
あらすじ
原作・久住昌之、作画・谷口ジローによる同名漫画を実写化し、グルメドキュメンタリードラマの代名詞的存在として長年にわたり人気を集めるテレビドラマ「孤独のグルメ」シリーズの劇場版。主演の松重豊が自ら監督を務め、主人公・井之頭五郎が究極のスープを求めて世界を巡る姿を描く。
2025年映画館での鑑賞2作目。観客は30人くらいでした。
平日の朝からの回。
この映画化の話を知ったときに、「日常のなかの『食事』という小さな冒険」の話であることが『孤独のグルメ』の魅力なのに、人気俳優をキャスティングした「感動の超大作」みたいなのにならなければいいんだけど、と思ったんですよね。
『ドラえもん』は、テレビのレギュラー放送と「映画」では、長年「棲み分け」をやってきたけれど、『孤独のグルメ』は、あのくらいの時間(本編30分弱くらい)だからこそ観る側にとっても気楽なのです。大晦日などに1時間30分とかのスペシャル版も放送されているのですが、1話1店、30分くらいがちょうどいいのではないか、と。
正直、僕は松重豊さんが井之頭五郎役に決まったときも、「五郎って、もう少し若くて、優しい顔立ちだと思うんだけど……」と感じていました。
ドラマは大成功しているわけですが、松重さんのはまり役というよりは、漫画の谷口ジローさんが描いている五郎とは別物で、「松重豊さんが、松重さんの井之頭五郎を生み出して世の中に認めさせた」のではないかと。
谷口さんはもう亡くなられていますから、漫画の新作が描かれることはない。
ドラマの『孤独のグルメ』は、「松重豊の『孤独のグルメ』」だと割り切って考えるようにしています。
今回の映画版、他に観たい映画もないし、映画の『孤独のグルメ』って、どんなふうになるんだろう、松重さんが監督をつとめ、脚本も書かれているみたいだけど、という興味で観てみたのです。
パリでロケ!杏さんが出演!という前情報は得ていたので、なんか壮大なスケールのロードムービーになってしまうのか、と思いながら冒頭の流れを観ていたのですが、なんだかもう、パリのシーンから、「せっかくパリにまで来て、こんなふだんのドラマの『孤独のグルメ』と一緒で良いの?」とニヤニヤしてしまうくらいの平常営業っぷりで、嬉しくなってしまいました。
大スクリーン、豪華キャスト、世界各地(というほどじゃないかもしれないけれど)でのロケ、2時間近い上映時間……
これほど「下ごしらえ」がされていれば、肩に力が入った、大作、感動作を撮ってしまいそうじゃないですか。
で、観る側としては、「豪華なはずなんだけど、胃がもたれる、『らしくない孤独のグルメ』」に、首を捻りながらシアターを出ることになる。
ところが、この『劇映画 孤独のグルメ』は、せっかくパリに行ったのに、日本の定食屋とあんまり変わらないような店に入るし、物語の中で、五郎は「ふだんは絶対にそんな危ないことしないだろ!」と全力でツッコミを入れたくなるような「暴走」をしていきます。
作中ではそんなに大事にはならないのですが、普通なら、五郎さん、少なくとも2回は死んでるよこれ。スパイ容疑とかでそう簡単には解放してもらえないだろうし。
ディテールやリアリティにこだわりたい僕のような観客にとっては「なんじゃこりゃあ!」と苦笑してしまうような展開満載なわけですが、そこで「いや、せっかくの映画なんだから、遊んじゃおうよ」という松重さんの声が聞こえてくるのです(たぶん幻聴)。
2時間気楽に観ることができて、適度に人情噺と作り手の気持ちがこもった(高価ではない)食べ物が出てきて、このドラマが大人気だという韓国の観客にもアピールし、杏さん、内田有紀さんを堪能できる。伊丹十三監督へのオマージュ(ですよね)も!
このドラマが素晴らしいのは、「映画である」ことに肩肘張らずに、松重豊の『孤独のグルメ』らしさを貫いたこと、日常の風景を魅力的に見せてくれること、そして、「おいしい食事をおいしく食べられる幸せ」を見せること、「娯楽と気分転換のための時間」に徹しているところだと思うのです。
杏さんと内田有紀さん、とくに内田有紀さんの佇まいがすごく良かった。内田さんは僕より少しだけお若いくらいで、僕が若い頃は、同世代の男にすごい人気でした。僕自身は、アイドルとかにはあまり興味がなかったのですが。
今回映画館の大スクリーンで内田有紀さんを観て、ああ、内田さん、なんだかすごく良い年齢の重ねかたをしているなあ、と、しみじみ思いました。
それは、杏さんや塩見三省さんに対しても感じたことです。五郎が訪れる食堂のスタッフにも「日常を積み重ねてきた人間」の滋養が溢れていたのです。
松重さんは、この映画のキャスティングについて、このインタビューの中で、
「特に今回は俳優部同士で付き合っている頃から、絶大な信頼を置いていると思える方しかお呼びしませんでしたし、その方々が出してきた答えというのが想像を超えてきたというのが、やはり一番驚きましたね」
と仰っています。
いちばん「演じすぎている」のは主人公である松重さんの五郎で、五郎以外の登場人物は、塩見さんが少し「遊んでいる」くらいで、みんな「地に足がついている人」として存在しています。ストーリーも、荒唐無稽な展開、RPGかよ!と言いたくなるようなアイテム集め、御都合主義だ!と言いたくなるタイミングで出てくる、「ネットで検索しても見つからなかったヒント」など、緻密さとは無縁で、ツッコミどころ満載です。
でも、それを「別にいいじゃん、『孤独のグルメ』なんだから」と観ている側もニヤニヤしながら楽しんでしまえるのが、「長い間愛されてきたコンテンツの力」なんでしょうね。
2時間の上映時間はダレるのではないか、と危惧していたのですが、むしろ、2時間ずっとダレっぱなしで、それがかえって心地よい、そんな映画でした。
説明しすぎない、うまくいきすぎない、リアリティに縛られすぎない。
まさに、ふらっと入った定食屋が、けっこう「当たり」だった、そんな気分になれる映画です。
たぶん配信もされるでしょうし、今年の年末あたりには地上波でも放映されるはずです。
でも、映画館の大スクリーンで観る、松重さんの『孤独のグルメ』は、なんだかとてもワクワクしました。若いイケメン、アイドルは出てこないのですが、それがいい。
俺たちの世代には、内田有紀(さん)がいる!と、なんだか元気が出てきました。
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