- はじめに
- なぜROHMなのか
- 構成設計と設計思想
- 部品調達
- DDCとトランスについて
- 今回の費用について
- 実装・調整・トラブル
- ケースの流用
- 基板実装のポイント
- 試聴環境
- PGGB-RT接続評価と試聴レポート
- まとめ

はじめに
昨年、私はPCでの音楽再生環境をfoobar2000+PGGB‑RTにしました。
foobar2000用の高精度アップサンプリングコンポーネント「PGGB-RT」については以下を参照ください。
これまでDACには、約10年前に自作したお気楽オーディオキットの DAC179X‑2.1 DUAL PCM1795 を使っていました。
このDACは24bit/192kHzまでの対応で、フィルターはオフに設定できないためフィルター設定はSlow Roll-offでPGGB‑RTを運用していました。
十分に楽しめていましたが、より高解像度でPGGB-RTに適したフィルター設定ができるDACを試してみたくなりました。
そこで注目したのが、ROHM製のBD34301/BD34352を使ったDACです。
「PGGB‑RTで使いやすくて、32bit/384kHz入力に対応していて、フィルターをOFFやバイパスにできるDACはあるかな。」と探していたところ、お気楽オーディオキットのDAC343XX‑S基板が条件にぴったり合うことに気が付きました。
値段もお手頃でROHM BD34352 DACなど主要ICを含めて5800円です。
DAIは付いていませんが、手持ちのCM6631A DDC基板を使えばUSB DACとしてシンプルに組めると思い、電源基板、LED表示基板(Small-LED4)とともに購入しました。

なぜROHMなのか
1. PGGB‑RT向きのフィルター設定
ROHM製のBD34301/BD34352 DAC自体が、PCM 352/384kHz入力時にFIRフィルタが自動的にバイパスされる仕様である点に着目しました。
BD34352EKVのデータシート(27ページ)にはFIRフィルターのバイパスに関する記載があります。
https://fscdn.rohm.com/jp/products/databook/datasheet/ic/audio_video/audio_processor/bd34352ekv-j.pdf
またDAC343XX-SのPICは、お気楽オーディオキットの解説ページに記載されているように、各サンプリング周波数においてBD34352EKVのデータシート推奨のフィルター設定を採用しています。
http://www.easyaudiokit.com/bekkan2022/dac343xxs/dac343xxs.html
具体的には、fs=352.8kHz・384kHz時のレジスター設定 (FIR Filter 1: 08h、FIR Filter 2: 80h) がデータシートの推奨値と一致しており、この条件下ではFIRフィルターが自動的にバイパスされます。つまり追加設定なしに、PGGB-RTがアップサンプリングした信号をそのまま素直に受け取ることができます。
この仕様は私の環境にはまさにうってつけでした。
2. 音の雰囲気
ROHM DACはアナログ寄りで、中域重視、ナチュラル、空気感、静寂感のある音との評判です。
これまで使っていた DAC179X‑2.1 DUAL PCM1795もアナログ寄りでまとまった音ですが、DUAL化していることもあって中低域に力感があります。
3. お手軽&構成がシンプル
お気楽オーディオキットのDAC343XX‑SはBD34352など主要ICも込みで値段もお手頃です。
DAIが無くても、手持ちのDIYINHKのCM6631A DDC基板を使えばPCとのUSB接続だけで動かせるので、配線もシンプルです。
自作DACとしては、かなり敷居の低い構成と言えます。
構成設計と設計思想
1.IV変換と差動合成
IV変換オペアンプにはOPA2134を採用し、低ノイズで安定した動作を確保しています。
差動合成オペアンプには 先日ヘッドホンアンプの自作で好感を得たOPA1656を採用することにしました。
2.電源設計(アナログ5V重視)
電源については、基本的に正電源はLM317、負電源はLM337で生成です。なるべくシンプルな構成にしました。
アナログ5VはDACの音質に大きく影響するため、ここだけは特に力を入れています。
まずLM317で7Vを生成し、そこから秋月のTPS7A4700使用「超ローノイズ・プログラマブル可変電源キット」(1,200円)で5Vに降圧します。
この基板により、超低ノイズで安定したアナログ5Vを生成でき、高音質を確保しています。
3.基板レイアウト


使用した基板は以下の通りです。
・DAC343XX-S(お気楽オーディオキット)
http://www.easyaudiokit.com/bekkan/manual/DAC343XX-S_Manual.pdf
・ミニシリーズ電源ユニット基板 TYPE-J(LM317/337)(お気楽オーディオキット)
http://www.easyaudiokit.com/bekkan/manual/MiniSeriesTypeJ.pdf
・Simple Power Unit for LM317 × 2枚(お気楽オーディオキット)
http://www.easyaudiokit.com/bekkan/manual/SimplePowerUnit.pdf
・Small-LED4基板(お気楽オーディオキット)
http://www.easyaudiokit.com/bekkan/manual/small_led4_manual.pdf
・TPS7A4700使用 超ローノイズ・プログラマブル可変電源キット(秋月電子)
https://akizukidenshi.com/catalog/g/g106194/
部品調達
ほとんどの部品は、秋月電子とアスカ情報システムで調達し、その他は必要に応じて別ショップから購入しています。
抵抗・コンデンサ系
金属皮膜抵抗、IV用ニッコーム・プレート抵抗、各種電解コンデンサ アスカ情報システム
ニッセイAPSフィルムコンデンサ 1つ84円 千石電商
操作系・配線
ボリューム:Linkman R1610N‑QB1‑B103 114円 マルツ
東京コスモス電機 RV24YN15SB103 603円 マルツ
当初はボリュームにLinkman R1610N-QB1-B103(114円)を使用していましたが、完成後に実際に操作してみると回転トルクが軽すぎて好みに合わなかったため、東京コスモス電機 RV24YN15SB103(603円)に変更しました。こちらは程よい重さで操作しやすく、満足しています。
重めのトルクが好みであればアルプスのRK27が定番ですが、軸が長くカットが必要なことと、筐体サイズが大きく今回のケースには収まりにくいため、今回は見送りました。
ボリュームは実際に手で触れてみないとわからない部分なので、交換を前提に安価なものから試してみるのも一つの手です。
なお、秋月電子で入手できるボリュームは軸が長めですが、とりあえず使う分には問題ありません。ケースへの取り付け時に軸の長さが気になる場合は、必要に応じてカットして調整してください。
ジャンプワイヤー(メス‑メス 100mm 10芯) 299円 マルツ
つまみ サトーパーツ K5475L ¥1505 マルツ
オペアンプ
OPA2134 (1個 590円+送料) ヤフオク 伊藤オーディオ電子
DIP化済みOPA1656(884円+送料) ビスパ
その他
TPS7A4700使用「超ローノイズ・プログラマブル可変電源キット」1200円 秋月電子
DDCとトランスについて
USB DDCには約10年前に購入したDIYINHK Isolated 32bit 384kHz USB to I2S/SPDIF CM6631A基板を使用しています。古い基板ですが現役で問題なく動作しており、32bit/384kHzまで対応しているためDAC343XX-Sとの組み合わせに不足はありません。
電源トランスはAliExpressのセールでクーポン等を活用して約2000円で入手したRコアトランス(入力115V/230V、出力2×15V・2×8V)を使用しています。
115V仕様のため日本の100V環境では出力電圧がやや低くなります。そのため正負電源は本来の±15Vではなく±14Vに設定して使用しています。実用上は問題ありません。
今回の費用について
参考までに費用もまとめておきます。
・基板代 (お気楽オーディオキット)
DAC343XX‑S基板 : 5800円
ミニシリーズ電源ユニット基板 TYPE-J (LM317/337) : 1300円
オプション1(LM317×2,LM337×2) : 240円
Simple Power Unit for LM317 ×2枚 : 1800円
Small-LED4 : 850円
合計 9990円
・パーツ代 (秋月の電源基板含む)
合計 約1万7千円
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総計 約2万7千円
完全新規で作る場合は、さらに
・トランス
・I2S接続可能なUSB-DDC基板 (XMOS、CM6631Aなど)
・ケース (アルミケースの場合約1万円)
を用意する必要があり、総予算は約5万円くらいを見ておくと安心です。
ケースについては後述するように旧式ミニコンポの外装だけを利用すると費用を抑えることができます。
なお部品リストは昨年末に作成していましたが、購入時には一部値上がりしているものもありました。円安傾向が続く中、気になるパーツは早めに確保しておくのが得策かもしれません。
実装・調整・トラブル

実装については上記写真の通りです。
自作の醍醐味はうまくいったときの達成感ですが、その前には必ずトラブルが潜んでいます。今回遭遇したトラブルと対処をまとめておきます。
1. 逆接によるIC5 74125破損
デジタル5VとGNDを逆接してしまい、IC5 ロジックIC 74125を壊してしまいました。ヤフオクで74HC125を110円+送料で調達し、張り替えて無事復旧しました。
以降は全ての端子台のGND端子にマジックで黒色を塗り、逆接防止の目印としています。シンプルですが効果的な対策です。

2. I2S接続のピン配置ミス
CM6631A DDC基板とのI2S接続でピン配置を誤り、なかなか音が出ない状態が続きました。原因はPCM入力として認識されていなかったことで、I2S接続が正しくない場合はDSDモード(D2点灯)がデフォルトになるという仕様を後から知りました。
マニュアルのCN1ピン配置表と照らし合わせながら配線を確認することをお勧めします。
3. 外部MCLK使用時のホワイトノイズ
外部MCLKを使用したところホワイトノイズが乗る現象に遭遇しました。
原因は、内部/外部MCLKを切り替えるピンヘッダとジャンパを取り付ける前の状態では、基板上のパターンがデフォルトで内部MCLK使用に接続されているためです。
外部MCLKに切り替える際はパターンカットが必須となります。JP6(INT/EXT)の設定と合わせて注意が必要な箇所です。
「詳細はマニュアルのJP6(INT/EXT)項を参照ください。」

ケースの流用
今回ケースには、ONKYO FM/AMチューナー T-405TX の外装を流用しました。
チューナーとしての役目を終えた筐体ですが、サイズ感と質感がオーディオ機器として申し分なく、加工の手間も最小限で済みました。
フロントパネルのディスプレイ部には、お気楽オーディオキットのSmall-LED4基板(2色4桁ダイナミック点灯)を配置し、ボリュームと入力周波数をリアルタイムで表示できるようにしています。


なお、今回のDAC筐体にT-405TXのケースを選んだのには、もう一つ理由があります。
自作ヘッドホンアンプ(タカチ YM-200)とAIYIMA A20アンプと横幅を約20cmで統一しており、デスク左下の床に置いたミドルタワーPCケースの天板にスタックしてすっきり収めています。
デスク天板とPCケース天板の間に収まるため、機材が視界に入らず、デスク周りをすっきり保てるのもポイントです。
私が左利きのため、座ったまま左手で電源やボリューム操作ができる配置にしているのもこだわりのひとつです。
シンプルな基板構成を選んだのも、こうした「省スペースで使いやすく」という考え方と地続きでした。

基板実装のポイント
配線は全体的に短くまとめ、アナログ系とデジタル系は分離してクロストークを抑えています。
DACチップ近傍にはOSコンを配置し、電源ラインの安定化を図りました。
USB DAC構成としての接続はシンプルで、CM6631A DDC基板からI2SでDAC343XX-S基板に入力し、PCとはUSB一本でつながります。
USBケーブルはケースフロント下部に穴を開けて引き込み、ケース底面に沿わせて固定しています。ケース内を這わせる案も検討しましたが、ノイズ対策を考慮してこの方法を選びました。自作ならではの判断です。
試聴環境
試聴環境は以下の通りです。
・PC(foobar2000 + PGGB-RT)→ CM6631A DDC → DAC343XX-S
・スピーカー:Wharfedale DIAMOND 12.0
・パワーアンプ:AIYIMA A20 (DACから直接接続、DACの電子ボリュームを主に使用)
・ヘッドホン:ゼンハイザー HD 560S
・ヘッドホンアンプ:自作ヘッドホンアンプ(OPA1656 + TPA6120)

PGGB-RT接続評価と試聴レポート
半日ほど試聴した範囲での印象をまとめます。
44.1kHz音源 (CDリッピング)
これまで使用していた自作DUAL PCM1795 DACと比較すると、やや広がり感があり、中域重視の音作りに感じます。DUAL PCM1795が中低域寄りなのに対し、BD34352はより空間的な表現が得意な印象です。普通に良い音で、聴き疲れしません。
また内部MCLKと外部MCLKで音の傾向が変わることも確認しました。内部MCLKでは横方向への広がりが感じられる一方、外部MCLKに切り替えると音に勢いが出て前方向にも音が飛び出す感覚があります。今後は外部MCLKを常用することに決めました。
ただし、これはあくまで44.1kHzでの話です。パンチのある中低域重視の音を求めるならPCM1795系のDACに分があると感じました。BD34352の真価は、より高解像度の音源で発揮されます。
24bit/96kHz音源 (T-SQUARE『TURN THE PAGE!』)
音の広がりと静けさが際立っており、44.1kHz音源から大きく飛躍したハイレゾらしい音です。
DUAL PCM1795との比較では、静寂感や音の消えゆく余韻の表現が全く異なります。この一点だけでも今回ROHM DACで自作した価値があったと感じています。
PGGB-RTアップサンプリング 32bit/352kHz音源 (元は44.1kHz/16bit)
音の横方向・前後の広がり、勢い、ダイナミクス、静寂感——現時点で考えられる理想的な音です。
1980〜1990年代のCD音源をPGGB-RTでアップサンプリングして聴くと、当時のデジタル臭さが完全に消え、まるで元からハイレゾ音源だったのではと錯覚するほどの雰囲気の良さがあります。PGGB-RT×DAC343XX-Sという組み合わせの真骨頂を感じました。
また今回の試聴を通して、ROHM BD34301/BD34352 DACが海外でとても人気なのが納得出来ました。
まとめ
PGGB-RT×DAC343XX-Sの組み合わせは、DACのFIRフィルターの自動バイパス仕様と32bit/384kHz対応により、アップサンプリング再生の理念に素直に応えてくれる構成です。
総費用は約2万7千円(トランス、ケース、DDC基板流用の場合)とコンパクトに収まり、完全新規で揃えても5万円前後の見通しです。
「高解像度再生を、なるべくシンプルに良い音で楽しみたい」という方には、十分に選択肢として検討する価値があると思います。
なお、音楽再生時の消費電力はKOZUMUWAN エコキーパー測定で約3.6W、終始4W未満と省電力・低発熱で常時稼働にも安心です。
今後は長期試聴でのエージング変化や、オペアンプの差し替えによる音質比較なども試してみたいと考えています。
以上、参考にしていただけると幸いです。