LENR(低エネルギー核反応)について書いていると、視野がすぐに向こう数十年、数百年というスケールになる。そればかり考えていると、向こう数年以内に起こることが、どこか表層的で取るに足らないことにように思えてきて、つい浮世離れしてしまう。今日は、少し現実に戻って、久しぶりにLENR以外のことについて書いてみようと思う。
自動車産業について書いてみよう。特に、日本国内の自動車産業について。今日は少し、気楽な漫談スタイルで書いていこうと思うので、あまり中身がないかもしれないが、ご容赦願いたい。
考えてみると、私が自動車産業について言及するのは主に、X上であって、ブログ上ではあまり書いてこなかった。たぶん理由がいくつかある。私は実のところ、自動車産業の詳細について詳しくないのだ。自動車を所有したこともない。若いころは、家族の車を日常的に運転していたころもあるが、最近は、時折、レンタカーを借りて乗るだけだ(日本国内で運転するときには必ずBEVに乗るようにはしているが)。
おそらく自動車産業について何かをきちんと話すためには、さまざまな角度からの知識が必要なのだろうと思う。車本体に関するさまざまな技術的知識。実際に販売されている無数の車種に関する知識。完成車メーカーに関する詳細。それを頂点とするサプライチェーン(Tier1, Tier2, ...)に関する知識。販売を担当するディーラーネットワークに関する知識。ある程度は、自分が実際に自動車を所有し運用すれば習得できる知識や情報もあるだろう。一方で、さまざまな書籍を読んだり、業界関係者に会って話を聞いたりしないとわからない部分もあるのかもしれない。自動車業界のアナリストはおそらくそうやっていろいろ学んで立派な専門家になっていくのだろう。
正直、私はそこまで自動車産業に深く関心があるわけではない。それなのに、「トヨタが……」等々、自動車産業についていろんな言及をしている。だから、本当にこの業界に詳しい人たちから見ると、ずいぶん間抜けなことも言っているとは思う。
それでも私がこの業界についてつい口をはさみたくなるのは、
- 気候変動対策である脱炭素のために、自動車の電化が極めて重要
- 日本経済にとって国内の自動車産業が極めて重要
という2点があるからだ。
関心をこの2点に絞り込めるのなら、自動車産業の詳細についてはそこまで深く考えなくてもよいと思っている(まあ、実際はそうでもないのかもしれないが)。世界について語るには、世界地図があれば十分であり、細かい市町村地図は要らないのに似ている。自動車の電化と日本の自動車産業に関する情報はそれなりに集めてきたつもりだ。
日本の自動車産業が、パワートレインの電化という観点で置かれている現況に関する私の認識をこれから書いていく。
日本の自動車産業は内燃機関車の販売で世界的な成功を遂げた。最近では、HV(ハイブリッド車)の販売が好調である。ハイブリッド車は、内燃機関車の燃費向上のために小容量の電池を使う自動車である。一方で、近年、中国がEV(BEV+PHEV)の生産・販売で急速に台頭してきている。世界で売られているEVの実に3台に2台は中国ブランドである。日本勢は、すでに内燃機関車の販売において世界各地で地位を確立していたため、その需要を脅かす可能性のあるEVへ移行することに消極的だった。中国勢はその間隙を攻めてきた格好である。
実はEVにはもう一つのトレンドが分かち難く結びついている。それはソフトウェア化だ。もともと車載電池の温度を適切に管理して寿命を延ばすためには、ソフトウェアによる緻密な管理は必須だった。近年ではAI技術の進歩により、運転支援・自動運転機能の充実も重要になってきた。スマートフォンとの連携や車内の情報機器の管理にも当然ソフトウェアが必要である。ソフトウェアを動かすには電力が必要だが、EVは大容量の蓄電池を搭載しているので、相性が良かった。こういう、ソフトウェアが付加価値の大きな部分を占める自動車をSDV(software-defined vehicle)と呼ぶ。
中国勢はもともとソフトウェアを利用した自動車の付加価値向上に熱心だった。中国EVはいまや世界最先端のSDVでもある。一方で、日本勢はソフトウェアの重要性の認識が遅れ、いまもSDVの開発では後手に回っている。
私は10年後の日本国内の自動車産業は、生産台数が今の半分以下になるような壊滅的な状況になる可能性があると思っている。世界全体がEVシフトしたとき、日本国内の生産体制をEV化できないかもしれないと考えているためである。EV生産のためにはEVサプライチェーンが必要である。特に蓄電池が最もコストが高く重要な部品と言える。日本国内の生産体制はおそらくこのままHVを含む内燃機関車に特化した形を続けるので、内燃機関車の需要が落ちていったとき、EVサプライチェーンをうまく立ち上げることができず、EVシフトに失敗してしまうのではないだろうか。
そう思っていたのだが、この秋、トヨタが売り出した bZ4X はなかなか良いBEVのようだ。
このBEVは航続距離・充電性能といった基本的なEVとしての性能がようやくまともになった。価格もリーズナブルであり、コスパの良いEVになっている。どうやらこのEVは日本国内で生産されている。また、搭載されている電池はPPES製でやはり日本で作られているようだ(PPESはトヨタとパナソニックの合弁企業)。
最先端の中国EVに比べると遠く及ばないものの、少なくともEVの選択肢の乏しい日本ではかなりの競争力を持っていると言える。トヨタが本気でこうした自社の日本製BEVを日本で数多く販売していければ、少なくともトヨタは日本でEVサプライチェーンをある程度作れるかもしれない(それでも、これから日本市場に流入してくる中国EVの大群と戦うのは容易ではなく、この戦いに敗れてしまうとこの望みも絶たれてしまうが)。
いずれにしろ、向こう数年で、日本国内の自動車産業の命運は分かるだろう。