YouTubeのおすすめにサカナクションの『怪獣』が上がっていた。
「そういえばチ。の主題歌になってたんだっけ」と初めて聴いてみて、やっぱり良い曲を作るなぁとしみじみ思った。
去年アニメ化した『チ。─地球の運動について─』は途中まで漫画で読んでいた。なかなかこういった題材が有名になるのは難しいと思っていただけに、サカナクションが担当するレベルの作品になったことは良い意味で驚きだった。
タイトルの『チ』には色々な漢字が当てはめられる。大元である地球や地動説の『地』、人間が持つ知性の『知』、真理に辿り着いた叡智の『智』、主人公が入れ替わる中で前任者たちが流し続けた『血』等々、解釈は様々だ。
「そういうもの」というnorm(規範、標準)から外れて真実を知りたいというきっかけに始まり、勉強や新たな発見を通じて更に肥大化していく知識欲は、怪獣のような孤独な存在を生み出す。
「天動説が真理であり、その理論を支えるのは神」というこれ以上ないほど強固な地盤があった時代、そこに異を唱えようものなら異端児として弾圧されるのは想像に難くない。
理不尽な暴力、黙らせる金、弱みにつけこむ誘惑や洗脳、そして周囲の同調圧力。世の中があの手この手で『懐柔』しに来る。しかし子供のような純粋な知識欲だけが自分を突き動かし、何千年と続く知識を何千年も使える万年筆で残そうとする。
MVでもそういった要素がしっかり表現されていた。作詞しているボーカルの山口一郎氏の演技も相まって、非常に分かりやすくまとめられている。
特にラストサビ前からの流れは圧巻の一言に尽きる。
同調圧力という狭い壁に身動きがとれなくなって嫌気が差した瞬間、一瞬壁が開く。そのまま後ずさると壁はどんどん広がる。「こんな苦しい思いをするなら進まなきゃいいんだ」と踵を返そうとする。戻る道の壁には『NORM』の標識。そこからサビへ繋がる全ての流れが滑らかだ。
「9か月前のMVだからもう知ってるよバーロー」という人も多いと思うが、自分は今知って今感動しているから許してちょんまげ。
チ。のラファウも「感動は寿命の長さよりも大切なものだと思う」と言っていた。
何のアップダウンもない長寿の人生(もちろん長寿であることはすごいことだが)より、感動に包まれた太く短い人生のほうが満足感は大きい。そしてそれは34年山も谷も無く生きた自分でも今からできることだ。
このブログ、ひいてはこの人生の完成形はわからないが、完成していないことはわかっている。だから自分が何をするのにも好都合なのだ。
自分はサカナクションが好きで、これまでも色々な曲を買っている。今回の怪獣のサビもAoiのような歌い方が非常にクセになる。作品の雰囲気も混ぜているのでサカナクションらしさ一色というわけではないが、色のある透明感(語彙不足)は健在だと感じた。
山口氏自身が鬱との闘いで極限状態になりながら絞り出した多くの曲は、その背景を知らない人にも伝わるほどの破壊力があると思う。もちろん自分が「わかった気になっている」ことも多分にあるが、「自分の言葉遊びは本当にただの遊びなんだな」と思い知らされるほどの言葉選びは、彼らを知らない人にももっと知られてほしい。
サカナクションで一番を決めるのは難しいが、あえて挙げるなら自分はエンドレスが好きだ。
この曲の世界観は、不安定になりがちな自分を正しい姿勢に戻してくれる気がする。SNS全盛の今こそ聴いてほしい曲だと思っている。