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若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』感想

本が好きだけど、わりと波があって読めないときはほんとうに読めない。そういうときは大体配信をだらだらと観ている。秋以降、涼しくなってからじゃないと本が読めないんだけど「読書の秋」をそのままやらせていただいています。

今年読んで面白かった本シリーズにしたいけど書ききれない気がするのでとりあえずこれだけ記録。

 

若桑みどり『クアトロ・ラガッツィ』

www.shueisha.co.jp

 

16世紀末、ルターによる宗教改革に対抗するべくカトリック教会が見出したのは東アジアの小さな島国・日本。東アジアでキリスト教を広めるべくして送り込まれたのがイエズス会の宣教師ヴァリニャーノ。冷静な視点で当時の日本人の美徳、頑迷さ、その能力を見つめてキリスト教布教に励む。しかし日本は世界を知らない。ヴァリニャーノは九州のキリシタン大名を味方につけて、新しい土地での芽吹きとなる四人の少年を選び、遥かなヨーロッパの旅へと連れだしていく。

 

何が面白いといって、若桑さんの視点。東アジアへのキリスト教布教の一次資料を徹底的に調べつくして、遠い時代に生きた少年たちのみならず同時代の織田信長と彼の野望、日本にやってきたカトリックの司祭たち、キリシタン大名たちの行動、そして信長亡き後に台頭した秀吉の残酷さとすさまじい野望、やがて帰ってきた少年たち(そして名も知られていない日本の信者たち)の辿る過酷な運命を描き切っている。すべての人々が若桑さんの手にかかると生き生きと語りだすかのようで、基本的に一次資料を並べているのにも関わらず映画をみるかのような緻密でイメージ豊かな絵巻のよう。

私は日本史にうといので信長→秀吉→家康とおおまかに支配者が変わっていったことしか頭に入っていないのだが、それぞれの思想や政治的手腕も微細に描かれている。安土桃山~室町~江戸時代が好きな人にも楽しく読めるんじゃないかしら。

 

「うるがん様」で知られ、当時日本人信者に大変人気のあった宣教師オルガンティーノの視点の話はかなり面白い。

 

フロイス(※)は、信長が「俺は宗教を信じない。仏教も、キリスト教もだ。来世も信じない」とオルガンティーノに告白したと書いている。このオルガンティーノは、こともあろうに、秀吉が迫害をはじめた時にもなお、「いつか秀吉は改宗してくれるかもしれない」と書いて、歴史家をびっくりさせ、この善良な神父はばかじゃなかろかと言われている。しかし、このオルガンティーノは奇妙にもただの一度も 信長の改宗を期待していない。信長と個人的に話すことがもっとも多かったオルガンティーノは、実際、信長の目の中にいっさいの超自然やいっさいの神秘を根底から信じていない、その意味ではあくまでも冷静な近代 人を見抜いていた。いっぽう秀吉には神仏への中世的な信仰心があり、なんであれ、超自然的なものの存在を信じ、自分の運命がそれに支配されるということを信じていたから、彼がキリスト教の神を信じる可能性もまたあるのである。キリスト教の神父にとって最も恐ろしいのは、実は、仏教徒でも神道信者でもない。何も信じない合理主義者なのである。

※「日本史」を書いたルイス・フロイスのこと

 

万事この調子なのだが、しかし若桑先生の場合、徹底して一次資料が基になっているために推測の範疇であってもまるきりの嘘には絶対にならないのがすごい。どうしたら遥か昔を生きた歴史上の人物についてまるで会いに行ける知り合いのように生き生きと描くことができるのかと本当に驚いてしまう。

特に良いと思うのが、徹底して資料をあたるがゆえにその人物の性格も加味したうえで資料の信ぴょう性も考えているところ。とにかく身分や立場にかかわらず出てくる人間が同じ温度で描かれ、当然時代のもつ差別や偏見も考慮した注釈が入る。要は妙にヨイショしたりしていないのがすごく読みやすいし面白い。ちなみにこれは2003年に書かれた本なのですが、若桑先生のエンパシー能力の高さに驚いている。

 

日本が世界とつながるきっかけの時代、カトリック教会や日本統一をはかる支配者たちの政治や陰謀の渦に巻き込まれながらも、希望をもって海をわたった少年たちの穏やかな日々を思うと今どうやって生きるべきなのかなあとわが身を振り返らずにはいられない。

これは本当にむちゃくちゃ面白いので、また再読するべく文庫を買いました。単行本はでかいし持ち歩くには重いのですが、これはこれで本読んでる感が出るのでよかった。




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