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川内有緒『バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録』|読書旅vol.110

コロナウィルスの流行で外出自粛が推奨された2020~2021年、私はここぞとばかりに積読していた本を読みました。

その流れで『パリの国連で夢を食う』を手に取り、川内有緒さんの文章に惹かれ、デビュー作の『パリでメシを食う』や、開高健ノンフィクション賞を受賞している『空をゆく巨人』も後追いで拝読。今回取り上げるのは、彼女の作品中でもとびきり心を動かされた一冊です。

なお、私は2013年リリースの単行本『バウルを探して 地球の片隅に伝わる秘密の歌』を読みましたが、いま本屋さんに流通しているのは改題/改編して文庫化された『バウルの歌を探しに バングラデシュの喧騒に紛れ込んだ彷徨の記録』(幻冬舎文庫)のみ。

よって、上掲の表紙画像は文庫版にしたものの、一部抜粋している箇所はオリジナルの単行本に準じています。ご了承ください。

 

旅の発端

パリの国連機関で働いていた頃、出張でバングラデシュを初訪問した川内さんは、文化省の職員から「バウルの歌を知っていますか?」と訊かれ、ユネスコ無形文化遺産に登録されているその伝統芸能について知ることに。すぐさま興味を持ち、今晩にでも聴きに行きたいと考えます。しかし……。

「おそらく聴くことは難しいでしょうな。バウルたちはいつも移動しているから、どこにいるか全然わからない」

私は面食らった。

「……移動生活って? “バウル”は音楽ジャンルではないのですか」

「バウルとは……。何と言ったらよいかな。昔から祭や路上で歌を披露して生活をしています。何のカーストにも属さない人々です。いわゆる“アンタッチャブル”とでも言えばいいのかな」

彼は、周りに誰もいないのに、秘密の話をするように声を潜めた。

アンタッチャブル……、つまり貧しい人々で、歌うことで生計を立てているってこと?」

「イエス

「それでいつも移動していて、居場所が分からない?」

「イエス

サーカスや旅芸人のようなものだろうか。それにしても、どこか妙だ。所在も不明なのに、その一方で「保護すべき企業な文化」と国際指定されている。

時は流れ、退職して日本へ戻った川内さんは、旅に出ようと思い立ちます。行き先はどこにするか、あれこれ考えるなか、ふと頭に浮かんだのがバウルでした。

 

点と点が1つの線に

旅の相棒にカメラマンの中川彰さんを誘い、出発までの間、片っ端からバングラデシュの関連書に目を通したり、かの地に詳しい方を探して話を聞きに行ったりと、リサーチに勤しむ川内さん。

ところが、調べても、調べても、輪郭はぼやけたまま。もっともポピュラーな曲の1つである“オチンパキ(知らない鳥)”の歌詞すら、まったく意味がわかりません。

鳥籠の中、見知らぬ鳥は、

どうやって往き来する?

つかまえたら、「心の枷」を その足にはめたのに。

八つの部屋は九つの扉で鎖され

中をときたま閃光がよぎる、

その上には、母屋がある――

そしてそこには、鏡の間。

心よ、おまえは籠をあてにしているが

おまえの籠はもろい青竹作り、

いつパタリと崩おれるやもしれぬ、

ラロンは言う、籠が開けば 

その鳥は どこに一体逃げ去ることか。

(訳・大西正幸)

彼女が事前に得た情報は、バウル界で神のように崇められるラロン・フォキルの存在や、フォキルの作った1000以上の歌が楽譜に記されず脈々と口承されていること、子どもを持たない修行のこと、リリックに隠喩が多いことなど。

こうして集めた点の情報が、12日間の旅を通じて徐々に線で結ばれていきます。きっと川内さんは運命的な何かに導かれたのでしょう。

バウルを題材にした作品を手掛ける監督や、フォキルの曾孫弟子を含む複数のグル、「バングラデシュ美空ひばり」とも評され、来日経験もある大御所歌手との出会いをはじめ、縁が縁を呼んで少しずつ核心に迫っていく様子は鳥肌モノです。

思えば、この旅を計画して以来、誰かに“バウル”と言えば、その人は心を開き、知識を分け与え、次の人物を導いてくれた。“バウル”は、次の扉を開く秘密の合言葉そのものだった。それは、私が自分の水脈にバウルを取り込み、さらに次の誰かに流す媒体になるからだろう。そうやって、この哲学は、古文書なんかなじゃく、ずっと人間と共に伝わってきたのだ。

 

懐深いバウルの世界

本書の肝は「バウルとは何か?」の部分。ページをめくるごとに謎が明かされていく興奮をぜひ1人でも多くの方に味わってほしいので、ここでの細かい説明は避けます。でも、ほんの少しだけ紹介させてください。

本編によると、バウルとは「宗教のようであって、宗教ではない。であり、思想であり、根源的に求めるエネルギーそのもの」。

バングラデシュの国教であるイスラムがメッカ巡礼やモスクでの礼拝といった外面への旅を重んじるショリオットなのに対し、バウルが実践しているのは内面へ旅するマルフォットです。

川内さんが道中で出会ったグルの1人は、「自分の内にある聖なる場所をめざすためにもっとも必要なのは、愛することだ」と断言していました。特別な修行でもなく、祈りでもなく、シンプルにただひたすら愛すること

人種にも、宗教にも、カーストにも、性別にも囚われないバウルの指す愛は、あらゆる壁を越えた途轍もなく大きいものなはず。家族とか、友人とか、自身の所属するコミュニティーとか、そういった狭い範囲の愛ではなさそうです。

すべてに対して分け隔てなく愛する――これって物凄く難しい。執着を捨てて万人や万事を愛せれば、戦争は起こらないし、SNS上で日々繰り広げられる揚げ足取りや不毛なマウント合戦もなくなるし、いま私が抱えている問題のほとんども一発で解決する気がします。

読了後、単行本の帯に掲載された「その歌には、今を生きるヒントが詰まっていた」なる文言にしみじみと納得。決して読者を泣かせにかかってくるタイプの書籍ではないのに、涙がボロボロ出てきました。悩み多き全現代人にオススメです。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

www.gentosha.co.jp

 

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