2月、小林賢太郎脚本演出の新作舞台「学芸員鎌目志万とダ・ヴィンチ・ノート」を観た。役者に罪はなく、脚本がどうもnot for meだった。
私と小林賢太郎について
ある建築会社が経営する葛原美術館に、鎌目志万(かまめ しまん)という新人学芸員がやってくる。彼はレオナルド・ダ・ヴィンチの専門家を名乗り、ダ・ヴィンチに関する知識は豊富だが、ほかの年代や作家の知識は全く無い。そんな彼も、同年代の先輩学芸員リサをはじめ、個性豊かな美術館スタッフたちに囲まれて、なんとかやっていた。ところが、本社から、期限までに集客の目標を達成できなければ美術館を閉鎖すると通達されてしまう。普段ほとんど客が来ず、所蔵品も限られる中で、新しい企画展のアイデアに苦心する面々。鎌目は、彼らと美術館を救うため、自分が持つダ・ヴィンチの知識と、ある不思議な力を利用するが……。
演出は小林賢太郎の味が出ていたけれど、全体的なつくりとしては、演劇や観劇そのものについての初心者向けという印象をかなり受けた。だからなのかはわからないが、たいへん珍しく異性愛描写があって驚いた。彼がここまでストレートに恋愛模様を描くのは初めて観た(そもそも座組に女性がいるのが珍しい)。
が、それだけならともかく、鎌目くんとリサについて、周りが勝手に恋愛模様を見出そうとして、それに対してリサが「わかるよ。妙齢の男女、一緒に困難に立ち向かう、そこにこう、特別な感情的なものが芽生えたり。でも本当に無いんだわ」みたいなことを言うと、露骨にガッカリして、ほかの女性にも鎌目くんへの気持ちを聞いて回る、恋愛感情ありピープルたちによる悪意なき失礼シーンがあって不愉快だった。他者の恋愛は自分を楽しませるためのコンテンツではないし、セクシュアリティを開示していない人間をデフォルトで恋愛感情ありの、しかも異性愛者だという前提でもって探ろうとするのは暴力的すぎる。だからこそ、「その前提や思い込みは理解するけど、"無い"」とハッキリ宣言するリサに私は大いに感心して好感を持ったんだけど、物語のラストでこのふたりはなんと恋愛感情を開示する。
いや、結局好きなんかい。
厳密に言うと鎌目くんが先に気持ちを伝えて、リサは「それ、いま言う!?」と驚いて終わるのだが、言い方のニュアンスには嫌悪や拒否は含まれていないように感じた。
一方で、ふたりより年上の鰤田という大工さんと、経理の樫尾という男女キャラもいる。彼らは予算の都合でよく対立していて、樫尾はその立場上言えなかったのだが本当は鰤田のつくるものがすごく好きで、ファンです!と伝えて、鰤田は驚きながらもありがとう!と応えて握手を交わすシーンもある。鎌目くんとリサ、鰤田と樫尾は置かれた状況や要素はほぼ同じなのに、一方は互いへのリスペクトに終始して、一方は異性愛に発展するという、この非対称性をどう処理していいのかわからず、観ている間ずっとモヤモヤしていた。
異性愛者にも当然色々な人がいるのだから、恋愛関係になる/ならないが分かれるのは当たり前で、そもそも鰤田と樫尾がシスヘテロ*1とは限らないし、私は鎌目くんとリサの恋愛模様を唐突すぎると感じたけど、それは私がアロマンティック*2とアセクシュアル*3のアイデンティティを持っているからで、恋愛感情がある人たちにとってはまったく普通の流れに感じるのか、そもそも異性愛の登場に必然性や必要性を求めたがるのは、私の中にある異性愛(恋愛)に対する差別心からきているのではないか、もうわかんねえな……と思いながらサンシャイン劇場をあとにした。
観劇初心者にウケるのは男女の恋愛だよね!と思って敢えて要素を入れたのかはわからないけれど、第一印象のまさに「それ、いま言う!?」感は今でも拭えないし、仮にそうだとしたら、安易すぎるというかナメすぎというか……。鎌目くんも、登場してしばらくは「空気の読めない、周りにあまり迎合していかないマイペースな不思議ちゃん」みたいな、半歩ズレたキャラクターだったのに、結局はマジョリティ側でうまくやれちゃってつまらなかった。漫画桜蘭高校ホスト部で、主人公ハルヒが最初誰にも靡かないおもしれー女だったのに、結局恋する女の子になっていった時の残念さと同じものを感じた。わかる?わかんねえか。私もわかんねえし、私のこの気持ちはかなり暴力的だと思う。
あと、ボーイズクラブ感も健在だった。悪い意味で。鎌目くん、鰤田、警備員の小島の3人が、休館日にこっそり庭園で、ダ・ヴィンチの橋と呼ばれる、道具なしで作れる橋を角材だけで作って、実際に渡ってみて大盛り上がりした後、樫尾に無言で睨みつけられてすぐそれらを分解して片付ける場面。ここの「怖い女の人に怒られたからやめます。あ〜あ、せっかく楽しかったのに。おまえのせいです」的な、男の子たちが女の子に嗜められて逆に結束するみたいなシーン。いつまで経っても男は子どもなのねえ、みたいな。その目配せ自体がしょうもないし、別にかわいくも微笑ましくもないし、おもんないですよ。
鎌目くんを演じた鈴木拡樹くんはすごく怖かった。様々な舞台で活躍するそのお名前だけは存じていたけれど、実際に観てみて「あちこちにお呼ばれするわけだ……」と半笑いになるくらい器用で、それ故に怖かった。なんにでもなれる、なにでもない人みたいな感じだった。個性が感じられない。その"キャラクター" "だけ"がそこに居る感じがした。
美術館の館長を演じたお目当ての菅原永二はかわいかったし、かっこよかった。町から美術館がなくなってしまうことの文化的損失の甚大さをよくわかっていて、本社からの通達を伝えにきた羅山を説得しようとするシーンは感動した。羅山との絡みがすごくよくて、羅山からの電話に出たあと、留守番電話の音声案内のふりをしてしゃべるやり取りとか、メディアからの撮影依頼に応えてふたりで並んでわちゃわちゃポーズとってギャルピースしたりするところがかわいくて大好きだった。


散々こき下ろしておいてアレですけど、円盤発売中だそうです
次回作の出演者オーディションのニュースを見たけれど、こういう感じで今後もいくんだったら次も私には合わないかもしれないなと思いつつ、次の題材が天体観測と聞いて起立してしまう。それはずるいでしょ……。