欲望とそれがもたらす結果を突きつけられる恐ろしい物語でもある。

続く第二部は19世紀ロシア支配下のアラスカで、第三部は現代フィンランドと、物語の舞台は広範囲に及ぶが、そのいずれにも圧倒的な存在感をもっているのが、乱獲され、幻の海獣として探し求められ、絶滅種としてその骨格が博物館に展示されることになるステラーカイギュウだ。

史実を基にしたフィクションではあるが、絶滅した生き物とその生き物をめぐるあれこれを語りあげることによって、読者の心の中に幻の海獣を蘇らせると同時に、人間の愚行の結果をこれでもかと突きつけ、過ちを繰り返す愚かさを告発する、そんな物語でもある。

 




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