東京に寄港していたヴェスプッチ号をこの目に焼き付けておきたくて台風が来る前に急いで上京した。
帆船が現代においてもまだ細々と新造されているという話題にも驚いたが、このアメリゴ・ヴェスプッチ号の建造はおよそ100年前の1930年、現存する航行可能な帆船の中では9番目くらいに古い船らしい。
乗船して船のパーツに目を向けると、その美しさと手入れの良さに圧倒された。
所々古さを感じさせる部分もあるが、この船のために作られた金属製の部品や装飾はとても優美で木製の滑車やロープを受ける部材もきちんと磨き上げられいて美しかったし、何よりも乗船していたイタリア海軍の軍人さんの自信に満ちた表情が素晴らしかった。彼らは祖国と、国の歴史を背負っているのだ。
あんな自信に満ち溢れた表情、僕はちょっとできそうにない。
日本にだって長い歴史と文化はあるけれど、明治維新でちゃぶ台返しやってぶっ壊して西洋の真似事やって戦争負けて雑居ビルの隙間でユニクロ着てカレー食べながら、その一方で伝統だの歴史だの平気でいうんだもん。心のどこかでいつも「こんなんですんません」的な感情がある。




写真は全てHASSELBLAD SWC, Biogon 38mm, Kodak Tmax100,
今回はこの華やかな船をどうしても中判モノクロフィルムで撮りたくてSWCを持ち出した。
最新のデジタルカメラで撮った方が装飾もディテールも余すことなく撮れるし、またとないこの機会に枚数を気にせず写真を撮れることはわかっていたけど、僕はどうにかこの素晴らしい船を昔のイタリア映画のような写真にしてみたかったのだ。
念の為に持って行ったGRで撮った写真は明らかに別物に仕上がっていた。
GRが捉えたヴェスプッチ号は余計なものと東京の日差しがまざまざと写っていて、あの草臥れたお台場の街に帆船が寄港した記録写真になっていたのだ。それが真実だけど、写真はファンタジーであって欲しいと僕は考えているから、ちょっと残念だった。


