
機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~
【第九話】敵では無い敵
サイド7に近傍にある、かつて連邦のモビルスーツ開発ベースとなっていた廃棄衛星アークに流れ着いたシンジとジオンのパイロットアポリは、食堂でしばらくの間共有した時間を過ごしていた。
シンジは非常食を食べ終わってから再び口を開いた。
「さっきのあれは何だったんだ?」
「何のことだ?」
アポリは聞き直した。
「お前たちは連邦の犬で良いのか?、だ」
アポリは顔はシンジの方を向けず、目だけシンジに向けて口を開いた。
「あれか。お前ほどの腕とキャリアがあるなら、連邦に正義がない事は分かる筈だ。それなのに何故連邦に加担するんだ?それほどの才能を無駄に消費しているだけだと思わないのか?」
逆にシンジはアポリの方を向いて答えた。
「言っただろ、俺は連邦の犬じゃ無いと。俺は連邦の正義や、連邦の無能な官僚のために死ぬ気なんてさらさらないさ」
シンジは続けた。
「もっとも、今の連邦に正義がない事は連邦内部の多くがそう思っているさ。否定的な意見も多い」
「だったら…」
アポリがシンジの方を向いて言いかけたが、シンジはアポリが何を言わんとしたか分かったため遮った。
「とはいえジオンのやり方に賛同する訳ではないぞ。あんなに大量に人を殺してまで独立したいものなのか?」
「コロニー落としは俺たちも知らなかった。まさか俺たちの故郷であるコロニーさえも武器にしたザビ家に対しては、否定的な意見も多かったんだ。特にダイクンを慕っていた所謂ダイクン派達は、独立のために戦ってもザビ家のためには戦わなかった」
「なるほどな。ジオンもジオンで事情はあった訳だ」
「特にシャア大佐がダイクンの遺児だと分かった時は、新たなリーダーの誕生を期待したんだがな」
「シャア?赤い彗星のシャアか?」
「そうだ。俺も大佐と行動を共にしたことがあったが、彼のカリスマ性は相当なものなんだ。シャア大佐ならジオンを再興してくれると思ったんだが、戦後はアステロイドに身を隠してしまった」
「赤い彗星のシャアか。彼がダイクンの遺児だというのは初耳だが、パイロットの腕だけでなく、大衆を導けるだけの力も持っているのか?」
「ダイクンの遺児にしてニュータイプの呼び声が高い大佐だ、そのカリスマ性は相当なものさ。お前も接してみればわかるさ」
「でも所詮パイロットなんだろ?しかもザビ家の元で働いていた。そんな男に世の中を動かす力があるのか?」
シンジは同じことをもう一度聞いた。
「シャア大佐がジオンのパイロットになったのはザビ家に復讐するためさ。その復讐を完遂した大佐は、新たにジオンを、スペースノイドを引っ張ってくれると思ったんだがな」
「復讐?じゃあジオン・ダイクンがザビ家に暗殺されたっていうのは本当なのか?」
「ああ、間違いない。元々シャア大佐はザビ家に恨みがあるってもっぱらの噂があったが、大佐がダイクンの忘れ形見だと分かった時は、それが確信に変わったんだ」
「じゃあある意味シャアはジオンでも連邦でもない中立な立場に近いってわけだ。それで更にダイクンの忘れ形見か。なんか、すごい宿命を背負って生きているのかもしれないな、シャアは」
「その通りさ。彼こそ新たな指導者として立ち上がって欲しかったんだが、残念だ。」
「ザビ家を失ってダイクンの遺児もいないお前達は、これからどうするんだ?まさかこれからも散発的なテロを続けていく訳ではないのだろ?」
「それは俺たちにも分からない。各方面に潜んでいる同胞達とは、ほとんど連絡の取り合いはしていないんだ。連邦が目を光らせている事はわかっているから、不用意に接触できない。とにかく今は身を潜めてその時が来るのを待つしか無いんだ」
アポリは歯を食いしばるように悔しさを抑え込んで話していた。
「その時か。もしその時というのがまた戦争だったら、悪いが俺は全力で阻止させてもらうからな」
「それは俺にも分からないさ。その時が来るのかどうかも…」
そのまま暫く沈黙が続いたが、その沈黙を破るアラームが鳴った。チャージが完了した知らせだ。
「終わったようだな」
シンジはアラームを止めて言った。
「ああ」
アポリも軽く答えて、空になったコーヒーのパウチの捨て場所を目で探していると、
「悪いがゴミはお持ち帰りだ」
「そうか、そうだな」
アポリは納得してパウチをノーマルスーツのポケットに仕舞い込んだ。
「じゃあ行くか?」
シンジがアポリの横まで流れて行ってそう言うと、アポリはコクっと頷いて、二人は食堂を後にした。
エアロックの前に立ったところでアポリがシンジに向かって
「済まなかったな。まさか連邦からこんな手解きを受けるとは思っていなかったが、感謝している」
とシンジから目を少しだけ離して、ちょっと照れ臭そうに言うと、
「俺の直感があんたは敵じゃ無いと言ってるからな。まぁ、貸しにしておいてしておいてやるよ」
と右目でウィンクをしてヘルメットを被った。
「ニュータイプみたいな事を言うんだな。だがあながち…」
シンジが先にエアロックに入ってしまったので、最後まで言い切らずヘルメットを被ってエアロックに入った。
ハンガーデッキ側のドアが開いたが、メインハッチはまだ閉じているため、空気はある。
二人はヘルメットのバイザーを上げたままでいた。
そしてそれぞれの自機に取り付けられているチャージャーを外した。
シンジはストームブリンガーのコックピットに乗り込むと、機体の状況を確認した。異常無しだ。
システムを起動させると、アポリのゲルググと接触回線を開いた。
「そっちの機体は大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「自力で航行できる距離にアジトはあるのか?」
「サイド4の方面だ。なんとかたどり着いてみせるさ」
やはりあの宙域にあったんだな。だからあのベイの残骸にトラップを仕掛けたのか…。
敵でありながら、倒すべき敵では無いアポリに複雑な感情を抱いてしまう。
それはアポリも同じで、あの宙域にアジトがあることを匂わす発言をしてしまったが、後悔はしていない。
「じゃあハッチを開けるぞ」
「オッケーだ」
シンジはハッチの入り口まで移動した。
ハッチ解放の操作をすると、エアが抜けるアラームが鳴った後、ハッチがゆっくりと開いた。
シンジはゲルググに、先に出ろ、と合図を送る。
ゲルググはゆっくり衛星外へ流れ出た。
シンジもその後を追って衛星外へ出た後、外部からハッチを開けたレバーを操作して、ハッチを閉じた。
アポリのゲルググは左手を上げた。
シンジのストームブリンガーも左手を上げて答えた。
そしてゲルググはサイド4方面に飛び去った。目視で機体を追えるのは三秒足らずだ。まさに瞬く間にゲルググは宇宙の闇に消えていった。
シンジは目的地をサイド7にセットした。ここからだとルナツーよりもサイド7の方が近いためだ。
ミノフスキー粒子に関係なく、現在のポイントと目的地のポイントを合わせれば、その二点間を結ぶように機体が動いてくれる。もちろん障害物も避けてくれる。
シンジは巡航モードにセットした。
機体がトレースした通りに加速させ、巡航速度に達したらオートパイロットに切り替える。これで自動で軌道修正して目的地まで流れ着く事ができる。寝ててもたどり着けるという事だ。
サイド7まで4時間弱、仮眠くらいは取れそうだ。
ようやく安堵した感じになり、気持ちにも余裕が出てきて、サラのことを頭に浮かべる事ができた。
心配をかけてしまったが、なんとかまた生きて会うことができそうだ。
もちろんアルバトロス隊の面々やモーリン大尉の顔も浮かぶ。そしてアポリの顔も浮かんだ。
できればあの男とは戦いたく無いな…。
そう思いながらシンジは眠りについた。
この数年後、シンジとアポリはお互い別の立場で再び出会う事になる。
【第十回】ミノフスキー粒子の霧の中へ に続く
2021年10月30日12時更新予定