本を読むより集めるのが好きで、積むだけ積んで一向に読めないタイプの似非本の虫なのですが、最近始めた読書特化のSNS「Reads」のお陰で読書のペースが急激に上がってます。
東京に住んでいた頃に数度遊びに行った本の読める店fuzkueさんが開発された、本に特化したSNS「Reads」。これがめちゃめちゃ良くてですね......。どのSNSでもうまく読書記録をつけられなかった私にとって革命的なSNSなのでした。
【Readsの特徴】
◎気楽な読書記録
・「気になる」「買った」「読み始めた」「読んでる」「読み終わった」等々、好きなハッシュタグをつけられます
・読み終えなくても「読んでいた本」として記録が残ります
・感想文もいいけれど、買ったときのこととか、読み始めたときの気分とか、読書にまつわる文章を好きなスタイルで残せます
・写真をつけての記録もできます
・買った場所や読んだカフェなど、場所と紐づけた記録もできます
◎記録ごとに選べる公開範囲
・「この本については友達だけに見せたい」
・「この感想は非公開にしよう」
・「公開にはするけれどタイムラインには流れないようにしよう」
◎本の話しかされないSNS
・タイムラインで他のユーザーさんの投稿が見られます
・いいねやコメントで交流も
・いいね数やフォロワー数が数値化されないので、数を気にせず活動できます
fuzkueさんの公式サイトで特徴が列記されていますが、特に気に入ったのが「気楽な読書記録」を残せるところと、「いいね数やフォロワー数が数値化されない」ところ、そしてReads独自の全体タイムライン。この三点がReadsの強みだと思っています。
まず一点目。読書記録をTwitterやはてなブログに残そうとするとき、どうも気軽に書けない感覚があって、前者だと「140字にきっちり収めて、少しでも拡散されるよう強めの言葉を使わなきゃ!」という意識が前に出て、元々抱いていた感想が捻じ曲げられてしまう感覚がありました。一方はてブロの場合、しっかりとした感想を長文で綴らなくてはならないという強迫観念にとらわれ、なかなか筆が進まない。どちらにしても読書記録のハードルを上げてしまっていました。
その点Readsはハードルをとことん下げてくれます。「読み終わった!」「これ読みたい~」程度の一言感想でいいし、写真と一緒に載せるだけでもいい。読書のステータスを表示するタグ付け機能を使えば読み終わらなくても投稿できる。「気楽な読書記録」をポリシーとして掲げてくれたおかげで、読書記録への苦手意識を和らげてくれました。
ただ、これだけだとInstagramやTwitterでも十分です。Readsの二つ目の強みは、インプレッション稼ぎのSNSにはしないと謳ってくれているところ。世界的にユーザー数の多いSNSは、近年インプレッション数を可視化する設計に舵を切り、アテンション・エコノミーを激化させ、倫理観の欠如した暴力装置と化していっています。Readsだって開設したてだからそうなっているだけで、人が集まってきたら変わるのでは...という懸念もなくはないですが、「いいね数やフォロワー数が数値化されないので、数を気にせず活動できます」と真っ先に挙げてくれている時点で、そうした未来はこない、と安心して利用することができます。
そして三点目!Reads独自の全体タイムライン!これが個人的にいちばん嬉しいポイントです。Readsのアプリを開くと、まず最初に表示されるのがタイムライン。「新着」「フォロー」のタブに分かれており、「新着」の方にはフォロー内外問わず、誰かの読書記録が延々と流れ続けています。一見地獄のおすすめTLに似ていますが、こちらは悪しきアルゴリズムに左右されず、ただ流れ続けるだけの川のようなもの。当初は正直、「知らん人の読書記録を見せられてもな...」と戸惑いが勝っていました。しかし、使い続けているうちに、アルゴリズムに左右されない本との出会いができるという、Readsにしかない特徴に気が付きました。
正直ここ数年の本との出会い方って、アルゴリズムに左右されまくっており...。私のタイムラインだとジェンダー/フェミニズムの良書がたくさん流れてくるし、それがもしヘイト本だったらフォロイーさんがすぐ批判してくれるので、事前に悪書との衝突を回避することができる。そうした点は非常に有り難かったのですが、どうしても読む本が偏ってしまっていました。
一方、Readsは設計上「これをみんなに読んでほしい」という広告塔意識がユーザーに生まれづらく、他人の個人的な読書記録がただただ流れてくるだけなので、Twitterのアルゴリズムでは絶対知り得ない本との偶然の出会いが溢れています(「Reads利用者層が好む本しか流れてこない」という点でアルゴリズムはあるっちゃあるけど、TwitterやInstagramと比べるとだいぶましだと思う)。なんとなくアプリを開いて目に入った投稿で、ジャンルも何もよくわからないが面白そうな本に出会える喜びよ。実店舗の本屋さんとも違って並びがジャンルレスなので、不意の出会いが多くて楽しいです。ひたすら「気になる」タグをつけてメモっています。
あと、「タイムラインを見逃してはならない」といった義務感にとらわれないラフな設計なのもよい。ユーザーのホームに飛ぶとその人の過去の投稿を見ることはできますが、全体タイムラインを遡ることは基本できません。当初は面白い本と出会う機会を逃しちゃったらやだな...と恐れていましたが、ずっと監視し続けることは無理ですし、なにより偶然性のロマンを前にしたらどうでもよくなりました。これはもう読書版の『オフライン ラブ』。
てなわけで、本に特化したSNS「Reads」、たいへんおすすめです。今はアプリ版しかないですが、いずれブラウザ版もリリースされるようです。fuzukeさん公式note曰く、月ごとに機能が増えているそう。地図機能とかおもしろそう。
Readsへの投稿したさに本を読む頻度も上がってまして、5月はなんと月5冊以上読むことができました。今までは月1冊読めたらいい方だったので大成長だ...。今後はReadsに軽く記録して、溜まってきたらブログに整理する、という二段階で読書記録をつけるつもりでいます。以下、最近読んだ本の感想です。
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生湯葉シホ『音を立ててゆで卵を割れなかった』

生湯葉さんの開示能力と表現力が高すぎて、記憶の扉に巻き付けられた鎖を、『逆転裁判』のサイコ・ロックのように破壊されながら読み進めるという、とてもおそろしい読書体験だった...。短篇小説『わたしです、聞こえています』を読んだ時も近い恐怖を抱いた気がしてTwitterを遡ったら、「しばらく閉じていた記憶の扉が開いてしまうような、「私の話」をされているような感覚に陥る作品だった。実際3つくらい開いた。」と書いてあり、ほぼ同じこと言ってた。
私は生湯葉さんのように生命の危機を感じるほどの視線恐怖症を患ったことはないし(男性ジェンダーだから、という理由がおそらく大きい)、生湯葉さんの抱く恐れの本質を肌感覚で理解できたわけでは全然ないが、「はじめに」で呼びかけてくれた、「この世を右往左往していた覚えがある人」のひとりであると思っている。
特に「腐ってしまった時間について」は、似た経験を何度もしている私に鋭く突き刺さり、扉が次々と開け放たれるおそろしいエピソードだった。料金の滞納で水道を止められたのに、面倒臭くてコンビニ支払いから切り替えられず、再び止められかけたこと。こぶしファクトリーのラストライブを録画するためにひかりTVの契約をしたのに、届いたチューナーがまったく繋がらず、そのくせ解約もできないまま、無駄金を2年近く払い続けたこと。保険契約のクーリングオフに失敗したこと。仕事で企業専用アプリの開発に携わった際、「お客様が初回ログインを数年放置される可能性」が議題に挙がり、そんな奴いるか?と嗤う上司の隣で肩身が狭くなったこと。腐らせてしまうから仕送りを減らしてほしいと言ったのに懲りず送りつけてくる親と大喧嘩したこと。やばい、思い当たる類似の失敗がまだまだある。今だって、先延ばしにして見ないふりをしていることがきっといくつかある。考えたくなくて封をしている。
そんな数々の失敗の中でひときわ古く、原風景として立ち上がってきたのは、「公園のトイレの陰に隠れる私」だった。小学生の頃、腐れ縁の友達から呼び出され、嫌々向かった少し離れた公園。その端にあるベンチには友達の他に、大嫌いなクラスメイトがいた。そいつの存在を確認した瞬間、私は公園の入口付近にあるトイレの陰に思わず隠れてしまった。会いたくない、でも会わなくちゃ、どういう顔で出ていこう...。シミュレーションを続けるうちに、どんどん出られなくなっていく。自然に登場する機会を最初に逃してしまった時点で、自分の意思では一生出られない。確実にバレているのに、「バレてない」と暗示をかけ、息を潜めて留まり続ける。とっくの昔に気付いていた友達が、「いつまでそこにいるの?」と呼び掛けてくれるまで、トイレの陰から出られなかったあの日の感覚は、私の人格形成に深く関わった。このケースには「手遅れ」のラインは別に存在しないけど、隠れ癖や後戻りが苦手な性質、失敗に見ないふりをする癖がついたきっかけだったんじゃないかと思う。
生湯葉さんの巧みな表現力を前にすると拙いエピソードトークになってしまったが、この本を読んで自己開示をしないのは嘘だなと思い、扉を閉じてしまう前に引っ張り出してみた。みんなも吐きながら読もうね。
(「食べられなかったもの」にまつわるエッセイなのに、食べものが全然絡まない話をしてしまったけれど、私がTwitterで観測していた生湯葉さんは「確定申告に殺されかけている様を実況しているひと」の印象がもっとも強いので、このエピソードに惹かれたのは必然だったのかも)(食べもの絡みの扉もいずれ開けてみたい)
他の話で好きだったのは、居た堪れなさ部門だと「カニ最高!」「日の差しすぎているデニーズで」「シフォン、シフォンとマカナは言った」、ほっこり部門だと「神戸さんのクイズ」「星野くんの湯豆腐」「先生」、ホラー部門だと「爆ぜている火」「恐怖の砂糖工場」。短いけど痛みが生々しく迫ってくる「手に届かないものは何であれ美しいと私たちが思っていたころ」も好きです。本を手元に置けない人もWebで一部読めるのでぜひ。「第3回:永遠に食べそこなわれつづけるメロン」が本書でいう「腐ってしまった時間について」にあたります。
小川哲『君のクイズ』
私を読書モードに切り替えてくれた一冊。定期的に読書会をしているフォロワーさんがだいぶ前に薦めてくれたが、読めずにいるうちに、いつの間にか文庫本が発売された。今しかないとトライしたところ、何をこんなに躊躇してたんだろうというくらいするすると読み終えた。2時間もかからなかった。本編の後味はちょっとビターめで、少しモヤモヤしたものの、導入の問いに対して納得のいく解だったし、何より推理の過程が超絶面白い。私からしたら「魔法使い」にしか見えないクイズプレイヤーの思考回路と矜持の一片が見えた。野田彩子先生のコミカライズ版も最高で、ここからの展開をどう表現するのか楽しみで仕方ない。実写化の企画も水面下で動いているのではなかろうか。
ロバート・A・ハインライン『夏への扉(新版)』
前述の読書会でやっている各ジャンルの古典を読もうキャンペーンで、ドストエフスキー「地下室の手記」、アガサ・クリスティ「そして誰もいなくなった」に続く第3弾の課題図書として読んだ。内容についての感想は「主役の男に都合が良すぎるだろ」に尽きるのだが、SFが苦手な私でも集中が途切れず一気に読み切れたのはさすが古典~。Wikiによるとハインライン作品の中で「夏への扉」が突出して売れている国は日本だけらしく、いかにも日本で好かれそうな小説~~とも思った。こんプロリスナー的には山崎賢人主演の実写映画版にも触れておきたい。
井上荒野『照子と瑠衣』
名作シスターフッド映画『テルマ&ルイーズ』の日本高齢者版!なタイトルと表紙に惹きつけられ気になっていた小説。風吹ジュンと夏木マリ出演、しかも監督が大九明子という最強布陣でドラマ化されると知り、放送前に読んでおきたかった。表紙の印象と違い、全然ロードムービーではないし、都合の良い展開が続くが、その粗が気にならないくらい照子と瑠衣をはじめとする登場人物たちに引き込まれた。また会いたいと思えるふたりに出逢えたのが嬉しい。話の鍵を握るっぽく出てきた割に、深くは関わってこないキャラクターがいて気になったが、後で調べたら別作品の主役の友情出演だった。こちらもいずれ読む。
ハン・ガン『菜食主義者』

東京に遊びにいったときに御茶ノ水駅近くの本屋で購入し、しばらく積んでいた。HANAのJISOOがKOHARUにハン・ガン作品を薦めたというインタビューを読み、そろそろ読まねばとトライ。ずっと暗いし超しんどいけどおもしろかったー。支配欲や性欲まみれの男たちの目に映るヨンヒと、姉から見たヨンヒが同じようで全く違うところに、家父長制社会の罪を感じた。ヨンヒが世界への拒絶を貫き通し、安易な物語に回収されなかったことに安堵。死の臭いが色濃い作品だが、希望か絶望かの二軸で捉えたくないと思った。
石田夏穂『黄金比の縁』

性差別的で事なかれ主義的な辞令で人事課に配属された主人公が、辞めそうな人材を採用し退職率を上げることで会社へ復讐する話。これだけでも特異な話だが、主人公が退職率を上げるために研究した結果、導き出したパーフェクトな評価軸が「顔の縦と横の黄金比を満たす」ことで、その評価軸だと、内定者の男女比も完璧で、かつ退職率を各段に上げることもできるという。ギャグ漫画みたいな話だが、就職活動の中身の薄さと滑稽さを痛烈に皮肉っていて終始ゲラゲラ笑った。ラストのタイトル回収もしょうもなくてよかった。
村田沙耶香『世界99 上』『世界99 下』

900ページ近くあるのに、2、3日程度で読破できるくらい読みやすかったし、禍々しい村田ワールドに価値観を激しく揺さぶられた。村田作品は『丸の内魔法少女ミラクリーナ』『消滅世界』『地球星人』『信仰』と読んできて、いずれの作品も世界観の設定の容赦無さに毎回ドン引きしてきたが、今回も例によってのたうち回りながら読んだ。今作は特に、作中で描かれる悪意が身近すぎる。というか、Xのおすすめ欄すぎる......。露悪を煮詰めたような表現が続いてげっそりするのに、ページをめくる手が止まらないからおそろしい。語りたいトピックがたくさんあるので読み終わった人と喋りたいなー。下巻のテーマが私の大好きな『丸の内魔法少女ミラクリーナ』収録の短編「変容」を拡張した内容で最高に気持ち悪かったです。