Kindle版もあります。
コンサル栄えて、国滅ぶ――。
福島県のある町で、「企業版ふるさと納税」を財源に不可解な事業が始まろうとしていた。
著者の取材から浮かび上がったのは、過疎にあえぐ小さな自治体に近づき公金を食い物にする「過疎ビジネス」と、地域の重要施策を企業に丸投げし、問題が発生すると責任逃れに終始する「限界役場」の実態だった。
福島県国見町、宮城県亘理町、北海道むかわ町などへの取材をもとに、著者は「地方創生」の現実を突きつけていく。
本書は「新聞労連ジャーナリズム大賞」受賞の河北新報の調査報道をもとに、さらなる追加取材によって新たに構成した一冊。
「コンサル栄えて、国滅ぶ──」か……
この本、福島県国見町での「企業版ふるさと納税」を財源とした不可解な「事業」と、それを推進した企業と国見町の行政との癒着を告発した、河北新報の報道を新書化したものです。
福島県の北端に位置する国見町は、果樹栽培が盛んな人口8000人ほどの町だ。2022年、こののどかな町で突如、ある事業が始まった。匿名の企業三社から受けた計4億3200万円の企業版ふるさと納税を財源に、高規格救急車を12台購入して他の自治体にリースするという、何とも不可解な地方創生事業だった。
その事業を、一社のみの応募で国見町から請け負ったのがワンテーブルだ。
2016年創業のワンテーブルは、東日本大震災の被災地発の防災ベンチャーだ。宮城県仙台市から上場支援を受けるなど、新進気鋭といえる企業だった。ここ数年は地方創生のコンサルタントにも手を広げていたが、救急車メーカーではなかった。
国見町の救急車リース事業でワンテーブルは、救急車ベンチャーの「ベルリング」と提携していた。ベルリングはIT大手DMM.com(東京)の傘下企業で、国見町は企業名を伏せ続けるが、事業の原資を企業版ふるさと納税で町に匿名寄付したのはDMMグループだった。
企業版ふるさと納税は、地方創生の財源不足に悩む自治体向けに国が創設した制度だ。寄付額の最大9割が法人税などから税額控除される。自治体に寄付した企業のグループ会社が、その寄付金を使った事業を受注すれば、利益を囲い込める。何ともよく考えられた事業スキームだった。「寄付金還流」とも「課税逃れ」とも言えそうな話だが。
読んでみると、「なんじゃこれは」と思うような話なんですよ。
人口8000人の自治体に、高性能の救急車(気管内挿管や自動体外式除細動器(AED)が車内で使える高規格救急車)が12台も必要なのか?
1台導入して、地元の人たちの医療のために利用する、というのなら話はわかるのですが、国見町はこの救急車を「研究開発のために」「町の知名度をあげるために」購入し、町ではまったく使わず、福島県内外の自治体や消防組合に貸し出して、これを新しい産業にする、と表明したのです。
しかも、その消防車は1台当たりの価格が市場価格よりも非常に割高に設定されていて、「研究開発」といえるような新しいシステムが搭載されているわけでもなく、実際に決まった一社以外以外は排除されるような購入条件になっていたのです。
のちに、その救急車を受注した企業と町の関係者とが入札前に「すり合わせ」をしていたことも明らかにされています。
もともとが企業からの寄付金だから、町民の懐が痛むわけではない、ということなのでしょうが、ここまであからさまな地方創生を掲げるコンサルタント企業と地方自治体との癒着、そして、「企業版ふるさと納税」を利用した悪質な「税金逃れ」が行われていたということに、僕は呆れてしまいました。
自分が住んでいる自治体は違う、と信じたいけれど、その一方で、いまの地方自治体には、地方創生とか言われても、自分たちではどうしようもなく、コンサルの言いなりになってしまっているところが少なからずありそうだと感じます。
こんなことが地方自治体で一度は認められ、河北新報の報道と関係者の告発がなければ、これが町の事業となっていたのです。救急車を運用して利益を受け取るのはワンテーブル社で、町は、コンサル会社と救急車のメーカー、そして、ふるさと納税で節税できる企業に利用されるだけです。
でも、こんなひどい話があったことを、最近紙の新聞は読んでおらず、ネットでも芸能やスポーツの記事、あるいは経済関連の記事にしか目を通さない僕は知りませんでした。
自分が住んでいるところならともかく、九州に住んでいると、福島県の地方自治体の不祥事は、積極的に自分から調べないかぎり、なかなかニュースとして伝わってこないのです。
こんな無茶苦茶な、地方自治の危機、といえるような話であっても。
現地でさえ、報道がなければ、ほとんどの人は、「スルー」しかけていたわけですし。
当時、ワンテーブル社の社長だった島田昌幸氏は、東日本大震災がきっかけで防災ベンチャーをはじめた、という起業家だったのですが、この国見町の事案について島田氏がしゃべっている、こんな音声が流出しました。
この音声が記録されたのは、国見町が救急車リース事業の委託先公募を始める数カ月前、後に事業を一社のみの応募で受注したワンテーブル社長の島田は、公募前にもかかわらず事業の内幕を堂々と明かしていた。おそらく浮かれていたのだろう。
島田はこう語っていた。
「僕たちは企業版ふるさと納税という制度を使いながら、黒を白に変えている。侵食しまくっている。時にはマネーのパワーで抑え込んだり、でもそれが正しいって時に。(中略)救急車の開発ということで、DMMが毎年4億から5億を寄付するんです。それをもってうちに全てがきて、研究開発できる。無償貸与という形で自治体から受けて、またそれを実証実験という名のもとに貸すんですけど、これはもう、企業の利益をぐるぐる回しまくっているんです。どっちかっていうと、取る時は国からも取りますけど、制度を超えちゃう領域もあって、アンタッチャブルな時もあるので。そういう時はありとあらゆる政策をくっつけて、資金を浄化させて、超絶いいマネーロンダリングをして、そして仕事にして返す。キックバックじゃない。業務にして返す。それを今やっている」
(中略)
「町に寄付して資金を持たせて運用でもうけるというのが、うちらのやり方。結局、ハードを持っちゃうと減価償却だし、寄付すれば1回で終わるので。今のDMMの救急車事業も、4億寄付してもらって、うちに4億がそのままくる。企業版ふるさと納税の寄付だから3億6000万円は還付される。4億のうち、4000万円の利益が出れば、もはやもうかったふうな話になっちゃう。もうかるに決まっている。なぜか寄付するんだけど、あべこべもうかっちゃう事業なんですよ」
ワンテーブルは事業主体としてコンサル料を得られる。完成した救急車はリース事業で使われるから、運用でさらに利益が出る。この実によく考えられた事業スキームは既に報じていたが、まさか張本人の肉声で聞くことにはなるとは夢にも思わなかった。
情報元は秘匿されているので、どこで語られたのかはわかりませんが、それにしても、こんなことを社長が人前で自慢げに語るなんて、酷い話であり、「脇が甘い」とも思いました。
逆に、こんな感じ悪い社長の話の音声データが公開されず、きれいごとで通していれば、ここまで市民の反感を買うことはなかったかもしれません。
基本的に、国民は、誰が首相になるのか、自民党の派閥の力関係はどうなっているのか、不祥事を起こした有名議員は罰せられないのか、などの「政局」には興味があるのだけれど、より自分の生活に関係が深いはずの地元の自治体の議会での討論内容や政策の内容については、関心が薄いのです(僕もそうです)。
この録音テープのなかに、ワンテーブルの島田氏のこんな言葉もあります。
「(自治体にワンテーブルの提案した事業を)やりたい、と言わせたらこっちの勝ちで、あとは言うことを聞かせる。次は踏み絵があって、押し込みたいソリューションがあっても、議会を通さないといけない。首長がいて、最後に議会を通せる自治体なのか。なので僕は一番に、僕を専門家として呼ぶかどうかを踏み絵にします。つまり(地域力創造アドバイザーは総務省が派遣費用を負担するため)タダじゃないですか。タダの人材さえ呼べない自治体はやらないほうがいい。タダで呼ぶにしても議会に説明がいるので、そこで(首長、職員、議員のレベルを)見抜いている。地方議会なんてそんなものですよ。雑魚だから。俺らのほうが勉強しているし、分かっているから。言うこと聞けっていうのが本音じゃないですか」
「地方」は、ここまでナメられているのか……と、暗澹たる気持ちになりました。
もちろん、ワンテーブルの「言いなり」になる自治体ばかりではないのです(というか、さすがにここまでやる会社の言う通りにする自治体は少ないみたいですが)。
河北新報が報じて、多くの人がその調査報道に協力し、このセンセーショナルな島田氏の発言が公にならなければ、多くの住民が「無関心」なまま、この救急車リース事業は実施されていたかもしれません。
マスコミは芸能人の不倫報道やテレビの内容の後追いや企業の新製品の宣伝ばかりじゃなくて、ちゃんと社会問題を追及しろ、という声を、ネットでよく見かけます。
でも、この本を読んで、気骨がある既存のネットメディアの調査力や影響力、そして、世論を形成する力は、依然として大きいと再認識させられました。
善意の告発者がいても、今回の河北新報のような「核」になってくれる存在がないと、公的な権力に抵抗するのはきわめて困難なのです。
国見町側も、なんとかして責任逃れをしようと画策し、証拠になるようなデータを消したり、告発者にペナルティを加えたりもしています。
選挙で選ばれた市長や自治体の職員なのに、自分が権力の側にいると、とにかく保身が大事になってしまう。
国見町の議会は、この事件をきっかけに変わろうという兆しをみせていますが、このくらいの不祥事でもないと、有権者は、自分たちの地元の状況に興味を示してくれない、というのも事実なのです。
2014年に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、国は人口減少や東京一極集中に歯止めをかけようと、全ての自治体に地方版総合戦略の早期策定を求めた。戦略を策定して国の認可を得なければ交付金がもらえない。結果として、自治体職員は事業の評価指標の設定など、慣れない作業を強いられることになった。
興味深いデータがある。地方自治総合研究所(東京)が2017年に全国の1741市町村を対象に行った調査だ。集計母体とした1342自治体のうち、実に77.3%が地方版総合戦略の策定を外部のコンサルタントに委託していた。多くの自治体は、戦略の策定作業を行う人手もノウハウも不足していたのだ。
この調査結果をまとめた論文の執筆者であるNPO法人ローカル・グランドデザイン(東京)理事の坂本誠に話を聞いた。
「特徴としてあるのは、東京など大都市に所在する大手コンサルタントへの集中で、目立つのは丸投げ的な依存。自治体の主体的なマネジメントなきコンサルへの委託です」
そう言って坂本理事はオンラインの画面越しに顔を歪めた。国見町で発覚した問題は、どこの自治体にも当てはまる構造的な問題を内包しているという。
地方自治体の職員としては、「急にそんな創生事業をやって、他の自治体と競争しろと言われても……」ですよね、たぶん。
どこから手をつけていいのかすらわからず、結局、ノウハウを持っている(とされる)大都市の大手コンサルタントに依頼するしかない。
でも、大都会に住んで、地下鉄で通勤し、タワーマンションで暮らしているコンサルの人たちに(それも偏見かもしれませんが)、地方の発信すべき魅力とか、何が問題なのかとか、地元民の考え方とかが、そう簡単に理解できるとは思えないのです。
それで、どこも同じような「地方創生のための計画」がつくられ、中には国見町に対するワンテーブルのような「地方自治体を食い物にする」ようなコンサルも出てきます。
ここまで読んで、興味を持たれた方は、ぜひ、この記事を読んでみてください。
われわれが「雑魚」だとバカにされる最大の理由は、「自分が食い物にされているのに、そのことを知ろうともせず、抵抗する意思もなく、ただ黙って食われているから」なのだと思います。
それにしても、「良心」と「権力」というのは、なんでこんなに相性が悪いのだろうか。
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