イギリスの南西のはしにはコーンウォールという名の半島があって、その半島の先端近くにゼナーという小さな村がある。
この本にはこの村を舞台にした5つの物語が収められている。
こんな話だ。
毎年夏になると、お父さんお母さんと4人の兄さんと共に休暇を過ごしにこの村のコテージにやってくるチェリーという名の女の子は、その夏、ピンク色で色も形も長さもそろったタカラガイを拾い集めて、長い長いネックレスを作ることにした。(「巨人のネックレス」)
ゼナーのフォエージ盆地には、何代にもわたって大いに栄えてきたベルーナ家の農場があったが、いま、この農場は重大な危機に見舞われていて破産寸前。
一家の主はとうとう農場を手放すことを決意し、二人の子どもたちはショックを隠せない。そんなとき、どこからか苦しげな声が聞こえてきて…。(「西の果ての白馬」)
ウィリアム・トリガーセンは、いつも世界中の人たちの苦しみを一人で背負っているかのようなつらそうな顔をしている、10歳の男の子。左足が内側に曲がってねじれているせいで、父や兄達にも疎んじられ、クラスメートたちからもいじめられていたのだ。(「アザラシと泳いだ少年」)
トレメッダ農場のバーベリー老人は、村の人々から賢者として尊敬されていた。
夜明けと共に起き、日暮れと共に寝る。土地を心から大切にすれば、土地も人を大切にしてくれる。そう信じるおじいさんは、昔ながらの農機具を使い、除草剤や殺虫剤を使わずに、農業を営んできた。そんなおじいさんは、自分の命が尽きるとき、跡継ぎの一人息子に、長年自分が欠かさず守ってきたことを、息子の代でも続けるようにと約束をさせたのだが、息子の方ははいはいと口約束はしたものの、本気で守るつもりはなかった。
(「ネコにミルク」)
ゼナーの村を見おろす丘のてっぺんの荒れ地には、ひっそりとした一軒家が建っていて、村人はだれひとり、この家に近づかない。その家には「変人」として知られるミス・マーニーが住んでいた。子どもたちはこのおばあさんを魔女だと思っていて……(「ミス・マーニー」)
豊かな自然の中で育まれた5つの物語には、自然の厳しさや人と自然が共存することの難しさが含まれていて、独特の苦みがあるのだが、同時にそうした現実的なあれこれの中に、ノッカーと呼ばれる小鬼や魔女や幽霊が当たり前のように溶け込んでいて、あの村にいけば、今でもきっと……という気持ちになってくる。
丸々一冊読み終えたあとの読後感は、決して苦すぎることなく、むしろ優しい口当たりが心地よい。
マイケル・モーパーゴの素晴らしさを改めて実感できる1冊。
短編集ではあるが、かならず順番どおりに読んで欲しいと最初にことわりがきがあるので、ゆめゆめ反抗心など起こさずに、一つ一つじっくり読み進めるのがお薦めだ。