警視庁の記録によれば、昭和二年度、東京都内で捕まえられた野犬の数は三万四千六百十頭であるという。
全国ではない、東京一都。
警視庁の管轄内に限定してすら、かかる始末であったのだ。
蓋し瞠目に値する。なんたる夥しさだろう。野犬に噛まれて怪我をして、狂犬病にかかってくたばる世にも不幸な人々も、大勢居たに違いない。

捕獲された三万頭強のうち、四千頭は「実験動物」の名目で各医科大学、伝染病研究所、あるいは北里研究所等に渡された。本邦医学の発達の「尊い犠牲」となったのだ。
残る全部は三河島の化製場に送られて、殺処分の後、皮は三味線、ガマ口に。骨、肉、臓腑は肥料や薬に加工され、売買されたそうである。
その際、おそらく腹の中身を空にして加工し易くする為だろう、野犬どもには四日間、餌を与えず檻の中に留置する、「泥吐き」にも似た工程が挟まれたから堪らない。
ただでさえ凄惨な情景が、いよいよ酸鼻に拍車をかけたという次第。

(秋田犬)
犬好きには正視できない──どころではなく、それが現世に存在していること自体、到底許容不可能な、地獄の景色であったろう。
鈴木大拙婦人ことベアトリス・レイン・スズキが知れば、烈火の如く怒り狂って日本批判の口撃をとめどもなく開始しそうな情報だ。なんとなれば彼女は現に、
「日本人は猫に対して残酷である、捨てられた猫は声をからして泣き喚く、そして死に至るまで長い間苦しまねばならない。
米国では不要な猫があると直ぐ水に入れて溺れさせる、その方がよほど同情のある措置である」
このような発言を行っている。
想像は極めて容易といっていいだろう。
(Wikipediaより、ベアトリス・レイン・スズキ)
殺すのならば無用に苦しませたりせず、一思いにさぱっと殺す。いわゆる介錯の心得はまことに人間的であり、およそ知的生物として品位の維持には欠かせない、大事な作法の一環だ。
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