
スズキのBEV世界戦略車第一弾となるe ビターラがついに登場し、日本にも上陸しました。インドで生産され、世界各国に輸出されるクルマです。SUVらしい力強いデザインは見てのとおりで、このクラスのBEVでは珍しく4WDをラインアップするなど、内容的にもなかなか見どころ満載の1台なのです。その実力をモータージャーナリストの岡本幸一郎さんがレポートします。
BEVにもいろいろあって、クロスオーバースタイルのBEVはいくつもあるが、これぐらいのサイズでこれほど力強さを感じさせるスタイリングのSUVタイプのBEVというのはちょっと心当たりがない 。もしそんなBEVがあったらぜひ欲しいという人は少なくないんじゃないだろうか 。そこにようやく出てきたのがe ビターラだ 。
ありそうでなかった、Bセグメント4WDのBEV
見た目があまりBEVっぽくないといえば、まさにそうかもしれない。

e ビターラにはいくつかの特徴がある。まず、すべて生産されるのはインドで、それが日本をはじめほかの国にも輸出される。また、駆動方式がBセグメントのBEVでありながら、2WDだけでなく4WDもラインアップされることも大きな特徴だ。

バッテリーにリン酸鉄リチウムイオンバッテリーを使用していることも特筆できる。供給元は、ご存じBYDの傘下であるフィンドリーム社となる。ただし、e ビターラに搭載されるのはBYDのような「ブレードバッテリー」ではない。スズキとしては、とにかく安全性=燃えないことや長寿命であることを考慮して、リン酸鉄リチウムイオンバッテリーを採用することに決めたそうだ。

プラットフォームはBEV専用に新しく開発された「ハーテクト-e」を採用している。これにより軽量な構造、高電圧保護、ショートオーバーハングによる広い室内空間を実現するとともに、メインフロア下のメンバーを廃止することでバッテリー容量を最大化できたという。BEVパワートレインは、モーターとインバーター、トランスアクスルを一体化した高効率の「eAxle」が採用されるのも特徴のひとつだ。
存在感のあるエクステリアと、上質なインテリア
「ハイテック&アドベンチャー」をデザインテーマに据え、エクステリアはBEVの先進感とSUVの力強さを併せ持ち、冒険心を刺激する力強いたたずまいとすることを念頭にデザインしたという。

ボディサイズは4275mm×1800mm×1640mmとコンパクトながら、そのわりに大きく見えるし存在感もある。ホイールベースは2700mmと全長のわりに長い。最低地上高は185mmを確保しているので少々の悪路も問題なさそうだ。

ブラウンのアクセントが目を引くインテリアの質感もまずまず。メーターとセンターのディスプレイを統合した「インテグレーテッドディスプレイ」という先進装備が与えられている。ここでさまざまな機能を操作したり情報を表示させたりできるようになっているのだが、もう少し階層が整理されていてくれたほうが使いやすい気がしたことを、数少ない不満点として挙げておこう。

シートは見た目にもなかなか質感がある上に着座感も良好だ。フローティングしたブリッジ状のセンターコンソールは下に小物が置けるほか、各種端子も配されていて便利に使えそうだ。ドアミラーの高さが左右で異なり、助手席側にはアンダーミラーも付いている。

リアドアノブはピラー側に仕込まれている。バッテリーを床下に積むためややフロアは高めだが、センタートンネルがなくフラットなのはありがたい。後席に座るとシアターレイアウト状にやや高めの位置に座る格好になるが、平均+αの体格の筆者が座っても頭上には少し余裕ができる。比較的クッション感のあるしっかりしたシートが後席にも与えられている。

荷室は十分に広く、床下にもスペースがある。リアシートを前倒しすると荷室フロアの高さでほぼ平らになる。必要に応じてセンターだけ倒せるようになっているのもありがたい。
小柄で取り回しもよく、キビキビ走るドライブフィール
試乗したのは、バッテリー容量が61kWhの4WDと2WDで、それ以外に2WDには49kWh仕様もある。一充電走行距離は、2WDの49kWh仕様が433km、同61kWh仕様が520km、4WDが472kmとなっている。

4WDでは前後に独立した2つのeAxleを配置し、フロントに高出力な128kWモーター、リアに48kWモーターが組み合わされている。パフォーマンスを追求したBEVではないので、動力性能はそれなり。スペックのとおり4WDのほうがだいぶ速いが、いずれもBEVらしく、4WD、2WDとも、ドライブフィールがしなやかで滑らかで静かで、いたって乗りやすく乗り心地がいい点では共通している。
「NORMAL」「ECO」「SPORT」のドライブモードが選択可能なほか、アクセルペダルのみの操作で加減速をコントロールできる「イージードライブペダル」も備わっている。減速度を3段階に切り替えることができるが、完全停止までは対応していない。

ハンドリングもおだやかで、瞬発力や俊敏さをアピールするようなクルマではないが、車体がしっかりしていて、意のままに気持ちよく操ることができる。とくに4WDは、緻密に駆動力配分を行なっていることも効いてか、舗装路で乗ってもハンドリングが気持ちいい。4WDのほうがニュートラルステアで走りにも一体感がある。
一方の2WDは、100kgも軽いことが効いて、自然なフィーリングで軽やかな身のこなしを楽しめる。全体的にできるだけ違和感やストレスを覚えることなく乗れることを優先したように感じられた。

大径タイヤを履いていながら、最小回転半径が5.2mと小さいおかげで、小柄なサイズとともにとても小回りが利くのもありがたい。
緻密な駆動力配分を実現する「ALLGRIP-e」など、見どころたっぷりな一台
今回は乾いた舗装路のみでの試乗だったが、実は資料を読む限り、4WDに搭載された電動4WDの「ALLGRIP-e」がなかなかすごそうだ。

通常時の50:50をベースに、路面状況に応じて各制御を最適化し、前後駆動力配分を緻密に制御してタイヤのグリップを最大限に生かすという「オートモード」と、タイヤが浮くような路面でも空転したタイヤにブレーキをかけて反対側のタイヤに駆動力配分するLSD機能を備え、悪路からスムーズに脱出できるようにする「トレイルモード」が選べるようになっている。その実力のほどを試せる機会が楽しみだ。

センターコンソール後方に最大1500Wまで使えるAC100Vコンセントが備わるほか、自宅に給電ができるV2HやDCタイプのV2Lにも対応しているところは、日本メーカーらしい配慮だ。

見た目もよし、走りもよし、中身を知れば知るほど他ではやっていないようなこともやっているところも興味深い。こういう手ごろで身近で魅力的なBEVが増えるのは大歓迎だ。
撮影:宮越 孝政
e ビターラ(Z 4WD)
| 全長×全幅×全高 | 4275mm×1800mm×1640mm |
| ホイールベース | 2700mm |
| 車両重量 | 1890kg |
| 最小回転半径 | 5.2m |
| モーター種類 | 交流同期式 |
| 最高出力 | 前128kW 後48kW 合計135kW |
| 最大トルク | 前193Nm 後114Nm 合計307Nm |
| バッテリー種類 | リン酸鉄リチウムイオン |
| バッテリー総電力量 | 61kWh |
| バッテリー総電圧 | 381V |
| 一充電走行距離 | 472km |
| 電費(交流電力量消費率) | 144Wh/km |
| 駆動方式 | 4WD |
| サスペンション | 前:ストラット、後:マルチリンク |
| タイヤサイズ | 前後225/55R18 |
| 税込車両価格 | 492万8000円 |
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