
今回は、呉美保監督が9年ぶりにメガホンを取った話題作『ぼくが生きてる、ふたつの世界』をご紹介します。この作品は、作家・五十嵐大の自伝的エッセイ『ろうの両親から生まれたぼくが聴こえる世界と聴こえない世界を行き来して考えた30のこと』を映画化したもので、主人公の心の葛藤と成長が描かれた感動的なヒューマンドラマです。

舞台は宮城県の小さな港町。耳の聴こえない両親のもとで育った主人公・大(吉沢亮)は、幼い頃から母の通訳をすることが日常でした。愛情を受けて育ちながらも、成長とともに周囲から特別視されることに戸惑い、反発心を抱くようになります。20歳で家を出て上京した大は、自分の生い立ちを知らない都会で新しい生活を始めますが、さまざまな経験を通して家族との絆を再び見つめ直すことになります。
この映画の魅力の一つは、ろう者の役を実際にろう者の俳優が演じていること。母親役の忍足亜希子、父親役の今井彰人は、聴覚障害を持つ親を自然な演技で表現し、家族の温かさやリアルなコミュニケーションを映し出しています。特に忍足亜希子さん演じる母親・明子の、どんなに反抗的な息子にも愛情を注ぎ続ける姿には、多くの観客が涙を流すことでしょう。
本作は、親子の絆や家族愛を描くだけでなく、聴覚に障害を持つ家族の中で育った子供が、両親との関係に悩み、葛藤しながら成長していく姿を繊細に描いています。この点で、多くの方が2021年のアカデミー賞受賞作『コーダ あいのうた』を思い出すかもしれませんが、『ぼくが生きてる、ふたつの世界』はオリジナルの日本映画として、独自のテーマと視点を持っています。
主人公の大が、自分の過去を振り返りながら家族の愛を再認識していく過程は、私たち誰もが共感できる普遍的なテーマです。大人になってから初めて見えてくる家族の愛や、その愛を受け入れ直す強さが描かれ、観る人の心に深く残ります。
主演の吉沢亮さんは、母親に対する反発心から都会で孤独に生きる青年を見事に演じています。複雑な心情を抑えた演技で表現し、次第に自分の生い立ちを受け入れていく過程は見ごたえがあります。また、ろう者の両親を演じたキャストとの自然な掛け合いは、観客にとっても非常にリアルで心を打たれるものとなっています。
2024年製作/105分/G/日本
配給:ギャガ
劇場公開日:2024年9月20日