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【第三話】捕虜

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宇宙世紀0080年6月18日 19:00 ホーネット艦内 シンジの個室

蒸気が立ち込めるシャワールームの中で、シンジはようやく戦闘の緊張感から解放された。ビームサーベルでザクの頭部を貫いた時の感触が、まだ掌の奥に残っているような錯覚がある。

「……俺は、また“人”を斬ったんだな」

湯気の中で呟いた言葉は、誰に届くこともなく霧散した。

シャワーを止めてタオルで髪を拭いていると、室内の壁面に備え付けられたインターフォンの着信ランプがチカチカと点滅していた。操作パネルにタッチすると、陽気な声が響く。

「シンジ!捕虜見に行こうぜ!先に牢屋行ってるから、お前も来いよなー!」

ジョージ・クーカー――アルバトロス隊のムードメーカーであり、シンジの同期。誰よりもフランクで、誰よりも戦場では真剣な男。だが今のこのテンション、まるで修学旅行気分だ。

「全く…はしゃぎやがって。捕虜は見世物じゃねぇぞ」

ぼやきながらも、シンジの口元にはうっすらと笑みが浮かんでいた。戦場帰りの重苦しい空気に、こういう空元気がちょうどいい緩衝材になることも知っていた。

制服に袖を通しながら、彼はふと思った。

(あの捕虜は、今どんな気持ちなんだろうな……)

同日19:15 ホーネット艦内 プリズンフロア

プリズンに向かうエレベーターの中、シンジの胸中は複雑だった。ザクを無力化し、生け捕りにしたことは作戦上の成果だ。しかし、兵士としての彼には、それ以上に「人間としてどう接するべきか」という問いが頭を離れなかった。

プリズンの前に着くと、そこにはすでに5人ほどの警備兵が銃を構えていた。その外側には、興味津々といった様子の乗組員たちが野次馬のように集まっていた。

「おーい、シンジ!」

その中の一人、ジョージが派手に手を振っていた。

「声がデカいっつの…バカ」

苦笑しながらも、シンジは彼の元へと歩を進めた。

「やっぱお前も気になってたか、捕虜の奴」

「まあな。戦場じゃ言葉を交わす暇もないからな。敵だった奴が、今は俺たちの艦の中にいる…妙な感覚だ」

二人が話していると、警備兵の一人が手を上げて制止した。

「ここまでです。内部は立ち入り禁止」

「分かってますって、見学だけっすよ」

ジョージが軽口を叩くも、視線はプリズンの内部へと釘付けだった。

中には、捕虜の男が一人。無骨な風貌、ボサボサの髪、切れ長の眼で辺りを鋭く見据えている。身体は丸椅子に座らせられ、スポットライトの光に照らされていた。

その男に対峙していたのは、ホーネットの艦長、エイパー・シナプス大佐。冷静沈着、理知的な口調。問い詰めるでもなく、なだめるでもなく、まるで“真実だけを引き出す”ような語り口だった。

「こちらは捕虜への拷問は一切行わない。安心して話してくれ。君たちの“目的”だけでも教えてもらえれば…我々も無意味な衝突を避けられる」

それでも捕虜の男は、あいまいな返答を繰り返すばかりだった。

「……ふん、俺が話したところで、どうせ信じないだろうよ」

「そうかもしれない。しかし、“話さない”ことは、君にとっても不利になるだけだ」

静かに言い放つシナプスの横顔に、シンジは一瞬“軍人の覚悟”を見た気がした。

「大佐って…やっぱ凄ぇな」

「だな。口調は優しいのに、あれじゃあ相手も無視できねぇ」

シンジとジョージは顔を見合わせ、互いに小さく笑った。

同日20:00 ホーネット艦内 食堂

遅めの夕食を取りながら、二人は戦闘の話題で盛り上がっていた。トレイには、レトルトのスープとパスタ、そして冷めかけたパン。

「でさ、シンジ。マジでザクの腕だけ撃ち抜いたって?あれ、普通は“胴体ごと”いっちまうだろ」

「右腕を狙った。パイロットは生きたまま捕らえるのが任務だって、頭に叩き込まれてたからな」

「うーん…さすがエース様。俺だったら絶対、真っ二つだわ」

「お前はまず、“出撃してから”言え」

「ハハ、痛ぇとこ突くなあ。まあ俺のジムくんはお留守番専門だからな」

ジョージは自虐的に笑いながらパンをかじったが、すぐに表情を真剣にした。

「なあ、シンジ。さっき見たあの捕虜……なんか、俺たちと変わんねぇなって思った」

「それ、俺も感じたよ。あの目……誰かの命令に従って、ただ戦ってただけなんじゃないかって」

「……また戦争になったら、俺たち、同じように“敵”になるのかな」

シンジはスープを一口啜ってから、ゆっくりと頷いた。

「だからこそ、今は“戦後”を生きる意味があるんじゃないか?」

「……シンジ、お前たまに詩人みたいになるよな」

「バカ言え」

同日21:00 ホーネット艦内 シンジの部屋

報告書作成のためにパソコンに向かうも、指がキーボードの上で止まる。捕虜の表情、沈黙、あの曖昧な言葉が頭から離れなかった。

「…あれが、戦後の“現実”なんだよな」

その時、わずかな振動が室内を走った。シンジはすぐに察する。

「……参謀本部のお迎えか」

捕虜はこのままサイド4の駐屯地へ移送され、そこで“専門機関”による尋問が行われるはずだ。拷問だけは避けてほしいと願いながら、彼はそっと画面に向き直る。

その時、通信ランプが再び点滅した。

ルナツーより再捜索部隊が発進。先の戦闘宙域に向けてアルバトロス別働隊が移動中』

「……ジョージの情報、まんざら嘘じゃなかったのか」

だが遅すぎる。きっと、ジオン残党はもう拠点を引き払っている。

(あいつらは、ただ“希望”を手放していないだけなんだ。今度こそ、終わらせなきゃいけない)

キーボードを叩く指先が、いつの間にか力を込めていた。

次回予告

【第四話】シンジとサラ

疲れた心を癒す“戦後の日常”――
看護師であり、シンジの恋人・サラ・アライとの再会から始まる、第4話。
だがその穏やかなひとときが、再び戦火の影を呼び寄せる――。
どうぞお楽しみに!


注記
本作『機動戦士ガンダムAfterwar~戦後の戦士たち~』は、宇宙世紀0080年を舞台とした非公式二次創作小説です。
恋と友情、倫理と戦後ドラマを重層的に描いたパラレルワールドとしてお楽しみください。

 

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~前回までのお話はこちら~

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