知らない人や大勢の人の前で話すことは、ビジネスの場ではよく起こりうることです。
しかし、社会に出るまでに経験することが少ないのもまたよくあることです。
多くの人は、社会に出るまで、「大勢の前で話す」「知らない人に説明する」「相手の意識を動かすように話す」という経験をほとんどしていないのではないでしょうか。
学校では「知識を覚える」「正解を答える」ことは多くても、「話を組み立てる」「相手の立場を考えて話す」「聞き手の反応を見ながら伝える」といった訓練は、あまり多くないのが現実です。
そのため社会に出てから、「営業」「会議での発言」「人前での説明」「プレゼン」などで初めて「話す力」の重要性に気づく人も少なくありません。
そしてそのとき多くの人は、「自分は話すのが苦手だ」と感じてしまいます。
「何を話せばいいか分からない」
「頭が真っ白になる」
「うまく伝わらない」
「たいしたことを話せていなかったんじゃないか」
でも実際には、苦手なのではなくて、単に訓練する機会が少なかっただけということも多いのです。
スピーチは、ただ話すだけではなく「相手の意識を動かす技術」です。
この記事では、相手の心を動かすスピーチの考え方と、その力を伸ばすトレーニング方法について紹介しています。
- 1. スピーチの目的とは何か
- 2. 相手の心を動かすための基本
- 3. スピーチ力を鍛えるトレーニング「インスタントスピーチ」
- 4. インスタントスピーチの効果
- 5. 話を作る力は訓練で伸びる
- 6. 空気を読むとは「話さないこと」ではない
- まとめ
1. スピーチの目的とは何か
スピーチの目的は、「聞き手(相手)をA地点からB地点に連れて行くこと」です。
例えば、「興味がない人を興味がある状態にする」「やる気がない人を一歩行動させる」ことです。
最初は興味がなかった人が興味を持つ。
知らなかった人が知りたいと思う。
やろうと思っていなかった人が、やってみたいと感じる。
このように、相手の意識や気持ちの位置を動かすことがスピーチの目的です。
そのためには、どの話が響くのかという仮説を持って話題を用意し、話をしながらあの手この手を使って、目的地(B地点)まで連れて行くように考える必要があります。
2. 相手の心を動かすための基本
①相手にかける言葉を見定める
まず大切なのは、どんな言葉をかければ相手が動くのかを考えることです。
例えば次のような視点です。
・どんな言葉なら相手が「やってみたい」と思うか
・どんな話ならポジティブな気持ちになるか
・相手は何が怖くて、何を嫌がっているのか
スピーチは、自分が話したいことを話すだけでは十分とは言えません。
相手がどんな言葉なら受け取れるのかを考えることが重要です。
②相手のことを知る
相手を知ることも欠かせません。
・相手をどれくらい知っているか
・相手が何を欲しいのか
・相手が何を嫌がっているのか
相手のことを理解した上で情報を集め、その上で話を組み立てていきます。
大勢の前で話すなら、その集団や組織について、ある程度は知っておくことです。
スピーチは、相手を理解するところから始まると言ってもよいでしょう。
③相手の得になる情報をプレゼントする
スピーチでは、相手にとって価値のある情報を届けることも大切です。
それも一つの技術のうちと言えるでしょう。
例えば次のようなものです。
・ポジティブな未来につながる情報
・ネガティブな状況を回避できるという情報
逆に言えば、相手にとって意味のない情報は話さないという姿勢も必要です。
④ビフォーアフターで想像させる
話を聞いて「なるほど」と理解しても、行動につながらないことがあります。
なんとなく分かったりイメージが湧いただけではやる気につながらない、ということに近いと思います。
そのようなときは、エピソードトークでビフォーアフターを伝えると効果的です。
・以前はこうだった
・しかしこう変わった
という流れを伝えることで、聞き手は自分のことのように想像しやすくなります。
そこで初めて「自分もそうなりたい」と思う気持ちが生まる可能性ができるのです。
また、話し手にとって重要なのは、相手の頭の中の声をどれだけ聞けるか、つまり、汲み取れるかどうかということです。
これが「聴く力」です。
例えば次のような配慮です。
・聞き逃していそうなら繰り返す
・言葉の意味が分からなそうなら解説する
・言葉が足りていなそうなら補足する
・イメージしにくそうなら例え話をする
相手の理解に合わせて伝え方を変えることが、伝わるスピーチにつながります。
これはまた、ビジネスにもつながるコミュニケーションスキルにもなります。
人々は日々、「良くなりたいと思えるもの」「日常的に必要なもの」を購入します。
ですから、これはそのための訓練とも思って磨いていくとよいでしょう。
こうした話し方の力は、意識してトレーニングすることで伸ばしていくことができます。
その練習の一つが、次に述べる「インスタントスピーチ」という方法です。
3. スピーチ力を鍛えるトレーニング「インスタントスピーチ」
スピーチ力を高める方法の一つに、インスタントスピーチというトレーニングがあります。
ルールはとてもシンプルです。
①自分が伝えたい言葉を一つ決める
②その言葉を使えそうな体験談と結びつける
この二つをつなげて、自分の話を構成して発表するというものです。
結びつける体験の例としては、例えば次のようなものを事前にいくつか用意しておくとよいでしょう。
・自分を褒めてあげたい話
・涙した話
・驚いた話
・私は○○の達人
・恥ずかしい話
・私、凝ってます
このようなエピソードをいくつか準備しておくと、話を作りやすくなります。
一昔前にはよくあった、テレビ番組のサイコロトークみたいですね。
4. インスタントスピーチの効果
①脳が活性化する
脳は、答えが見つからない問題を考えているときに最も活性化すると言われています。
インスタントスピーチでは、個々の体験をもとに話を作るため、明確な正解がありません。
さらに、話を構成しながら言葉を選んで話していく必要があるため、脳に適度な負荷がかかります。
また、うまく話せなくても問題ありません。
話そうとしているだけでも十分トレーニングになるのです。
②相手の意識を動かせるようになる
自分の伝えたいこととエピソードを逆算してつなげられるようになると、相手をA地点からB地点に連れて行く話し方ができるようになります。
例えば次のような変化です。
・知らない → 知りたい
・興味がない → 興味がある
・面白くなさそう → 面白そう
・欲しくない → 欲しい
・行きたいと思わない → 行ってみたい
エピソードを通して相手に自分のことのように想像してもらうことで、共感や追体験が生まれます。
5. 話を作る力は訓練で伸びる
スピーチでは、次の二つの力が大切です。
①自分が伝えたいことからエピソードを結びつけて話を作れる
②エピソード例から自分の話を組み立てる
どちらも、トレーニングを続けることで身についていきます。
ここでも、ポイントはやはり「自分の連れて行きたい場所に連れていくように考えること」です。
言葉や体験を意識してつなげようと考えながら話すことで、やがて自然に結びつけられるようになります。
そして、日常の出来事や今日その場所で起きた出来事に自分の大切にしている考え方を重ねて話すことができれば、そこから共感してくれる人やファンが生まれることもあるのです。
私自身も、最初からうまく話せたわけではありません。
実体験ですが、音楽指導をする時に、練習の前後にメンバーの皆さんの前で話すことがあります。
相手は少なくても10人くらい、多ければ100人くらいになることもあります。
みんな「良くなりたい」「上手くなりたい」「結果を残したい」と一生懸命な人達です。
ですから「私もできる限りのことは伝えたい」と考えて話します。
もちろん、最初は緊張してしまい、話し終わった後に「自分は何を言っていたのだろう」と複雑な気持ちになってしまったものです。
しかし、こういうものは場数により慣れていきますし、場面や時期により話す内容も変わるものです。
どうあれ、自分が話すことで「音楽にもっと興味を持ってもらいたい」「みんな今日はとても良かったよ」「実はすごいことをやっているんだよ」と伝えたいことに変わりはありません。
だって、一生懸命なメンバーの皆さんに「自分の技術の限界に挑戦してほしい」と伝えたいなら、
「私も最初は下手だったけど、できていない部分を切り出して集中的に繰り返すなら、この練習方法があるよ」
というような実体験に基づく話を、一つでも多く伝えてあげたいじゃありませんか。
だからこそ、私なりに言葉を選び、言葉を尽くし続けてきました。
スピーチを生業としている人には遠く及ばないかもしれませんが、それでも続けていくうちに、自分自身も訓練されていくことになりました。
そうして最初のうちは「しゃべる順番、内容、話し方」ばかり気にしていた自分が、「人の動かし方、伸ばし方」を気にするように変わっていったのです。
「うまくいかない」「なんか恥ずかしい」は、最初のうちだけです。
ですから、どうか恐れずに向かっていってください。
6. 空気を読むとは「話さないこと」ではない
もしかしたら、「空気を読むから話せない」と思うこともあるかもしれません。
しかし本当は、「空気を読んだからこそ話す内容を選ぶ」ことが大切です。
または、「空気を読み切って話す」こと。
スピーチは、
・話を上手に組み立てる訓練
・人前で話す度胸をつける訓練
にもなります。
ビジネスで考えれば、「興味がない」を「あなたから買いたい」に変える練習とも言えるでしょう。
まとめ
スピーチの目的は、「相手をA地点からB地点に連れて行く」ことです。
そのためには次のポイントが重要です。
・相手に響く言葉を考える
・相手のことを理解する
・相手の得になる情報を伝える
・エピソードでビフォーアフターを想像させる
そして、インスタントスピーチのようなトレーニングを通して、伝えたいことと体験を結びつけて話を作る力を鍛えていくことができます。
話を作る力は、生まれつきの才能ではなく、訓練によって伸ばせるものです。
少しずつでも実践していくことで、相手の心を動かすスピーチに近づいていくでしょう。
もし実際に相手をA地点からB地点へ連れていくことができ、次への行動へとつなげるきっかけになれたら、それは「誰かの人生に影響を与えた」ということです。
そうなれば、それはもはや「ただスピーチが上手くなった」というだけでなく、「自分の言葉を紡ぎ、周囲を動かす力に変えられる人」になりつつある。
そう言えるかもしれません。