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ホルモン黎明


「臓物あります」の貼紙をつけた食堂がこのころめっきり増えてきた。


 註文すれば、豚や牛の内臓を調理したのが皿に載ってやって来る。

 

 

(『アサシンクリード オデッセイ』より)

 


 見た目のグロさにちょっと逃げ出したくなるが、エエイ日本男児であろう、剣林弾雨に突撃するのに比べれば、なんのこれしき怖じ気づいていられるか、大口開けてかぶりつけ――と、勇を鼓して頬張れば、なんだ意外と悪くない、悪くないどころじゃあないぜ、味蕾が歓喜しているぞ、はっきり美味いじゃあないかッ!


 ……こうした趣旨の日記あるいは随筆が、当時ちょくちょく書かれてる。


 昭和七年あたりを機として盛り上がった風潮だろう。


 ちょうどそのころ北米合衆国内で、牛の肝臓の造血効果がにわかに注目されだした。貧血防止の、ある種健康食品として価値が認められたのだ。

 

 

(『WATCH DOGS』より)

 


 情報が日本に伝わるや、高名な栄養学士だの、権威ある医学博士なんぞと、つまりいわゆる頭の良さげな連中が、こぞって獣の内臓の意外な滋養の豊富ゆたかさを筆に口にと説きまわったから堪らない。


 ほぼ自然力といっていい強力な作用で以ってして、流行発生、経済効果というわけだ。


 有形無形問わずして舶来品に弱いのは、上古以来の伝統か。


 それにつけても排日移民であれだけ騒いでおきながら、ほんの十年かそこらのうちに性懲りもなくまたアメリカの熱狂を好んで受け容れにかかるとは――。

 

 

(カリフォルニアの干し杏)

 

 移り気と歎くべきなのか、柔軟と褒めてやるべきか。いずれにせよ、日本人に粘り強い抵抗は向いていないようだった。


 納豆だのトロロだの、粘っこい食い物は好みで持て囃されてるが――。


 まあ、それはいい。


 臓物モツを喰わずに棄てるのは損だぜ勿体ないんだぜと触れてまわった面子の一人、東京市衛生試験場技師・筒井政行に至っては、昭和七年段階で早や、『家庭で出来る臓物料理』レシピを作製、『主婦の友』等メディアを通じて広く頒布に努めてる。


 せっかくなので、以下に幾つか掲げて置こう。

 


○脳味噌の吸物
 主としては仔牛の脳味噌だが豚もよい、之を生の儘細かく刻み卵を一緒に交ぜて予め作って置た吸物煮汁中に流込み一寸位に切った三葉をあしらう。


○脳味噌のなべ
 大根をそぎ切りにし脳味噌は一と口位の大きさに切って一緒に鍋にいれねぎを薬味に刻んで生醤油で食ふ、脳みそのチリ鍋だ非常にうまい。


○肝臓のカレーライス
 牛豚の肝臓を一と口切りにし他のよい肉と一緒にバター、塩、胡椒でいためて御飯にかける、無論此中にはポテトやねぎ、人参も入る。

 

 

フリーゲーム『SPIEGEL EI』より)


 パンチが効いたメニューであった。

 

 

 

 

 


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