
ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~(シーズン2)(製作総指揮:ジョン・ローガン、サム・メンデス 2014年アメリカ作品)
19世紀ロンドンの深き闇を跋扈する悪鬼ども。その悪鬼を倒さんとある人々が集うが、彼らもまた、心の裡に深き闇を抱える者たちだった。2014年から2016年まで3シーズン配信されたドラマ『ペニー・ドレッドフル ~ナイトメア 血塗られた秘密~』は、エヴァ・グリーン、ティモシー・ダルトン、ジョシュ・ハートネットという錚々たる俳優たちの主演するゴシック・ホラー・ドラマだ。製作総指揮は『007 スカイフォール』『007 スペクター』の監督サム・メンデスと脚本のジョン・ローガン。
なにしろ吸血鬼に始まり、フランケンシュタイン博士とその怪物、狼男、ドリアン・グレイが登場し、主演のエヴァ・グリーンが演じるのは霊媒師という、ゴシック・ホラー・キャラクター総出演のドラマである。このシーズン2における敵役は魔女軍団であり、不気味な魔術を駆使して主人公たちを危機に陥れる。さらに主人公たちというのも後ろ暗い過去と精神的問題を抱えた者たちばかりで、正義の使者というわけでは決してない。というわけで全編を通じてドロドロと闇の中を這いずり回るが如き展開が続くという、実に芳しい物語となっている。
さらにこのシーズンでは、人間とモンスター、人間と魔族との淫靡な恋が次々と描かれ、背徳感はいやが上にも盛り上がってゆく。よくもまあこんな異様な物語を作ったものだ。物語展開は非常に文学的であり、その美術も凄まじいほどに凝っており、この作品がなぜああまり話題になっていなかったか不思議なぐらいである。そしてエヴァ・グリーンの暗く輝く瞳がとことん美しい。ドラマはシーズン3で打ち切られたが、そのシーズン3が現在日本語翻訳版で観ることができないのが非常に残念だ。
三日葬 サミルチャン (監督:ヒョン・ムンソプ 2024年韓国映画)
物語は、心臓外科医の父親チャ・スンドが、病気の娘ソミに自ら移植手術を施すところから始まる。手術は成功したはずが、娘は異常行動を起こし、悪魔祓いの末に死んでしまう。三日葬の3日間、父親は娘についての度重なる幻視と幻聴を繰り返し、「娘が何か訴えている」と信じて暴走していく。
特に興味深かったのは、韓国特有の「三日葬(サミルチャン)」の描写。儒教の影響で故人の魂が3日間この世に留まると信じられ、遺族が故人と「共に過ごす」長い時間が、父親の妄執を増幅させる舞台として絶妙に機能している。伝統の葬送文化とキリスト教の悪魔祓いが混ざるカオスさが、韓国ホラーらしい独自の不気味さを生んでいる。
強く印象に残ったのは、悪魔憑依の恐怖よりも、娘を失った父親の深い悲しみと執着が圧倒的に増幅された作品だった点だ。低予算らしい閉鎖空間(主に葬儀場)の設定ながら、大量の蛾がはためく不気味なシーンや、宙を舞う死体のようなビジュアルインパクトはしっかり効いていて、ホラーとしての見せ場を押さえている。
韓国ホラーにエクソシスト物が多いのは、キリスト教の急激な浸透と、家族の業・ハン(恨)を憑依で描きやすいからだろう。でも本作は、それを超えて父の愛の暴走を描き切った点で、心に残る。ジャンプスケアは多いが、観終わった後は「怖さ」より「哀れさ」が強く残る作品だった。
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