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注目のファンタジー&ホラー作家、T・キングフィッシャーの作品を3作読んだ

T・キングフィッシャーのファンタジー&ホラー作品を3冊読んだ

T・キングフィッシャーは1977年生まれのアメリカの作家・イラストレーター・漫画家だ。本名はアーシュラ・ヴァーノンといい、大人向け作品を執筆する際にT・キングフィッシャーというペンネームを使用している。この名前は、お気に入りの鳥であるカワセミにちなんでおり、またアーシュラ・K・ル=グウィンへのオマージュでもあるのらしい。

キングフィッシャーウェブコミック「Digger」で2012年にヒューゴー賞グラフィックストーリー部門を受賞、大人向け作品としては、『パン焼き魔法のモーナ、街を救う』でネビュラ賞ロードスター賞など5つの賞を受賞した。 また、『イラクサ姫と骨の犬』でヒューゴー賞長編部門を、『死者を動かすもの』と『A House With Good Bones』でローカス賞ホラー長編部門を受賞するなど、数々の賞を受賞している、現在注目のファンタジー&ホラー作家である。

今回はそのキングフィッシャーの邦訳作品3作を紹介したい。

イラクサ姫と骨の犬』:女性の尊厳とヒロインの成長を描く傑作長編

修道院で暮らす小国の末の王女マーラには二人の姉がいた。だが大国の王子に嫁いだ上の姉は不審な事故で亡くなり、代わりに妃になった下の姉にも死が迫っているという。次はマーラの番だ。身を守るには王子を殺すしかないが、王子は妖精の教母(ゴッドマザー)の魔法で護られていた。魔法に対抗する武器を得ようとするマーラは、まじないを操る墓守女に刺草(イラクサ)のマントと骨の犬を作る課題を与えられた――ヒューゴー賞受賞の傑作ファンタジイ

冒頭から、「子供を産む機械」として扱われる女性たちの悲しみと憤りが丁寧に描かれ、深く心を揺さぶられる。これは単なるファンタジーではなく、理不尽な社会に対する作者の鋭い糾弾が込められた作品なのだ。とはいえ、これは特定の思想を声高に主張するのではなく、人間として当たり前の尊厳を訴えているにすぎない。

物語は、そんな不条理な社会を終わらせるための女性たちの困難な戦いを描くのだ。主人公マーラと彼女を助ける二人の魔女がその中心だ。興味深いのは、この不条理な社会を成立させたのが、他ならぬもう一人の魔女の魔術だったという点だ。これにより、物語のジェンダー観に深い奥行きが生まれてくる。主人公を助ける心強い男性も登場するが、彼は体力と安心感で主人公を支えるという、独自の役割を担っている。これは、男女どちらが優れているかではなく、お互いの得意な部分で協力し合い、より良い社会を築こうという美しいメッセージを象徴しているのだ。

主人公は非力で頼りなく、常に不安を抱えている。しかし彼女は「悲惨な連鎖を終わらせたい」という強い意志を持ち、その思いを実現するために力を尽くす。そのひたむきさこそが、この物語の最大の魅力なのだ。物語は、数々の困難を乗り越え、張り巡らされた伏線が次々と回収されていく見事な展開を見せる。強大な亡霊と魔術が激突するクライマックスから大団円にかけての盛り上がりは圧巻だ。さらに、可愛らしいマスコット的存在である「骨の犬」も、物語に温かさを加えている。ヒューゴー賞受賞にふさわしい傑作ファンタジーだった。

『パン焼き魔法のモーナ、街を救う』:パン焼き魔法が世界を救う!?

魔法使いがそんなには珍しくない世界。パン屋で働く14歳のモーナも、パンをうまく焼いたり、クッキーにダンスさせたりと、パンと焼き菓子限定のちょっとした魔法を使えた。そのモーナが、ある日知らない女の子の死体を見つけてしまう! そのうえ、陰謀に巻きこまれ、敵の軍勢が攻めてきたとき、魔法使いはモーナただ一人! 街を守れだなんて、どうしたらいい!? ネビュラ賞ローカス賞など5賞受賞の話題のファンタジイ

イラクサ姫と骨の犬』は大人向けのダークファンタジーだったが、この『パン焼き魔法のモーナ、街を救う』はヤングアダルト向けのファンタジー作となる。しかし内容は決して甘くない。魔法使いが当たり前にいる世界で、主人公モーナは「パンと焼き菓子限定の魔法」しか使えないひよっこ魔女だが、そんな彼女の住む公国に突然の「魔法使い差別法」が施行され、魔法使いたちのホロコーストが巻き起こってしまうのだ。

後にある悪辣な陰謀が進行していることが分かるが、たった一人生き残ったモーナがこの陰謀と敵の侵略を食い止めるために、ひ弱な魔法でどう対抗するのか?がこの作品のキモとなる。これは「パンと焼き菓子限定の魔法」をどう拡大解釈してゆくかということになるのだが、多少予想がつくとはいえこの部分が何しろ面白い。「怒りに燃え巨大アメーバのように暴れまわるパン種」なんて最高だった。

ひ弱な女主人公が世界を救う戦いに駆り出される物語、心強い仲間の登場、クライマックスに待ち構える凄まじい大戦闘、そして可愛らしいマスコット(?)といった構造は『イラクサ姫と骨の犬』と同様だが、ヤングアダルト向けということもあってより明るく楽しい作品になっている。日本語翻訳版のタイトルや表紙はファンシーだが、オレのようなオッサンでも十二分に楽しめる心憎い作品だった。

『死者を動かすもの』:「アッシャー家の崩壊」の再話と新たな恐怖

旧友マデリン・アッシャーから手紙をもらった退役軍人アレックス・イーストンは、アッシャー家の館を訪ねた。沼のほとりの館は陰気で憂鬱で、久しぶりに会ったマデリンの兄ロデリックはやせ衰え酷い有様、マデリン自身も病が重いのに夢遊病者の如く歩き回っている……。ヒューゴー賞ローカス賞、ミソピーイク賞受賞の著者がポオの「アッシャー家の崩壊」に捧げたゴシックホラー。

T・キングフィッシャーのファンタジーを2作紹介したが、この『死者を動かすもの』はゴシックホラー作品となる。エドガー・アラン・ポーの名作『アッシャー家の崩壊』を下敷きにした、いわば「再話」と呼べる作品なのだ。原典の登場人物の背景を深く掘り下げ、新たなキャラクターを加えて物語に奥行きを持たせ、さらに原典のクライマックスに独自の解釈を加え、これまでにない恐怖を生み出しているのが今作の特徴だ。

本作を読んでいて気づくのは、シルヴィア・モレノ=ガルシアのホラー小説『メキシカン・ゴシック』との類似点で、これは作者自身も認めている。また、H・P・ラブクラフトの『宇宙からの色』にも共通する雰囲気を感じる。しかし、他の作品と一線を画すのは、主人公アレックスの性別を巧みに隠している点だろう。正確には、ノンバイナリーな存在として描かれているのだ。この意表を突く描写には、多くの読者が驚かされるはずだ。

なぜ作者はこのような手法を取ったのか。まず、作者は物語を女性主人公で描くことを意図したのだろう。しかし19世紀のゴシックホラーを当時の「女性らしさ」にとらわれた人物で描くことは不可能だと判断したのだろう。さらに、アレックスを架空の国の軍人女性という設定にすることで、ノンバイナリーな存在という側面が補強されている。つまり従来的な男性視点で描かれた『アッシャー家の崩壊』を、現代的な視点で再構築しようとした結果生まれたのが、この手法だったのではないだろうか。




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