はしご酒(Aくんのアトリエ) その七百と五十四
「ロクセン ヨンヒャク サンジュウ ヨン」
さすがにソレはダメだろ。な、そんな「さすがにソレはダメだろ」が、一つ、私の中にある。
ソレは、数字。数字に纏(マツ)わる、けっして捨て置けないコト。
もちろん、数字は、所詮、数字、だと、宣う方もおられるかとは思うが、されど数字、その数字の一桁まで疎(オロソ)かにしたくないと、軽んじたくないと、深く、深く思われている方も、当然の如く、いる。
私は、この両者の違いに、この両者の間にあるモノに、トンでもなく捨て置けないナニかを感じずにはおれないのである。
「ソコに深く関わっていればいるほど、そのコトを深く受け止めていればいるほど、その数を、人は、けっして軽んじないと思うのです」
「その数を軽んじない?」
さすがのAくんも、顔中、豆鉄砲を喰らった鳩、感、満載。いつもの仕返しというわけではないが、なんだか、ちょっと、気分がいい。
「たとえば、病院の院長先生。トンでもない感染症によって亡くなってしまわれた患者の数を、『だいたい』とか『約』とかといったようなザックリとした言い方、まず、しませんよね」
「ま、しないな」
「『数』を軽んじることは『命』を軽んじること。の、ような気がして」
「単なる数字ではない。その数字の一つひとつが『命』なんだ、ということだな」
さすが、Aくん。すでに、もう、彼の顔から鳩たちは、綺麗サッパリ飛び去っていた。
「そうです、そういうことです」
想定外の高速さで理解してもらえたものだから、更に一層、気分がいい。
「ましてや、大いなる責任がある立場の人間が、その数を適当に扱うなどということがあっては、絶対に良くないと思うのです」
「その立場だから、という言い方には抵抗があるが、その立場なら、尚更、一般ピーポー以上に、命の数字を疎かにしてはいけない、とは、思う」
命の、命の数字、か~。
「6434」
「ん?」
「あの震災から、もう、随分と時間だけは経過していますが、だからといって、あの震災によって奪われてしまった6434人の命は、けっして、軽んじられないはずです」
「あ~」
「私は、この、『6434』という数字は、ナニがナンでも絶対に、軽んじられてはいけない数字だと思っています」
Aくん、大きく頷(ウナズ)く。
「なのに、平然と、『4600』、4600人と言い間違える、読み間違える。ソレだけでも充分に罪深いとは思いますが、100歩、いや、1000歩譲って、間違いは誰にでもあると擁護できなくもない、かもしれない。しかし、そのあと、訂正もしない、周りもナニも言わない、では、あまりにも酷(ヒド)過ぎると、あまりにも人の道に外れると、どうしても、私には思えてならないのです」
再び大きく頷いたあと、Aくん、「なんの後ろめたさも感じることなく、そう言ってのけれる、のけれてしまう。ソレもまた、例のあの、新自由主義、的、だと、言えそうだな。実に悲しいことだが、多分、命の重たさを感じ取れないのだろう」、と。
命の重さを感じ取れない、か~。
・・・、ふ~。
仮に、もし、Aくんが言うように、命の重さを感じ取れない人間であるなら、そして、そんな人間が、仮に、もし、行政に携わっているとするなら、申し訳ないが、もう、コレ以上の不幸はないと思う。(つづく)