最近の進展は、低エネルギー核反応 (LENR) の世界に大きな変化が起きていることを示唆している。
日本発のLENRスタートアップ、クリーンプラネットのNewsページにプラズマ・核融合学会誌Vol.101-09(2025)の「凝縮金属系中の水素拡散による異常発熱」という小特集が組まれていた。次のような項目から成り立っている。
- はじめに
- ナノ構造複合金属薄膜からの異常発熱と試料分析
- 輻射熱量観測による異常発熱エネルギー生成
- 水素雰囲気中の複合ナノ金属粉末試料からの異常発熱
- 示差走査熱量計で観測される複合金属からの異常発熱現象
- 世界の動きと実用化への道すじ
- 今後の展開
2から5までは、さまざまなナノ構造を持つ金属合金に水素を吸蔵し加熱したときに起こる異常発熱を測定した論文である。Gemini 曰く、小特集というカテゴリは、ジャーナルの中では一般的な研究論文というよりも、レビュー論文や解説記事に近い性質を持っているそうだ。だから査読は行われてはいない模様。ただし、プラズマ・核融合学会誌というのは日本においては権威のあるジャーナルらしい。Geminiいわく、1989年の常温核融合ブームのときはともかく、2000年以降では、LENR(常温核融合・凝縮系核科学)をテーマにした小特集がプラズマ・核融合学会誌で組まれたことはないようだ。主流の科学者たちがLENRに向ける視線が変わってきたことを感じさせる。
肝心な論文の中身ではあるが、当然ながら私は素人なので正確な判断はできない。それでも、今の時代、わからない言葉などをAIに教えてもらいながら読み進めると、大意は理解できることが多い。ポイントは、LENR現象で発生する過剰熱はあまり多くないので、測定誤差が疑われたり、他の現象の背後に隠れたりしがちなので、いかに正確にその熱を測るか、研究者ごとにいろいろ工夫を凝らしているということだ。
そういう工夫を一つ一つ学んでいくと、どのような指摘が入っても防御できるように、かなり慎重に実験を組み立てていることがわかる。一緒に学んでいったGeminiも「異常発熱の評価に関しては極めて厳密に行っており、科学研究上の価値がある」と評価していた。LENRの過剰熱の有無については、過去35年、実にいろんな議論があったので、ぜひ読者もお気に入りのAIと一緒にこれらの論文を読み進めていただくのが良いかと思う。
私が自分で実際に読んでいった、これらの研究結果に感じた印象をいくつか。
どうも LENR 現象というのは、とてもゆっくりした反応らしい。これらの実験の時間軸が数十時間にわたることが多い。イメージ的には、ゆっくり火をつけて、いったん火がつくとその後、ほそぼそと数十時間反応が続く感じ。人類がいままで人為的に起こしてきた核反応(核分裂等)はもっと急速に進行するものが多かった。そういう意味で不思議な反応ではある。
もう一つ印象的だったのは、これらの研究者にとっては、現象の再現性はもはや大きな問題ではなさそうだった。かつて常温核融合の実験はいくらやっても報告された現象が再現しないというのが大問題だった。しかしいまは、水素が反応する舞台となるナノ構造の金属複合材料をきちんと用意すれば、ほぼ間違いなく現象自体は起こすことができるようになっているようだ。
したがって、いま実用上で問題になっているのはCOP(成績係数、システム全体で出てくるエネルギーを入力したエネルギーで割った数値)をいかに高くするかという工学的な課題のようだ。いまはCOP=1.2など、まだあまり高くないが、これをいかに安定して高くするかが課題。あとは、もちろん、この現象がなぜ起こるのかきちんと説明する理論だ。理論があれば、工学的な応用についても、試行錯誤の回数を減らすことができ、技術進歩を加速することができるだろう。
「世界の動きと実用化への道すじ」でクリーンプラネット社の林雅美さんは、熱源や発電を目指す製品開発上の課題として、次のように書いている。「実用化に向けた主な課題として、各モジュール間の性能ばらつきを最小限に抑えるための高精度な加工・組立技術の開発と、出力密度の向上によるコストダウンが重要なテーマ」と書いている。ここからもLENR現象を起こすこと自体はもはや大きな課題ではなく、それをいかによりよく制御して経済性を向上するかの課題に移行しつつあることがうかがえる。
最後の「今後の展開」では、LENR研究が直面する今日の問題がよくまとまっている。これらの課題に対して、LENRが実際に核反応であることを示す証拠集めや、LENR現象が起きている箇所をピンポイントで見つける研究などが進んでいる。
この小特集を読んだ印象は「LENRの再現性は十分、あとは理論と効率向上のみ」というものだった。1989年の最初の報告から約35年。LENR研究は紆余曲折を経つつも着実に前進していることが感じられる。あとは、いつ世界をあっと言わせるような製品や理論が出てくるかだろう。ニューラルネットワークが2012年、画像認識技術コンテストILSVRCで圧倒的勝利してから一気に有名になったときのような瞬間が、LENRでも近づいている予感がしている。