収録されているのは、「青い麦」「踊り子ミツ」「夜明け」の三作品。
今回私のお目当ては「踊り子ミツ」。
『シェリ』が発表された前年1919年に出版された作品で、第一次世界大戦を背景に、パリのミュージック・ホールの踊り子ミツと青色の軍服を着た少尉との「恋」を描いた中編だ。
書簡体小説だと聞いていたのだけれど、厳密にいうと複合形式。
物語の導入部、ミュージック・ホールのミツの楽屋で2人が出逢うシーン前後は戯曲形式。
前線に赴いた青色の少尉とミツが物理的には離れているにもかかわらず、次第に距離を縮めていく様子と見事なラストは、11通の手紙が織りなす書簡体形式。
途中に挟み込まれる再会した二人が一緒に過ごす一夜は三人称の物語形式。
こうした複合的な形式にもかかわらず、書簡体小説だと認識してしまうのは、質量ともに手紙の部分が圧倒的な存在感を持っているからか。
それまで手紙など書いたことがなかった、それまで恋などしたことがなかった、踊り子のミツが綴る手紙のなんと切ないことだろう。
わたしは今宵、泣きました。こんな気持ちになるのは、ここのところなかったことです。ずっと憂鬱な気分でいたのですが、わたしが泣いたのはそのせいではなく、「ミツ」の手紙を読んだからです。あのフィナーレは見事でした。(『地中海レシピ』マルセル・プルーストからコレットへより抜粋)
先日読んだ 『コレットの地中海レシピ』には、コレットを敬愛していたというマルセル・プルーストがコレットに宛てて書いた1通の手紙が収録されていたのだが、これはこの小説を読んだプルーストのファンレターともいえるような内容だった。
恋に身を焦がした踊り子のミツが、恋することでより聡明になっていく、その過程が心に残る物語だ。
(2020年04月04日 本が好き!投稿)