(いやいや恋人に一番、二番って、番号振っちゃだめでしょ!)と思いつつ、作者読みで手に取った本のページをめくりはじめて、まずはホッとする。
なんのことはない一番というのは人の名だった。
道沢一番27歳。
「何事にも一番になれるように」と父親が付けた名前だ。
父と折り合いの悪い兄・勝利と違って一番は、「男らしく生きろ」という父の期待に応えることで、スポーツに学業、就職と、これまでの人生、なかなかうまくやってきた。
だから父から受ける多少の重圧や口うるささは許容範囲だと思っている。
そんな順風満帆のはずの彼の人生に転機が訪れる。
身も心も相性抜群とばかり、二年の交際を経てプロポーズした一番に対する恋人の千凪の返事は「好きだけど、愛したことは一度もない」というものだったのだ。
千凪は自分がアロマンティック・アセクシャル(他者に恋愛感情も性的欲求も抱かない性質)であり、一番に好意は持っているが愛してはいないし、セックスはもとより、手をつなぐことさえも本当は苦痛だったと打ち明けるのだった。
衝撃を受ける一番だったが千凪への想いは絶ち難く、千凪もまた「普通」でない自分に悩んでいることを知って、「契約結婚」を提案するのだった。
デビュー作『君の顔では泣けない』を読んで以来、追いかけると決めている作家君嶋彼方氏の3作目。
男女が入れ替わってしまうとか、特殊能力を持っているとか、これまでの作品にみられたような不思議テイストは一切無いが、これまでの作品同様、心の機微を丁寧に描いた繊細な作品だ。
「普通」ってなんだろう
「愛する」ってどういうことだ
「愛」に決まった形はあるのか
「一番」であることと「普通」であることは両立できるものなのか
頭の中でベタな考えをこねくり回しながら、思わずキュンとしたり、ホロッとしたり、読者はまたもやすっかり翻弄されてしまう。
程度の差こそあれ、きっと誰もが心のどこかで感じている「普通」に対する違和感を、誰にもでもはっきり分かる形にして描き出す、そういうことが本当に巧い作家だ。