- 作者: 坂口安吾
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2008/10/16
- メディア: 文庫
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「オレは茫然とヒメの顔を見つめた。冴えた無邪気な笑顔を。ツブラな澄みきった目を。そしてオレは放心した。このようにしているうちに順を追うてオレの耳が斬り落されるのをオレはみんな知っていたが、オレの目はヒメの顔を見つめたままどうすることもできなかったし、オレの心は目にこもる放心が全部であった。オレは耳をそぎ落されたのちも、ヒメをボンヤリ仰ぎ見ていた。(「夜長姫と耳男」より p.371)
15篇が収められている。個人的ベスト5を選ぶなら「風博士」「白痴」「桜の森の満開の下」「アンゴウ」そして「夜長姫と耳男」か。
「風博士」は以前ちくまのアンソロジーで読んだことがあったが、その突き抜け振りがサイコーだ。もっとこの手の作品があるのか、なかなか出会わない(やはりちくまのアンソロジーに入っていた「勉強記」くらいかな)。本書でもこの一作だけだ。
「白痴」は今読むと差別発言も差別思想も満載だが、そんな「白痴」の女を見下しつつも、どこかすべてを引き受けている伊沢という男が忘れがたい。「桜の森の満開の下」「夜長姫と耳男」はどちらも説話文学系だが、登場する女の「純粋な絶対悪」の造形がものすごい。山賊を夫として操り、首狩りをして集めた首で遊ぶ女。ヘビの生き血を飲み、平然と人の死を遊び、狂気と狂気のつばぜり合いを演じるヒメ。いずれもものすごい傑作だと思う。
「アンゴウ」は今回初読だったが、ちょっとした謎解きを仕込みつつ、安吾にはめずらしいハートウォーミングなラストがよかった。なんだ、こういう作品も書けるんですねえ。そういえば長編に『不連続殺人事件』なんてのもあったっけ。