
「若い人っていいなあ」って、最近つくづく思うようになった。僕の甥っ子が料理関係の専門学校を卒業し、この春からとある大都市の鉄板焼きの店で働くことが決まった。その鉄板焼きのお店は一番安いコースでも3万円くらい。下働きからでもそのような名店で働くことができるって、本当にすごい!と思った。やる気に満ち溢れているし、目もキラキラと輝いている。未来に向かって自分の人生を自分の足で歩み始める新社会人のエネルギーは、今の僕には作り出すことができないものだ。
その甥っ子が旅立つ前に、今アルバイトをしている居酒屋にぜひ来て欲しいということで、その日の仕事を早めに切り上げて奥さんと一緒に二人で出かけた。久しぶりの外食である。その居酒屋は海鮮中心のお店だった。カウンターの向こうに甥っ子が立っていた。暖簾をくぐってお店に入ってきた僕たちをすぐに見つけてくれて、カウンター近くの席を用意してくれた。QRコードで注文するタイプのお店だったが、甥っ子が「オレが全部注文聞くから」と言ってくれた。そしてその理由は後で分かった。
まずはキンキンに冷えた生ビールから。お造りの盛り合わせなど定番メニューを3品ほど注文した。すぐに(脊髄反射的スピードで!)ビールが運ばれてきた。生ビールを注文する客のことが本当によくわかっている。それからメニューに載っている写真の2倍くらいの量のお造りの盛り合わせが運ばれてきた。思わず「これって…」と唸り声をあげそうになったが、甥っ子は「今日はめっちゃサービスするから」と言って笑顔でカウンターの向こうに帰って行った。大勢のスタッフがいたが、甥っ子がナンバーワンの板前ポジションの場所に立ち、忙しそうに料理を作っていた。

彼は学校の勉強が大嫌いで、子供の頃からスマホばかりいじっていて、高校は産業系に進んだのだ。その高校を卒業してから専門学校に進学し、そこで自分の進む道を見つけたようだ。僕は接待などでいろんな名店で食事をしてきたが、盛り付けや料理を出すタイミングなどそれら名店と遜色なレベルだと感じた。もちろん素材の良さなどでは勝てないが、甥っ子の料理に向かう真摯な姿勢と眼差しは、すでにプロフェッショナルそのものだった。彼とは年始にお年玉をあげていたくらいの接点しかなかったが、自分の成長した姿を最後に見てほしいという気持ちがあったのかもしれない。
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いずれにしても「若さ」というものはかけがえのない財産である。ありきたりの言い方にはなるが、いくらお金を積んでも「若さ」を買うことなんてできない。羨ましい限りであるが、そんな僕でも診察する高齢患者さんからは「先生なんてまだまだ若くて本当に羨ましい」と言われる。80歳くらいのおじいちゃんやおばあちゃんにとって、僕くらいの人間なんて「まだまだ若いんだから、これから何でもできるだろ?」って思うのかもしれない。僕が甥っ子に抱く感情と同じで。
そんなこんなでこれからは、同じことばかりせず、できるだけ今まで経験したことのないものを積極的に選んで行こうと思った。コンフォートゾーンから出るってやつだ。先日ちょっと用事があって神戸まで出かけたのだが、いつもならイタリアンや和食系のランチを食べるのだが、手はじめに”タイ料理”のお店に入ってみることにした。自身初めてのタイ料理である。パクチーの香りが独特で、タイ米や若干苦手のココナッツの入ったグリーンカレーなどのセットメニューだったが、「これがコンフォートゾーンを出るってやつか!」とワクワクしながら美味しくいただくことができた。

大混雑している中華街のメイン通りから、人っ子一人いないような脇道に入ったところにあるお店だったが、敢えて脇道に入るってことが「コンフォートゾーンから出る」ってことなのかもしれない…と腑に落ちた。ちなみの甥っ子の居酒屋での会計は¥◯,000円ポッキリであった。生ビールを何杯か飲んだ後、芋焼酎のロックを飲んだのだが、最終的に(値段が高めの)芋焼酎をジョッキで飲んでいた記憶がわずかに残っている。このお礼は彼が鉄板焼きのお店でメインシェフとして腕を振るうようになったら、お返ししなければならない。
とにかくこれからの人生は、みんなが進むメインストリートではなく、できるだけ積極的に脇道に外れてみようと思ったのである。

それではまた^ ^