内燃機関車からBEVへの移行について、いくつか予想外のことが起きている。カッコ内は新車販売に占めるEVの比率である。
- 先進国でのBEV移行が思ったより遅い(2020年5.3%→2024年12.0%)
- 中国がBEVで圧倒的な地位を築いた(2024年45%)
- 新興国のほうがむしろ先進国よりBEV移行が急ピッチ(2020年2.9%→2024年23.5%)
(集計はGrokに助けてもらった。地域別EV販売台数と総販売台数を基に比率を計算。ソースはIEAレポート)
これはひょっとして先進国中心の世界秩序が廃れて、中国・インドなどの新興国中心の世界秩序への移行の序章なのではないだろうか。
再エネへの移行も新興国のほうが先進国より先に達成する可能性もある。
いま新興国はすごい勢いで再エネを増やしている。その中でも一番大きな割合を占める太陽光発電で言うと、
- 中国:2025上半期に256GW追加、グローバル太陽光の約2/3。
- インド:2025上半期に24GW追加、政府の太陽光計画が加速。
- パキスタン:2024年に17GWの太陽光パネルを輸入。草の根太陽光ブーム。
- アフリカ:2024年7月~2025年6月に15GWの太陽光パネルを輸入(60%増)。
一方先進国の太陽光発電導入量では、2024年に欧州71GW、米国は47GW、日本は6GW程度の新規導入 である。欧州は先進国の意地を見せてはいるが、伸び率を考えると、向こう数年以内にはインドに追い抜かれるかもしれない。
再エネに関して、特に米国と日本で逆風が吹き荒れている。
米国のトランプ政権は化石燃料の復権を願っており、再エネに対して敵対的である(完成直前の風力発電の工事を遅延させたり、大型の太陽光発電計画を中止に追い込んだりしている)。
日本は2015年をピークに近年、太陽光の新規導入が伸び悩んでいる。メガソーラー反対運動の高まり(釧路湿原メガソーラー反対運動)や大規模な洋上風力発電計画の挫折(三菱商事連合撤退)など、再エネ導入が順調に進んでいない。
私は先進国が既存の産業や消費者のしがらみから新しい技術体系への移行が遅れ、新興国に技術的優位性を奪われる可能性を感じている。
ここにトランプ政権による米国の自爆という事件が加わった。先進国の盟主たる米国が衰退色を強めるにつれ、世界の他の地域は自信を深め、非米的な独自世界秩序を探求する流れが始まっているように感じる。先進国はこの動きについていけていないようだ。
20世紀の前半、産業的な覇権が英国から米国へ移動したときに似た何かが起きているのかもしれない。英国は産業国としては古くなり始めていた一方、当時、まだ新興国だった米国は最新式の生産設備をしがらみなく導入できたという事情があった。
私は去年までは、中国やインドの台頭はあっても、しばらく米国は活力を維持するだろうと想定していた。しかしトランプ政権が反移民的な政策を強行し、米国が事実上移民国家であることをやめつつあることをもって、米国の中長期的な見通しを格下げした。米国が移民を獲得できなければ、単なる人口が多いだけの国になってしまうからだ。このままでは米国は中国に経済力で負ける可能性が高い。
日本の衰退も、この「先進国衰退・新興国台頭」という大きな流れの中に位置づけることができそうだ。
グローバル化の結果、先進国の産業は空洞化した。いまその反動で、保護主義によって産業を取り戻そうとしているが、これは逆効果であり、衰退を早めるだけだろう。しかし、不満を募らせた有権者によってその「一見もっともだが実は有害な」政策をやめることは政治的に困難になりつつある。こうして先進国は自爆コースにはまり込んでしまっているようだ。
有権者のグローバル化への怨嗟によって近年の先進国における右派政治勢力の台頭はほぼ説明できる。しかし、これらの政治勢力の経済政策メニューは麻薬的であり「短期的には人々を癒すが、長期的にはダメにする」ものが多く、先進国の衰退を決定的なものにすると思われる。
どうやら私たちは、経済の重心が先進国から、中国・インド等のグローバルサウスに移動する歴史的瞬間を目撃しているのかもしれない。いままでの常識を捨て、新しく生まれつつある世界を曇りない目で見ていく必要がある。