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『レス・ザン・ワン――詩について 詩人について 自分について』

 

「私はユダヤ人です。それからロシア語の詩人で、英語のエッセイストです。もちろんアメリカ市民でもある」かつてインタビュアーの質問にこう応えたのは、1987年にノーベル文学賞を受賞したヨシフ・ブロツキー(1940-1996)。
本書は1972年にソ連からアメリカに亡命した後に書かれたエッセイ、書評、序文、講演禄、講義録などを集めた最初のエッセイ集Less Than One(1986年)から紙幅の都合で割愛された1篇を除く17篇を翻訳収録したブロツキーのエッセイ集だ。

むかしむかし、一人の小さな少年がいた。少年は世界で一番不公平な国に住んでいた。(p34)
10代で学校を辞め工場出働き出した少年時代を回想する自伝的エッセイ「レス・ザン・ワン」

 彼女の父親は、娘がサンクト・ペテルブルクの雑誌に何篇かの詩を掲載しようとしているのを知ったとき、彼女を呼びつけ、詩を書くことには反対しないが、「敬うべき良家の名を汚さぬよう」筆名を使ったらどうかと諭した。娘は承諾し、こうしてアンナ・ゴレンコではなく「アンナ・アフマートワ」がロシア文学に加わることになったのである。(p36)

かの詩人アフマートワの英訳詩集の序文として書かれたという「哭き歌のムーサ」は、アフマートワへの親愛と経緯にあふれていて、この序文のためだけでも詩集を買う価値がありそうだ。

ロシア文学はまさにここ、ネヴァの岸辺で誕生したのだ。もしもよく言われるように、すべてのロシア作家が「ゴーゴリの外套から出てきた」のならば、この外套は他ならぬここサンクト・ペテルブルクで十九世紀初頭に、かの貧しき役人の肩から剥ぎとられたということを思い出すのも、それだけの価値のあることだろう。(p86)

生まれ育った街“レニングラード”について語る「改名された街の案内」は、まさに芸術の都へのいざないだ。

ドストエフスキーを読むと人はあっさり理解するだろう--意識の流れとは意識から出るのではなく、人の意識を変化させたり、別の方向に向け直したりする単語に由来するということを。(p176)

「元素の力」で展開されているドストエフスキー論、ごく面白い。

プラトーノフの小説は、背景を従えた主人公を描くのではなく、むしろ背景のほうが主人公を貪り喰らうところを描きます(p326)

 

プラトーノフはまずとても馴染みのあるやり方で一文を書きはじめるため、読者は残りの部分の趣旨をほとんどすっかり予測できるような気さえします。ところが…(中略)。ふと気がつくと読者は、あれやこれやの単語が指し示す現象の無意味さに無防備に接近して、閉じこめられ、独りぼっちのまま取り残されてしまっているでしょう。(p322)


トルストイドストエフスキーロシア文学史を紐解きながら、「空中の大惨事」で展開されるプラトーノフ論は難解ではあるけれど、これまたすごく面白くて、何度も読み返してしまう。そしてまたなかなか辛辣なソルジェニーツィン評も興味深い。

99行からなる詩を1行1行について検討することによって、叙情詩一般の戦略についてのみならず、この詩の作者について大事なことをいっそう良く知ることができる……ブロツキーが非常に影響を受けたという詩人の作品について解説する「「W・H・オーデンの一九三九年九月一日」について」には驚かされた。
今までこんな風に詩を読んだことはなかったし、「詩を読む」ということについてこれほど深く考えさせられたことは未だかつてなかった。

詩人とは、どのような言葉もそれで終わりにならず、思考の出発点となるような人間である。(p295)「ある詩について」の中で語られたこの言葉を改めて思い起こす。

 作家が自分の母語以外の言語に頼ろうとするとき、その理由は、コンラッドの場合のように必要に迫られてであったり、ナボコフの場合のように激しい野心からであったり、あるいはまたベケットの場合にように、さらに大きな異化効果を求めるためであったりする。(p416)

ブロツキーの場合はと言うと……。
先日読んだジュンパ・ラヒリの 『翻訳する私』の中に登場したブロツキーの名前を含めた一文を思い浮かべながら、言語を選ぶということについても想いをはせる。

解題、訳者あとがきを含めると550頁とボリュームのある1冊で、正直読み切れるかどうか自信がなかったが、読み始めたら面白くて、どっさりメモを取ってもまだとり足らない。この先、何度も読み返すことになりそうだ。




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