はしご酒(Aくんのアトリエ) その六百と六十三
「イチオク ソウ アブクゼニ!」
「一億総泡銭(アブクゼニ)!」
ん?
「コレまでの常識を覆す、天下無敵の五文字熟語」
んん?
「コスパ、タイパ、で、投資で儲けて楽しく暮らす」
と、Aくん、突然の御乱心。
「ダ、ダメでしょ、それ」
ココは一歩も引くわけにはいかないと、その御乱心にモノ申す、私。
「ナゼだよ。上司にエラそうに罵倒されて、場合によってはパワハラもセクハラもされて、オマケに残業まみれ、給料だって上がらない。どころか、アッサリと首まで切られたりもする。ぐらいなら、投資で、サクッと、って、思いたくもなるだろ、普通」
そんな最悪のケース三昧で居直られてしまうと、たしかに返す言葉はない。言葉はないけれど、ソレは、更なるド級の最悪の、その幕開けとしか私には思えないのである。
そう、更なるトンでもないほどド級の、最悪の、幕開け。
「でも、やっぱり、絶対にダメだと思います」
「だよな」
へ?
「汗水流して働くコトとの決別は、多分、いや、確実に、その国の終焉に繋がるだろうから」
とりあえず、ホッとする。
Aくんの御乱心、どうやら見せ掛けの、偽装の、御乱心であったようだ。
「汗水流して働くコトは、『命』に、『ライフ』に、直結する、ありとあらゆる『ライン』そのもの。そのライフラインを軽んじて、人任せにして、ナニが『一億総泡銭』だ。バカも休み休みに言え、って話だよな」
命のライン、か~。
「インフラのみならず、たとえば、『食』も、ナニがナンでもドウにかしなければならない必要不可欠な『生きる』ための『ライン』だと思います。そうしたラインに目を向けず、ただ漠然と、泡銭で面白可笑しく、などと、皆が皆、マジで考え出したとしたら、おっしゃる通り、もう、間違いなく、この国は、終焉へと突き進んでいくでしょうね」
「さすがに、皆が皆『一億総泡銭』などということはないだろうけれど、残念ながら、あの、時の権力者たちの世界に限っては、限りなく皆が皆『泡銭でウハウハ』かもな」
泡銭でウハウハ、か~。
ふ~。
ナンの抵抗もなく、あの世界ならソウかもしれないな、と、思えてしまうだけに、無性に、無性に居た堪れない気持ちになってくる。(つづく)