巷では『健全な精神は健全な肉体に宿る』という格言が定着している。色々な社長や校長のありがたいお話で今でも紹介されているのではなかろうか。
『衣食足りて礼節を知る』『貧すれば鈍する』という言葉もあるので、「身体的な余裕があって初めて精神にも余裕が生まれる」ぐらいの意味に捉えていたが、そもそも誰が言い出したことなんだろうと思って調べたらなんと誤用だった。
この言葉の語源は古代ローマの詩人、デキムス・ユニウス・ユウェナリスの著作『風刺特集』にある。その名の通り当時の社会を風刺した本で、その一節に「もし祈るならば、大欲を抱かず、健全な精神が健全な肉体に宿るように祈るべきなのだ」と書かれている。
これもラテン語からの日本語訳なので細かな意味は変わるかも知れないが、これが風刺の本に書かれていることと、当時の古代ローマがコロッセオで人々を殺し合わせる様を楽しんでいた背景を踏まえれば、『健全な肉体を持ちながら不健全な精神に侵されている社会』に対する風刺だと理解できる。
長い時を経て、偶然か意図的か分からないがこの文章の『祈るべき』という部分が外されて日本に伝わり、現代のような使われ方をしだした。妙な説得力を持っていたために、軍国主義だった日本でも兵士を鍛えるための格好の名言として使われ、「まずは身体を鍛えろ」という風潮になっている。
最近ではマイノリティへの配慮という部分で社会全体が過敏になっている節があるので、「身体障碍者には健全な精神が宿らないと言うのか!」みたいな声が上がる可能性も少なくはないと思う。そこでこの言葉の誤用が正されるのか、あるいはこの言葉自体が無くなるのか、気になるところである。
身体があまりにもガッチガチだけど頭は柔らかくありたい無職であった。
少しはストレッチしよ…。