読み手にとっての『n月刊ラムダノート』
今期は「とにかく『n月刊ラムダノート』の企画をがんばる」を目標に設定しています。 『n月刊ラムダノート』というのは、当社の不定期刊行誌で、次のような特徴があります。
- A5版で20ページ~50ページの解説記事を3つくらい収録
- それぞれ雑誌記事やブログに比べるとだいぶ本格的だけど、論文よりは気軽に読める
こんなふうに特徴を列挙しても、それだけだと具体的なイメージがわきにくいと思うので、ぜひ実物を見てください! たとえば今年発行した各号には次のような記事が掲載されています(いずれも公式ブログの紹介からの引用)。
『n月刊ラムダノート』Vol.4 No.3(2024)の内容
- 型システムとは何なのか、はたして型安全とは何なのか。数学的な証明は表に出さず、TypeScriptのサブセット言語とその型検査器の実装を通して今度こそ型システムに入門する「TypeScriptではじめる型システム」(遠藤侑介 著)
- 業務コードにおいて型システムを道具としてどう使いこなせばいいのか。代数的データ型や全域関数、さらには外部システムとの連携における考え方への応用までをScala3で解説した「型を活用した安全なアプリケーション開発」(佐藤有斗 著)
- 2010年代以降のインターネットの大規模な構造に対して、明示的にせよ暗黙にせよどのような技術、あるいは事件が影響を及ぼしてきたのか。これからのインターネットを知るヒントをいくつか紹介する「「インターネットのカタチ」のその後」(小川晃通 著)
『n月刊ラムダノート』Vol.4 No.2(2024)の内容
- 各種ウェブサービスで認証の起点になることさえありながら自身の安全性や到達性に対するアンビバレンスもぬぐえないEメール。その仕組みを40年にわたって支えてきたSMTPの歴史をたどる「SMTP、どうしてこうなった」(梶原龍 著)
- 機械学習を利用したサービスにおいて不可欠な大規模データ。訓練と推論、分析処理とトランザクション処理といった軸からその扱いに対する要件を炙り出して実装を紹介する「Feature Storeのすすめ」(杉山阿聖 著)
- 何がどう計算されて結果が得られるのか直感的にわかりにくいニューラルネットワーク。その「コンパイラ」の実装例を通し、深層学習アプリを使ってみるだけでは得られない知見に触れる「深層学習をコンパイルする ― PFVMの技術」(徐子健 著)
『n月刊ラムダノート』Vol.4 No.1(2024)の内容
どれも「いつか知りたい、でもキーワード解説や雑誌の特集ではわかった気にしかなれない、かといって入門書をしっかり読む時間もない」というトピックばかりですよね! コンピューター技術の分野には、こうした「休日の午前中にちょっと真剣に読んだらめっちゃ充実する」とでも言うべき読み物がもっとあっていいと思っていて、それが『n月刊ラムダノート』で実現できればなと考えながら発行しています。
出版企画の三つ組
とはいえ、理念だけで出版は実現できないのも現実。 『n月刊ラムダノート』も企画にはずっと苦悩していて、なかなか「定期」刊行誌になれそうもありません。
これは本誌に限らないのですが、出版の企画は「こういう解説を読みたい人がたくさんいるだろう」といった着想ではありません。 そうした着想からスタートするにせよ、実現に向けて不可欠な要素はほかにもあって、具体的には「構成」と「書き手」です。 言い換えると、「構成」と「書き手」、そして「着想」の三つ組がそろってはじめて企画になります。
着想 <-> 構成 \ / 書き手
編集者には、着想がいろいろ思いつく人もいれば、構成を練るのが得意な人もいれば、書き手とつながるのがうまい人もいます。 しかし、どれか1つが得意なだけで企画ができるわけではないので、得手不得手を補完しつつ三つ組をぶんぶん回すしかありません。 最強なのは書き手本人が着想と構成もぶんぶんやれる場合で、でも最近は同人誌とかウェブでの公開とか書き手にとっての手段が多様化しているから、出版社で本や記事を書いてもらう動機が昔に比べると示しにくい気がしています。 提示できる動機としては、対価や露出が考えられるけど、小さい出版社だと対価はともかく露出に期待してもらうのは難しい。
編集者としてのぼく個人は、「編集」を動機にしてもらえるように頑張っているつもりです。とはいえ「編集されること」は書き手にとってメリットとして自明ではないので、これを潜在的な書き手に認識してもらう手段が悩ましい。
書き手にとっての『n月刊ラムダノート』
実は『n月刊ラムダノート』は、この「編集されること」のメリットを潜在的な書き手に体験してもらう機会になれるんじゃないかなと考えています。 一冊の本だと「企画の三つ組を揃える」、「書き上げる」、「編集する」のイテレーションがけっこう重いけど、30ページくらいの記事なら比較的軽くなります。 企画自体も軽めに始動できるので、潜在的な書き手にとっても、「こういうの書けそう」とか「書いてみた」から「不特定多数が読むことを想定した日本語にして公開する」までのイテレーションを体験してもらうことで編集が入ることのメリットを見定めてもらう機会にしてもらえるかなと。
もちろんこれは編集者にもメリットがあって、本として完成するまでのイテレーションの重さを考えると躊躇するような企画にも取り組みやすくなります。 多様化する題材へのキャッチアップが大変といった別の悩みもあるのですが、これはむしろ編集者としての筋トレには役立つという見方もできるのでがんばる。 まあ、本よりだいぶ収益性が低いといった経営的な課題はあるのですが、それも企画の機会が増えることで補えるかなと。
それでも難しいのは、このイテレーションを体験してもらう潜在的な書き手、もう少し正確に言うと「書きたくて、かつ書ける人」にそもそも巡り合うことだったりします。 書くという行為にかかる時間や体力を考えると気軽にお願いしにくかったり、そもそも何を書いてもらうべきか(着想と構想)に対する自分の視野がなかなか狭かったり、自分側の原因はわかっているのでそこらへんはがんばっていくとして、潜在的な書き手の皆さんからのご相談もお待ちしています。
書きたいこと、書けることがあって、このイテレーションで編集のメリットを体験してみたいという方がいましたら、こちらを参考に気軽に寄稿を検討してみてください!