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高野秀行『イスラム飲酒紀行』|読書旅vol.104

陰暦6月の満月はヴィサカブーチャ(仏誕節)。今年は5月22日で、タイではお酒が飲めません。タイの禁酒日は年に5回あり、スーパーやコンビニ、飲食店でアルコールの販売が自粛。

この禁酒日が近付くと、普段はまったく読まれない『【検証】タイの禁酒日やアルコールの販売許可時間外ってガチで飲めないの?』の閲覧数が若干アップします。

すでに昨日くらいから微増しはじめました。旅行の下調べをされているのでしょうか。世の中にはけしからん同志が一定数いるものです。

そこで思い出したのが、高野秀行さんの『イスラム飲酒紀行』(2011年/扶桑社 ※上掲の表紙は2014年に文庫化された講談社版です)。

私とツレのアルコールに対する執着心なんぞ、著者の足元にも及びません。ましてや、禁酒日にタイで酒を探すのと、そもそも酒自体を法律で禁止しているイスラムで酒を探すのとでは次元が違いすぎて、並べて語るのもおこがましいですが、今回はこちらの作品を選んでみました。

 

酒飲み、イスラム圏へ行く

私は酒飲みである。休肝日はまだない――こう豪語する高野さんが本格的に酒を飲むようになったのは意外と遅く、30歳を過ぎた頃。

名作『アヘン王国潜入記』でミャンマーのワ州へ赴き、ケシ栽培の密着取材をした結果、すっかりアヘン中毒に。その禁断症状から脱するため、アルコールを摂取しはじめたと記されています。

曰く、長期に渡って断酒したのはイエメンソマリランドに滞在した時のみ。両国にいる間は覚醒植物のカートを嗜み、アルコールを欲しなかったのだとか(ソマリランド探訪記はこれまた名作の『謎の独立国家ソマリランド』にて)。

飲酒習慣が身について以来、アル中一歩手前の生活を過ごしてきた高野さん。本著ではまずジャブ程度に、イスラム系航空会社に乗った時の我流のマナーを披露してくださいます。

1つ目、搭乗したら客室乗務員をすかさずチェック。男性CAオンリーの場合、もしくは女性CAがいてもヴェールを被っている場合、酒の提供がないと心得る。

2つ目、酒を提供するキャリアであっても免税店でワインを購入。その際は必ずスクリュー式ボトルを選ぶ(※オープナーは凶器とみなされ、手荷物検査で没収されます)。

ヘンなところで抜けている高野さんも(失礼!)、酒に関しては手抜かりなし。これぞ酒飲みの鑑。勉強になります。

 

地元の人とワイワイ飲みたい

作品の舞台となるのは、カタールパキスタンアフガニスタンチュニジア、イラン、マレーシア、シリア、ソマリランド※カート宴会に興じつつ、旅の終盤に酒の話を嗅ぎつけて、やっぱり探さずにはいられなくなります)、そしてバングラデシュ

法律の厳しさに差はあるものの、どこも公共の場での飲酒を禁じている国々ばかり。なかには紛争地帯も含みます。

……にもかかわらず、“普段から酒のことばかり考えているわけではない。私の本文は辺境での旅や探索だ”だの、“(イスラム圏にも)いつも何か目的があって行く。酒なんか二の次で、なければないで我慢する”だの、あれこれ前置きしたうえで、昼夜問わず酒を求めて各地を彷徨。

どうかしています。もとい、その凄まじい執念行動力は尊敬に値します。しかも、高野さんはただ飲むだけじゃ満足しません。

イスラム圏ではいつも〈酒を求めれば求めるほど現地から離れるという法則に悩まされる”という著者は、外国人向けの格式張った高級レストランや高級ホテルではなく、あくまでも地元の人と一緒にワイワイ飲みたいと考えます。

これにより難易度は爆上がり。飲酒を禁じている国でよそ者がローカルと盃を交わすなんて、途轍もなく難しい、かつ危険なミッションに思えますよね。

しかし、最終的にその難題をクリアしてしまうのだから、いやはや……。売人の家に招かれたり、オアシスの森の奥で開かれていた酒盛りに迷い込んでしまったり、予想外の展開がいくつも待ち受けています。

建前では「アルコールは口にしない」と話すムスリムも、距離が縮まった瞬間、「実はけっこう好きなんだよね~」と本音をチラリ。酒に酔ったら人の話は聞かないし、同じギャグを繰り返すし、日本人の酒飲みと共通点が多くて嬉しくなっちゃいました。

 

世評とのギャップ

イスラム飲酒紀行』を読み出したが最後、仕事の合間だろうと、缶ビールをプシュッと開けずにはいられなくなります。それはそれで本書の正しい読み方。

でも、『イスラム飲酒紀行』はタブーを侵すダメな作家先生の単なる酔いどれ旅行記に終始しているわけではありません。

例えばイスラマバードの公園でおびたたしい数の警官隊がデモ暴動に備えて待機している場面。緊迫しているかと思いきや、実際は真逆。高野さんはその様子を奈良公園の鹿になぞらえています。

もちろん、もし実際にデモや暴動があれば(実際にこの数日後、アルカイダ系のモスクで大衝突が起こりたくさんの犠牲者が出た。その準備だったかもしれない)、新聞やテレビで猛烈に激しい写真や映像がイヤというほど流れるのだろう。

そこだけ見ると、パキスタン人の「激しさ」や「容赦のなさ」だけが浮き上がるのだが、実情はこのようにゆるい。もっと人間らしい。

日本ならありえないではないか。千人を超える重装備の警官隊がてんでんバラバラにのんびり寝そべっているなんて。

パキスタンでは日本や西欧とはちがった形で個人の自由がちゃんと尊重されているのだ。いや、それ以前に誰も個人を管理しようとしていないのだ。

「こういう部分をマスコミやジャーナリズムは取り上げないからなあ」と嘆息しながらも、私はまったく違う理由で足どりが重かった。

世間の評判は信じず、自分の目で生の姿を確認せんと、悪評の立つ地域へも率先して出向いていく高野さんの作品を読むたび、メディアが作り上げたパブリック・イメージと、高野さん自身の目に移った世界とのギャップに驚かされます。『イスラム飲酒紀行』も然り。

どちらが真実かは、私も自分の目で確認するまで判断しちゃいけない部分なのでしょう。だけど、一般認識に縛られず、常にいろいろな方向から物事を捉える必要があると強く感じています。

……って、最後にもっともらしいことを、ほんのり赤ら顔で書いてしまいました。たぶん過去に当ブログで扱った高野作品の紹介文でも、「メディアの流す情報を鵜呑みにしちゃダメだ!」みたいな、似たり寄ったりの感想を書いているはず。同じ話を何度もしてしまうのは酔っ払いの哀しい習性です。

ちなみに、手元にある本書の文庫本は謎のシミが付着して、一部のページがフニャフニャになっていました。前回読んだ時に酒でもこぼしたかな。

※記事内の画像はフリー素材を使用しています。本著とは直接関係ありません。

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