レビュー

映画『PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』レビュー

朱と狡噛の“エモさ”に拍車がかかる!

【劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE】

5月12日 上映開始

 映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』が、遂に5月12日より上映される。今作では、TVアニメ三期の“何故、灼の父・慎導篤志(CV:菅生隆之さん)と炯の兄は死ななければいけなかったのか”という謎の真相が明らかになる。筆者としては、予告から既にシリーズファンの注目の的となっている常守朱(CV:花澤香菜さん)と狡噛慎也(CV:関智一さん)の“エモい”関係からも目が離せなかった。

 「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズでは、人間のあらゆる心理状態を数値化し管理する巨大監視ネットワーク「シビュラシステム」が人々の治安を維持している近未来を舞台に、それぞれの中に秘めた“正義”についての物語が描かれてきた。単に“ディストピア作品”と言えばそれまでだが、筆者としては“ディストピア作品”によくあるような陰鬱な雰囲気で見た後の沈んだ気分で終わるストーリーではなく、最後には希望が見え“人を信じてみよう”という元気がもらえるのが魅力だと思う。

 今回の映画『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』は、これまでシリーズを手掛けてきたProduction I.Gと冲方丁氏と深見真氏による脚本で製作された映画。劇中では、劇場三部作『PSYCHO-PASS サイコパス Sinners of the System Case.3 恩讐の彼方に__』とTVシリーズ三期「PSYCHO-PASS サイコパス 3」を繋ぐエピソードが展開。一期から登場している常守朱と狡噛慎也の関係性や、三期からの登場となった慎導灼(梶裕貴さん)と炯・ミハイル・イグナトフ(CV:中村悠⼀さん)が追い求めた“真実”がようやく明らかとなる。

慎導灼
炯・ミハイル・イグナトフとその婚約者の舞子・マイヤ・ストロンスカヤ(CV:清水理沙さん)

 三期で突然主人公が一新されていたことに加え、新たなシステム「ビフロスト」やそれを利用する「コングレスマン」とその末端となる「インスペクター」といった用語に困惑していたファンも多かった印象があるが、今回の映画を見ることで、三期で明かされなかった真実がわかる。筆者も当時はかなり困惑していたので、できれば三期の前に本作を見たかった。一方で、本作の公開によって物語の全貌を時系列順に見ることもできるようになったので、友人・知人に「PSYCHO-PASS サイコパス」シリーズを“布教”するのにはいいタイミングかもしれない。

 本作はこれまでの劇場版やTVアニメ版と比べても特にアクション色が濃く、シリーズお馴染みの不気味だが考えさせられる謎と相まって常時感情が揺さぶられていた。シリーズファンにもオススメだが、シリーズ未鑑賞でもSFアクション映画として楽しみたい人にもオススメだ。

 そこで本稿では同作の紹介と併せて、先日行なわれたメディア試写会にて同作を鑑賞した際のレビューをお届けしたい。本作のおすすめポイントや、劇中キーとなる人物、個人的に注目した部分、どんな人にオススメかなどを紹介していく。なお、上映劇場一覧は下記ページにて確認できる。

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』上映劇場一覧のページ

【『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』本予告】

深まる謎と怒涛のアクションで常時興奮状態!

 本作の魅力は何といってもいつにも増して多いアクション要素とこれまで語られなかったエピソードだ。疑問が明らかになったと思ったらまた別の疑問が出てくるようなストーリー構成や、行動課と公安局の共同捜査チーム対国外で破壊活動を続ける武装集団「ピースブレイカー」による爆発・銃撃・格闘を含めたアクションシーンによって2時間に及ぶ映画の最中はずっと圧倒されていた。ドミネーターの更なる“本気”が見れるのもシリーズファンには嬉しいポイントかもしれない。

 物語は、狡噛が行動課の航空機から海上の船舶に飛び移るところから始まる。船内は既に黒い装甲を身に纏った重装備の「ピースブレイカー」らによって占拠されており、狡噛とピースブレイカー構成員との激しい銃撃戦が繰り広げられる。最初からフルスロットルで描かれるアクションと、ピースブレイカー構成員の真っ黒な装甲服から光る頭部の赤いライトで、SF好きの筆者の心は鷲摑みにされた。変わらずリボルバーを使う点も好感度が高かった。

冒頭のアクションシーンにも注目してほしい

 その後は“公安局統括監視官”というなにやら凄そうな肩書となった常守朱が、各省と“法の廃止”について会議する場面へと切り替わる。そこには公安局も属する厚生省の統計本部長というこちらも何やら凄そうな肩書の慎導篤志も出席していた。

 本作ではこの“法の廃止”というのが重要な要素となっている。本予告PVラストでも映されていた様に、朱はこの“法”という言葉を重要視している。2015年公開の『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス』ラストなどからも分かる通り彼女は“法”を、人類が血の滲むような努力の末に獲得した“正義”としてみているようだった。朱は、度々劇中でも“神”と表現されている「シビュラシステム」が普及した世界においても、己のその“正義”を果たそうと奮闘しており、当の「シビュラシステム」からも関心が寄せられている。

 そんな会議の最中、篤志が会議のゲストとして呼んだミリシア・ストロンスカヤ博士が遺体となって発見され、本作の物語が進み始める。物語ではストロンスカヤ博士が最後に連絡した人物として一期などにも出演した雑賀譲二(CV:山路和弘さん)も登場。彼の鋭い事件の分析や、朱と狡噛の関係に言及する部分からも目が離せない。

 朱、狡噛、雑賀譲二、慎導篤志の4人が物語のキーとなる。一期でバディのように過ごしたものの離れ離れになった狡噛と朱の関係性から、2人を良く知る人物として描かれる雑賀譲二と、三期主人公たちが追う真実に最も近い慎導篤志の4人に是非注目していただきたい。

 予告でもすでに明かされてる朱と狡噛の「来て、くれますか」「来るなと言われても行く」や「私が言ったら帰ってたんですか」といったやり取りは、互いに自立しつつも相棒として“頼りたい、支えたい”という思いが浮き彫りになっているようで非常に“エモい”のだ。このやり取りを見るためにもう一度映画館に行きたい。

【『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』特報②】
【『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』イントロダクション】

 2118年1月。公安局統括監視官として会議に出席していた常守朱のもとへ、外国船舶で事件が起きたと一報が入った。

 同じ会議に出席していた厚生省統計本部長・慎導篤志とともに現場に急行する朱だったが、なぜか捜査権は外務省海外調整局行動課に委ねられていた。

 船からは、篤志が会議のゲストとして呼んだミリシア・ストロンスカヤ博士が遺体となって発見される。事件の背後には、行動課がずっと追っていた〈ピースブレイカー〉の存在があった。博士が確立した研究…通称〈ストロンスカヤ文書〉を狙い、〈ピースブレイカー〉の起こした事件だと知った刑事課一係は、行動課との共同捜査としてチームを編成する。

 そこには、かつて公安局から逃亡した、狡噛慎也の姿があった――。博士が最後に通信した雑賀譲二の協力を得て、文書を手に入れるべく出島へ向かった一係だったが…。

 〈ストロンスカヤ文書〉を巡り、予想を超えた大きな事件に立ち向かっていくこととなる朱と狡噛。その先には、日本政府、そしてシビュラシステムをも揺るがす、ある真実が隠されていた。ミッシングリンクをつなぐ〈語られなかった物語〉が、ついに明らかになる――。

『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』イントロダクションのページ

常守朱と狡噛慎也の恋愛とは違う関係性、そして渋い魅力が光る雑賀譲二に慎導篤志

 先ほどから何度も書いている様に、本作の魅力は間違いなく常守朱と狡噛慎也の関係性だ。これまで数々の修羅場を単独でも2人でもくぐってきた2人が揃うことで、“やばいけど2人なら何とかなりそう”という安心感に加えて、10周年を迎えるシリーズだけあって最初期のキャラクターである2人の互いへの厚い信頼が伺えるのがいい。

朱ちゃんの泣き顔も見れる

 加えて、そこにエッセンスとして“渋い大人”が登場するのもポイントが高いのだ。特に雑賀譲二と慎導篤志の響く台詞の数々は是非耳を済ませて聞いてほしい。筆者としては鑑賞中他人事に聞こえなかった。中でも雑賀譲二の「正義も真実も多面的だ。上から見なければ理解できないこともある」という台詞は、社会人になる前と後の物事の見え方の変わりようにも当てはまるし、世の中の出来事についても同じことが言えるかもしれない。加えて、慎導篤志の覚悟と責任感にも心が締め付けられた。

 少し大げさだが、つまるところ自分の中の“正義”を見つけることが大切なのだと思う。“結果は1つでも見る方向を変えれば正しいようにも間違っている様にも見える”この考えを念頭に鑑賞すると各キャラクターから見える世界を想像できて楽しいのだ。朱達主人公サイドや慎導篤志らの大人側、ピースブレイカー側、それぞれに自分達の信じる正義がしっかりと描かれている。

 さらに、雑賀譲二役の山路和弘さんと慎導篤志役の菅生隆之さんの声がまた“ずるい”のだ。お2人とも渋い声で魅力的なキャラクターを多く演じてきたからこそ声にのる説得力も桁違いで、特に菅生隆之さんは筆者的に「天元突破グレンラガン」の20年後のシモンを演じていたこともあって、一瞬の劇中出演だったにも関わらず強烈に“人生経験豊富な男性”というイメージがある。

 朱と狡噛の若く自分にまっすぐな姿も見られるし、雑賀譲二や慎導篤志の“大人とは”といった後に思いを託す姿も見られるのだ。

【『劇場版 PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』特報①】

SFアクション好きにもオススメ!

 ここまで長々とキャラクターの魅力について語ってきたが、冒頭で述べたようにシリーズを未鑑賞でもSFアクション作品が好きな人にもオススメだ。

 本作では予告でも公開されている様に、ドローンによるドッグファイトや近未来的デザインの装甲服に身を包んだ兵士による銃撃戦、あきらかにオーバーテクノロジー的描写のドミネーターといったSF要素が豊富で、派手なビーム、近未来的ロボット技術といった王道ながらも新たな要素が詰まったSF描写が満載なのだ。筆者自身SF作品も好きなので、そういった細かいギミックにも心惹かれた。

朱ちゃんの奥に数台いる白いのが結構多機能な公安局のドローン。威圧的な見た目でないこともリアリティがあってポイントが高い
謎のビームで“執行”するドミネーターは本作屈指のSF武器
ファンにはお馴染みの光景だが一係のオフィスも近未来的なパソコンが多数設置されていて細かい

 もしシリーズを見たことがない人で“話が難しそう”と懸念して見ていない人もSFアクション映画だといえば少しはハードルが下がるのではないだろうか。そして徐々に物語の魅力に沼っていただければいちファンとして嬉しい。

 加えて、エンディング・テーマのEGOISTによる「当事者」が本作にとてもマッチしていて、本編が終わった後の余韻を盛り上げてくれる。歌詞にも注目して聴いてみてほしい。物語と良くシンクロしている。最後まで聴いてほしい。

 それと、喫煙者の方は映画を見る前に喫煙所に行くことを他の映画よりも強くオススメする。上映時間がどうのこうのという話ではなく、狡噛がそれはもう美味しそうにタバコを吸うので間違いなく鑑賞中に吸いたくなる。筆者自身喫煙者なので美味しそうに吸う姿と、エンディング・テーマで高められた“エモい”気持ちで早く吸いたくて仕方がなかった。

どの喫煙シーンも本当に美味しそう
【EGOIST『当事者』Music Video(PSYCHO-PASS ver.)(『劇場版PSYCHO-PASS サイコパス PROVIDENCE』エンディング・テーマ)】
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