コダックがDouble-Xの供給をやめてしまって以降、新たな常用フィルムはFomapan200だと思っていたのだが、増感しようが現像液変えようがどうにも解決できないFomapan200の「いなたさ」に匙を投げ、お試ししたKentmere200が想像以上に良かったので所感を書き残しておく。
モノクロフィルムの現在地
モノクロフィルムに関しては、乳剤設計から製造までを行なっているのは世界中で5社しかない *1。
聞いたことのないメーカーのフィルムは、ほぼ全てこれらのメーカーが作った原反や長巻きロールを詰め直しただけの代物なので、源流を辿っていくとその中身はFomapanかKentmereのフィルムだったりする。
コダックのフィルム価格が高止まりする中、今のモノクロフィルム写真を支えているのはこの2社と言ってもいいだろう。
Kentmereの立ち位置について
Kentmereの歴史は意外に古く、1906年にイングランドで創業した老舗ブランドだ。
Harman Technologyが2000年台にブランドを買収後、高価格帯をILFORD、低価格帯のフィルムブランドにKentmereをあてがった。
元々Kentmereはミッド、ローエンドな製品を作っていた会社のようで、買収後もそのままILFORDのセカンドラインに収まっているものの、製造はILFORDと同じ設備で行われているので、違いがあるとすれば乳剤設計くらいだ。
Kentmere200、2025年に新発売された古典粒子フィルム
2025年に発売されたこのフィルムはKentmere 100やKentmere 400の改良版ではなく、新設計の乳剤を使ったフィルムのようだ。
過去に何度かKentmereを使った印象がちょっと微妙で、コントラストが薄くて黒も締まらない、どっちつかずの安物フィルム…みたいな印象を抱いていたのだが、宣伝文句の「しっかりコントラストの新設計フィルム!」というくだりに惹かれて使ってみたら、Kentmereに抱いていた印象がすっかり変わってしまった。もちろん良い意味で。
まずは一枚目を見てほしい。
精細さとコントラスト、ハイライトの気持ち良い抜けとパンチ力ある黒の説得力よ。

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400
Kentmere=コントラストが薄い=なんか微妙…って思い込みがあるので、一段増感してISO400とし、攪拌の回数をデータシート通りの4往復で処理した*2。
中央部分を100%切り出し。
粒子が目立ちやすいAcurol-Nで増感現像しても十分に精細で、ハイライトの抜け感とコントラストの強さはどことなくDouble-Xに近い気がしないでもない。ISO100として減感処理した作例を見ると、さらに精細になっているので風景写真に使うのもありだと思う。

100% Crop. EPSON GT-X 980 Silverfast9 @3200dpi
古典粒子乳剤なのでTmaxやILFORD Deltaに比べてざらついた粒子感があるものの、同シリーズのKentmere 400やFomapan200に比べるとかなり精細だしコントラストも現代的。シャープネスの強さはAcurol-Nの恩恵かもしれない。
夜のストリートに持ち出せる常用フィルム
一段増感しても粒状性は好ましい水準を保っているKentmere200は、東京のストリート写真にもぴったりだと思う。長巻なら1本あたり¥850-¥900となり、Double-Xよりちょっとコスト増になるけど、1本あたり¥1,000を下回ってくれると気軽にがんがん使える。

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400
Kentmere200はなにが省かれているのか?
Harman Technologyが販売するフィルムは、ファーストラインがILFORDで、Kentmereはセカンドライン扱いだ。少なくとも価格の上では。
差別化のポイントは使用する銀量を削減したこととアンチハレーション層を省いたことの2点らしい。公式なリリースには何も述べられていないため真偽のほどは定かではない。
まだプリントしていないのでなんとも言えないけれど、増感しても暗部の締まりも良さそうだしハイライトもディテールが残っているので、銀量が絶対的に足りないというわけではなさそう。
以下は引き続き1段増感して現像している*3。シャドウとハイライトの粘りと締まりは問題ないと思う。Kentmere400よりも良い。

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N EI400
アンチハレーション層についてはデータシートに書いていないので、もしかしたら省かれているかもしれない。そう言われると光源の周りが薄らぼんやりしてるようにも見えるけど、これは多分気のせい・・・と言いたいが、光源から光が溢れ出すようなブルーミングに見えなくもないし、コントラストの高さと相まってこのフィルムのアイデンティティだだろう。

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, SPUR Acurol N
Fomapan200とKentmere200、それぞれのいいところ
Fomapanの名誉のためにも、少し書き添えておきたい。
冒頭で押しても引いても現像液を変えても「いなたい」と書いたけれど、そもそもFomapanとDouble-Xではキャラクターが違いすぎるのだ。あるいはAcurol-Nとの組み合わせが良くない(僕の好みと違う)だけかもしれないが、ハイライトがどんよりしてしまう。
暗部からハイライトまで直線的に伸びるDouble-Xの良さはアメリカ的な快活さであり、ミドルが寝てしまうFomapanは詩的なグレートーンが得意なのだ。Fomapan200の現像はもう少し試行錯誤してみようと思う。

LEICA M6, Summicron-M 50mm F2, Fomapan200 SPUR Acurol N
ISO100としてRodinal現像すると、ミドルトーンを維持しつつコントラストが改善する。
Fomapan200の使い所はこんなシーンなのかもしれない。

LEICA M6, Voiktlander Color-Skopar 28mm F2.8 Aspherical TypeII, Rodinal EI100
まとめ: Kentmere200は価格に対して素晴らしいクオリティ
長巻を買って一ヶ月ほど現像時間や攪拌、希釈を変えてKentmere200をいじり回してみたのだが、Kentmere200は想像以上にモダンで素性の良いフィルムだった。
改めてモノクロフィルムには安かろう悪かろうが存在しないという結論に達した。銘柄によって異なるのはクオリティの高低ではなく横の広がり、フィルムの個性でありバラエティなのだ。
カラーネガフィルムだとこうはいかない。
惜しまれつつ廃盤となってしまった「フジ記録用」やコダカラー200のような最低価格ラインのフィルムと、これまた惜しまれつつ廃盤となってしまったPro400HやKodak PORTRAとは天と地ほどの差があり、信じられないような色や雑な粒がペラペラのネガの上に乗ってきたりする。
メーカー資料によればKentmere200は学生や初心者向けのフィルムらしいが、モノクロフィルムは現像液や現像手技、その後のプリントで結果がまるで変わってしまうからエントリークラスもハイアマチュアもなく*4、価格が2倍のTri-X*5がKemtmere200に優っているかといえば、それは好みの違いでしかない。
多くの人がKentmereに抱く「廉価版フィルム」の印象は、Kentmere200によって過去のものになるだろう。価格こそ廉価だがクオリティは素晴らしく、これからの写真文化を守るフィルムになると言っても言い過ぎではない。
とりあえず2-3本買って試してみて欲しい。
参考記事・備考
本記事に掲載した写真は、すべてSPUR Acurol Nで現像しEPSON GT-X 980でスキャンした。Silverfast9でスキャンを行いNegafixは適用せず(Monochrome設定)、露出などのパラメータは0を指定した。
Silverfast9によるスキャンの素晴らしさは以下の記事を参照。
filmmer.hatenablog.com
Kentmere 200 120の作例や純正現像液による現像作例は、以下の記事を参照。
www.joachimsenphotography.com
RodinalやHC110、D76現像の作例が豊富な記事。中盤になると解像度が飛躍的に上がる。
www.alexluyckx.com