今年読んで面白かった本シリーズになります。
たぶん一位が前の記事で書いた『クアトロ・ラガッツィ』なのですが、これは今年の春先に読んで面白かった本でもあります。
シャーリイ・ジャクスンは言わずと知れたアメリカン・ホラーの作家。代表作は『ずっとお城で暮らしてる』(こちらも2018年にタイッサ・ファーミガ主演で映画化しています)や社会を賑わせた短編ホラー『くじ』など。シャーリイに影響を受けた18名によるトリビュート集です。
今年、映画『Shirley シャーリイ』が劇場公開されたのでシャーリイ・ジャクスン熱が高まりました。

映画は『処刑人(別タイトルだと絞首人)』の構想を練っているシャーリイとその夫、そして居候することになった若い夫婦の関係をめぐって渦巻いていく心理サスペンスもの。夫役が私の大好きなマイケル・スタールバーグで最高でした。
日常の中のちょっとした違和感、足を運んではいけない場(それもことさらに恐怖をあおるような場所ではないところ)に潜む異常、ぺろりと一皮むけると邪悪な存在とわかる身近な人間。そういう怖さがジャクスンの小説には潜んでいて大好きです。それを体現したかのような映画でした。配信が始まったのでもう一回観る予定です。
脅かす系のホラーが苦手だけど、怖い小説は読みたいという人におすすめかも…おすすめしていいのかわかんないけど…。
『穏やかな死者たち』の中で私がダントツに嫌だな~こわいな~と思ったのがレアード・バロン『抜き足差し足』。もうタイトルからして嫌。
主人公ランダルは野生動物カメラマン。抜き足差し足忍び足…で誰かを背後から脅かした、あるいは脅かされた経験って多くの人には珍しくない体験だと思うのですが、主人公は仕事中にこれを同僚にやられて、そこから幼少期の思い出がわきあがり、不安が止まらなくなります。
ランダルの父親はよく家族相手にこの『抜き足差し足』ゲームをやっていたのですが、たわいもないゲームのように見えて、良き家庭人であるはずの父親はその瞬間怪物のような「捕食者」になっている…。
神がかりのような能力があった精神的に不安定な叔母、巷で行方不明になっている女性たちのニュース。森で二人きりになったときの父の恐ろしさ。そして父の異常性に気づきながらも受け入れていた母。
「ハネムーンでロッジに泊まってね。夜明けに2人で1枚のキルトにくるまってテラスに出ていたの。そうしたら狐が1匹、軽い足取りで庭に入ってきたのよ。それであなたのお父さんに母なる自然のすばらしさを語りかけたの、というか小声で、わあ、狐よ、といったの。彼は微笑んだわ。いつものねじれたようなのじゃなくて、冷たい微笑みだった。そしてこう言ったの、動物は表情を変えないんだ。獲物を生きたまま食らっている時でもね。おかしいかもしれないけれど、わたしはそのとき、わたしたちは最高に相性がいいと思
ったの」
ジャクスンの小説に出てくるインテリで頭がいいんだけどどこか人間性を欠いた不気味な男性ってたぶん夫だった文学評論家のスタンリー・エドガー・ハイマンをモデルにしているのかな?と思うのですが、『抜き足差し足』のお父さんも、映画でスタンリーを演じたマイケル・スタールバーグしかもう浮かばない…。
もう一つはジュヌヴィエーヴ・ヴァレンタイン『遅かれ早かれあなたの奥さんは…』。
一人で行動する女性たちに襲い掛かる様々な男性の暴力の予感。このあくまで予感というか、こうなるんじゃないかと読んでいる側に想像させてくる時点でつよい。この時点でほんとうに嫌すぎるのですが、実は…という構造に気づくとなるほどとなって少なくとも怖くはなくなります。いや、本当のこわさは違うところにあると気づくというか。私は3回くらい読んでやっと気づきましたが、これもジャクスンらしいなと思います。
この他にもたくさんジャクスン要素あふれるお話がたくさんつまっていてお得(?)です。たぶん通の人はケリー・リンク『スキンダーのヴェール』が好きなんじゃないかなあ。
ジャクスンの100%ジャクスンらしさを味わいたかったら短編集『くじ』がおすすめですし、私は短編集『なんでもない一日』に収録されているジャクスンのエッセイも好きです。