はしご酒(Aくんのアトリエ) その八百と七十一
「アキラメロ ト アラガウ ト ダイゴセイリョク ト」
「ただし」
ん?
「最後の砦」
んん?
「希望の星でもあるグループ、第五勢力。の、存在を忘れるわけにはいかない」
第五、勢力?
「無難とか損得勘定とかから、あるいは、あの、長いモノにはマカロニウエスタンから、解き放たれた、第五勢力」
解き放たれた第五勢力、か~。
「しかし、当然の如く、希少種。どころか絶滅危惧種。まさに風前の灯、な、わけ」
だ、ろうな。
当時を振り返ってみても、自分自身がそうであったように、あの頃のあの時の教室にも、第五勢力の存在など影も形もなかった。
「なんだけれど」
ん?
「女子トリオ」
んん?
「完全に忘れていた、というか、記憶から消し去っていた、女子トリオ、そう、女子トリオだったんだよな」
女子、トリオ?
「同い年なのに3年ぐらい留年しているのではないかと思ってしまうぐらい、メチャメチャ、お姉さん。ナゼか妙に正義感が強く、ヤタラとシッカリしていて頭が良くて、口も立つ」
あ、あ~、いた。私のクラスにも、いたような気がする。そんな感じの、メチャメチャお姉さん。
「一度、彼女らから、今になって思えば至極真っ当な、トリオ一体型波状口撃を喰らったことがあるものだから、無意識の内に記憶から消し去っていたのかもしれない。不都合な記憶ってのは、大抵の場合、そうやって忘却の彼方へ消し去りがちだからな」
至極真っ当な波状口撃を喰らったというAくん。いったい、どんな少年だったのだろう。興味津々。バカみたいに調子に乗ってスカートめくりにでも興じていたか。
「ひょっとしたら、あの女子トリオ、第五勢力だったんじゃねえか、ってな」
なるほど、そうかも、そうかもしれない。
「でだ。ナゼ、そんな大昔の話をしたかというと、コレ」
これ?
するとAくん、本棚の前に積まれていた本の間から一枚の紙をテーブルの上に。
選挙用のチラシ?
眩いばかりに朱色の、ソコには、「私は抗(アラガ)う」と。
「たまたまコレを目にした時に、ナゼか、突然、完全に忘却の彼方に葬り去っていたはずのその女子トリオのことを思い出した、というわけ」
「私は抗う」が、忘却の彼方から、記憶を、女子トリオを、呼び戻したか。
「おそらく、正しいとか正しくないとか、好きとか嫌いとか、応援しているとかしていないとか、の、その前に、圧倒的な少数派が、弱者が、圧倒的な多数派に、強者に、抗う、その姿勢が、僕の中の遥か彼方の記憶のその再生ボタンを、プチッと押してくれたのだろうよ」
そういえば。
古今東西、圧倒的な多数派たちに共通する決めゼリフがある、と、ある著述家が宣っておられた。
ソレが、コレ。
「諦めろ」
そう、諦めろ。
You should give up already.
もういい加減、諦めはったらどないどす。
・・・
しかも、しかもである。
更に、ソコに、「批判ばかりして」とか「悪口ばかり」とか「意地悪ね」とかといった側面からの口撃も加わってきたりするものだから、いつだって、少数派は、弱者は、タイヘンなのである。
おそらく。
そんな多数派の、強者の、戦意喪失狙いの決めゼリフ、「諦めろ」、に、対抗できる最後の砦、希望の星、起死回生のクロスカウンター、ソレが、その、「私は抗う」なのだろう。
「己の中の劣化し弱体化した想像力たちを掻き集めて、一度、想像してみればいい。誰も抗わない、どころか、誰も抗えない、抗うことなど許されない、右向け右の、そんな諦めに満ち満ちた世界を。そして、そんな世界に生きる、生きなければならなくなった、ピーポーたちのコトを」
そう、気持ち悪いぐらい静かに宣うと、Aくん、生マッコリをグラスに3分の1ほど注ぎ入れ、ソレを一気に呑み干した。(つづく)