Kindle版もあります。
日本に押し寄せる中国“新移民”とは何者なのか?
●中学受験で躍進する中国人富裕層の子どもたち!
●湾岸タワマンをキャッシュで爆買い!
●現金を日本に持ち込む地下銀行ルートの実態!
●銀座のど真ん中を一望できる会員制クラブ!
●北海道ニセコ町を開発する香港系投資家の勝算!「潤」は、最近中国で流行っている言葉で、さまざまな理由からより良い暮らしを求めて中国を脱出する人々を指す。もともと「儲ける」という意味だが、中国語のローマ字表記であるピンインでRunと書くことから、英語の「run(逃げる)」とダブルミーニングになっている。
「潤日」コミュニティ――、多くの日本人が知らぬ間に、中国や日本、そして世界の変化に応じる形で急速に存在感を増しつつある。
この全く新しいタイプの中国人移民たちをつぶさに訪ねて耳を傾けると、その新規性や奥深さを痛切に感じるとともに、日本の政治、経済、社会に見逃せないほどの大きなインパクトをもたらしつつある現状が見えてきた。
日本に「移住」してくる中国人たち。
海外からの移民というと「健康保険や生活保護にただ乗り」みたいな悪いイメージがSNSで拡散されることもあるのですが、この本は、中国での生活に「見切りをつけて」日本にやってきた中国人富裕層、知識人たちに直に接し、彼らのコミュニティを取材して書かれています。
地方都市で生活している僕には実感がわかないのですが、首都圏では、中国の経済的な将来性や子どもの教育、政権からの抑圧の脱出先として、日本移住を選んだ中国人がかなり大勢いるのです。
そもそも「潤」とは何なのか。
この言葉が中国で最初に出現したのは2018年で、本格的に流行するようになったのは2022年に入ってからだった。「潤」という言葉は一種の社会に対する不満の表明であり、どうしようもない現状を嘆く意味合いが強い。
「中国で改革開放が当時解き放った潜在力と経済エネルギーは、過去20年で徐々に既得権益と経済エリート手中の利益に集中するようになってきた」
『ファイナンシャル・タイムズ』中国版のコラムニストで香港大学で教鞭をとるブライアン・ウォン助教授は、若者世代の動向からこの流行語を読み解いた。
「一般家庭の第2世代、第3世代は生活の中で大きなプレッシャーに直面するようになっており、(中略)若者は『躺平(たんぴん)』(寝そべり)の態度をとるようになった」
激しい競争の中で、特に大都市圏ではサバイバルに近い状況が出現していると分析する。つまり、「潤」はもともと激化する競争や就職戦線などで不安に駆られた若者が局面打倒を目指し海外移住を志向する動きだったのだ。
膨大な人口を抱え、激しい競争社会となっている中国での生存競争に疲れ、海外移住を目指す人が増えるというのは、わかるような気がします。
僕が子どもの頃、30~40年前くらいの中国って、テレビではかなりの頻度で太平洋戦争後に中国に取り残された「中国残留孤児」の身元捜しの番組が放送されており、「貧しい国で過酷な生活をしてきた日本人の子どもたち」を「かわいそう……」と多くの人が視ていたのです。
彼らのなかで、身元がわかった人たちの多くは、「豊かな国」であった日本に移住したものの、日本語がわかるわけでもなく、周囲も「同情」はするものの、なかなか仕事もなく、お金もなく……という厳しい状況に置かれました。
経済的・軍事的な発展にともない、今や中国の若いネット民たちは、日本を「煽る」ようになっています。
あれだけ「反日」教育を受けているはずなのに、なぜ日本を移住先として選ぶ人が大勢いるのか?
「潤日」の人たちに話を聞くと、日本を選んだ理由としてよく挙がるのが、物価が他の先進国と比べて安い、過ごしやすい気候、漢字圏なので必ずしも日本語が話せなくても暮らせるといった点だ。
日本が「潤」のスイートスポットとなっているのは、欧米各国がゴールデンビザ(投資家ビザ)の縮小・制限に向けて舵を切る中で、日本は逆に関連する長期滞在系ビザの緩和に動いていることも大きい。
私の過去の取材を今振り返ってみると、確かに日本でも2010年代半ばごろから「潤」の前兆のような動きが少しずつ出てきた。
中国で反腐敗キャンペーンが盛り上がっていた2014年末に、方正集団という北京大学からスピンオフした会社の李友CEOが失脚した高官、令計画の妻と息子に「3億8000ドル相当の京都の豪邸2軒」をプレゼントしていたとの情報が出回り、中国で大きな話題となった。
中国人富裕層が日本への移住を選択する理由として、日本は他の先進国よりもモノやサービスの値段が安く、中国やアメリカよりも大学に合格しやすく、投資家ビザのハードルが低い、そして、中国人にとっては、商品や文化に接する機会が多く、慣れている、というようなメリットが挙げられています。
投資家ビザに関しては、日本でも「条件が緩すぎる」と見直しが進んでいることが最近のニュースにありました。
移住してくる中国人の側も、「日本に」移住したい、というよりは、現在の物価や中国との物理的・文化的な距離、偏差値の高い大学への入学難易度などを考慮し、「選択できるなかでの最善策」として日本を選んでいる場合が多いようです。
もっとお金があったり、学力があったりすれば、アメリカに行く、アメリカが難しければシンガポール、それも難しい(あるいはアニメやゲームがよほど好き)なら日本、というような感じのようです。
彼らは「日本」にこだわりがあるわけではなく、状況によっては、他の国にさらに移住する可能性も高い、ということでした。
少し前に「定年退職後は東南アジア諸国で優雅な生活を!」というのが日本でもちょっとしたブームになっていましたが、相対的な日本経済の世界基準での停滞と円安などで、それも難しくなっています。
中国から日本に移住してくる人、といっても、「東京のタワーマンションは設備のわりに安い」と言っている人もいれば、「もっと広い家に住めると思っていた」と愚痴をこぼす人もいます。
思想的な問題で中国政府(共産党)から目をつけられていることに身の危険を感じ、「自由な」日本に逃れてきた人もいるのです。
日本では、政府や政治家の悪口を言ったり、ブログやSNSに書いたりしても、圧力をかけられ、身の危険を感じることはほとんどありません。
批判した当事者からではなく、その支持者から攻撃されて「炎上」する、という可能性は少なからずあるとしても。
僕はずっと九州在住なので、首都圏、とくに東京の状況はわからないのですが、中国の学歴社会があまりにも加熱しすぎてしまったため、日本で高等教育を受けるために移住してきている家族も増えているようです。
実際、中国系の生徒が増えているのかを学校に尋ねると、男子御三家の筆頭でもある開成学園からは「中国を含む海外にルーツを持っている生徒が増えている感覚はあり、全体の5~10%程度と考えております」との回答があった。
麻布学園からは「学外の相談会に参加した印象では、昨年ぐらいは中国系の方が多くいらっしゃったように思う」とのコメントがあった。
そもそも中国人の教育熱はどのように生まれたのだろうか?
中国のトップ大学の卒業生で、子供を東京で最難関の中高一貫校の一つに通わせている女性によると「北京大学のような中国の難関校に入るよりも東大に入るほうがずっと簡単」だそうだ。
「まず学齢人口の規模が全然違います。そして中国人は全員が『鶏娃(ジーワー)』です。日本でそういう人は一部だけですから」
「鶏娃」という俗語は、極端に教育熱心な親のことを指す。学問で官僚を選抜する「科挙」の伝統がある中国には、教育しだいで運命は変えられるという考え方が根付いている。
新中国成立後も、1990年代ごろまでは努力次第で底辺から上に登りつめられるという感覚があった。
だが、いまや特権や「関係(グァンシー)」がなければ良い大学に入れないという風潮ができつつある。また中国の全国統一試験では長年芸術加点があったこともあり、子供にバイオリンやピアノなど日替わりで習い事をさせることが一般的になった。教育のコストはうなぎのぼりだ。
日本に移住してきた40代後半の起業家の、こんなエピソードも紹介されています。
日本へ移住する前に来日したことはなかったのだという。成田空港に降り立った当日はこの国に「憧憬」を抱いていたという。ただ、実際に来てみて日本社会の遅れぶりには驚かされたそうだ。
なんでも全部封筒で送られてくる。300通くらいきたと思います。ものすごく面倒くさい。30年前と同じやり方でやっている。
そう言って、これみよがしに両手を精一杯広げた。
あと東京は人が冷たいですね。
「人が冷たい」のは、東京人の気質もあるのかもしれませんが、この人が日本は遅れている、という態度をとっているから、じゃないのかな……とも思いました。
僕が大学に通っていた30年ちょっと前くらいは、中国からの留学生に、「開発途上国から一旗揚げようと日本に留学するなんて偉いなあ」とか思っていたんですよ。でも、いまの中国からの留学生は「中国やアメリカの有名大学は無理みたいだから、日本くらいで妥協しておくか」という感じになってきているようです。
アフリカのある国では、固定電話がほとんど普及していなかったために、かえって、急速に携帯電話やスマートフォンが普及していった、というのを聞いたことがあります。
日本のやたらと多い(大部分はどうでもいい宣伝の)郵便物も、日本がこれまで積み上げてきた郵便事業の歴史があまりにも精緻で大きな産業にもなっているために、新しいものに切り替えづらくなってしまっているのです。
福岡で不動産仲介業に従事する別の香港人が話す。
「福岡のタワーマンションだと1億円以上尾になるんですが、買うのはほとんど外国人です」
九州一の高さを誇るタワマンのオーシャン&フォレストタワーレジデンス(地上48階建て、福岡市東区)には多くの中国人が住んでいることが知られる。この男性によると、実は上層部のプレミアムフロアでは香港人所有率が少なくとも10%に達しているとのことだ。
施工主の積水ハウスは、香港人購入者のリクエストに応じる形で水回りを増やすなど特別な対応をしたという。同社は福岡市中心部に低層マンション、グランドメゾン福岡 The Central Luxeを建設中で、最高価格となる6億円の部屋にはもともと2つのトイレがついているのだそうだ。
「積水は学んだ」と、この男性は一笑に付す。多くの日本人が知らないうちに、マンションのデザインが「脱日本化」を始めている。
中国人をはじめとする海外からの超富裕層の流入で、日本は人口が減っているにもかかわらず、一等地の不動産価格が上昇し、以前からの地元の住民の日本人は郊外に移り住まざるをえなくなっています。
露骨な排外主義、というわけではなくても、ずっとその地域に住んでいた人たちが、「豊かな移民」にネガティブな感情を抱くのもわかるような気がします。贅沢三昧の成金に不快になるのは、相手の人種や国籍に関係ないかもしれませんが。
中国からの留学生が開成高校にたくさん合格すれば、その分、日本人の合格者数は減ってしまいます。
開成高校に縁がある学生はごく一部ではあるとしても、そういう「小さな不利益の積み重ね」が、反感をつのらせていくのです。
もちろん、中国の人たちがみんな超富裕層というわけでもなく、日本から海外に移住した富裕層も、外国で同じように見られているのでしょう。
IT化が急速に進み、格差が拡大し、「大国化」している中国。
経済成長は停滞しているけれど、島国のなかで、「まだ自分たちは豊かだ」と信じてきた日本。
こうして、多くの人が「物価もサービスも安い国」だからとやってくるようになったこともあって、日本の物価は上がり続けていて、価格が国際基準で「適正化」されれば、インバウンド需要は減り、残されるのは物価高に苦しむ日本人だけ、ということになりそうな気もします。
物価が上がれば、給料も上がっていく、と経済学者たちは言うのだけれど、大企業の昇給が報じられる一方で、僕の給料は上がる気配すらないし、周りもみんな同じみたいなんですよね……
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