IMFのブログエントリーを読んだ。原文は英語だと思うが、日本語訳を載せてくれているのは日本語話者からするとありがたい。なかなか興味深い内容だった。
このエントリーは次の論文のサマリーである。
私はこの論文についても NotebookLM でポッドキャスト化して聞いてみた。
私が面白いと思った点を箇条書きでまとめてみる。
- AIの影響を受ける労働者の割合は所得水準が高くなるほど増える(先進国60%>新興国40%>低所得国26%)
AIの影響は次の2種類がある
- 補完的: AIの助けを借りて生産性が上がる(所得も上がる)
- 例: 裁判官・外科医・弁護士
- 代替的(非補完的): AIに仕事を奪われる
- 例:テレマーケター・事務員
- 補完的: AIの助けを借りて生産性が上がる(所得も上がる)
AIの影響を受ける労働者のうち、補完的な人と代替的な人の割合はちょうど半々くらい
- AIの影響を受けても、その恩恵を受けて所得が上がるか、逆に仕事を奪われるかはすぐには分からないということ
- 職種によってより補完的だったり、より代替的だったりする
労働所得への影響
- 3つのシナリオ
- 代替的な人が増える → 所得格差縮小(みんな仲良く失業(笑))
- 補完的な人が増える → 所得格差拡大
- 補完性は変わらないが全体として生産性が上がる → みんな所得は増えるが補完的な人はもっと増えて格差拡大
- 3つのシナリオ
資本所得への影響
- いかなるシナリオでも所得格差拡大
- AIの伸長は資本の収益性向上を意味するから
- いかなるシナリオでも所得格差拡大
女性の方がAIの影響を受けやすいが、補完的な人も多い
若い人の方が高齢者よりAIに適応しやすく恩恵を受ける可能性が高い
- 感想: これはエントリーレベルの職が代替的であり、若い人たちの仕事が減っているように見えるという観察と矛盾する
AI準備指数
- 日本は案外高い
- これは理由がよくわからない
- 単に高速回線等の物理的IT基盤が高く評価されただけ?
- 日本は案外高い
比較的、常識的な内容で大きな驚きはない。AIの影響の補完性・代替性という概念はいままではっきり整理できていなかったので、その点は参考になった。要するにAIに関わると生産性が上がってますます多くの報酬がもらえる人と、代替され失業してしまう人が出てくるということだ。これは私の予想だが、この補完性・代替性はAIの進化に伴って変化していく気がする。最初は、補完性があって、所得を上げられた人も、さらにAIが進歩すると代替されてしまう、ということはあるのではないか。私は最終的にはほとんどの仕事は代替的になってしまい、AIに置き換えられるだろうと予想している。
またこの論文は生成AIのようなオフィスで使うAIを念頭に置いているようだが、AIで駆動される知的なロボットが普及すれば、ブルーカラーの人たちも「AIに影響を受ける人たち」になっていくだろう。そしてホワイトカラーと同様に代替的な人の割合が高まっていき、最終的には大多数の人たちが仕事を失うのではないだろうか。
一方で資本所得に関しても格差が広がっていくであろうという予測も、身も蓋もないものであった。AI(ロボット)は資本そのものである。AIの生産性がどんどん上がっていくことが予想されるので、AIを所有している人(株式等を通じた間接的所有者を含む)の所得も上がっていくのは間違いない。
というわけでこの論文はAIの普及によりほぼ確実に所得格差は拡大するだろうと考えている。
ほとんどのシナリオにおいて、AIが全体の格差を悪化させる公算が大きく、政策当局者は、テクノロジーが社会的緊張をさらに煽らないように、この厄介な動向に積極的に対処しなければならない。各国が包括的な社会的セーフティネットを構築し、脆弱な労働者に再訓練プログラムを提供することは極めて重要である。この取り組みによって、私たちは生活を保護して格差を抑制し、AI移行の包摂性を高められるだろう。
問題は「脆弱な労働者に再訓練プログラム」で足りるのか?ということである。おそらくAIが人間を代替する傾向が高まっていくのは間違いないと思う。そういう強烈な圧力の中で、人間を再訓練したところで焼け石に水なのではないか。ここは素直に「包括的な社会的セーフティネット」の方を強化するの方が賢明な気がする。
一番、素直な答えはやはりユニバーサル・ベーシックインカム(UBI)だ。しかしそのためには増えていく一方の資本所得への課税を行って原資にしなければならないというウルトラC級の政治的難題が控えている。
先進国ではいまでも貧富の差の拡大によって人々は苛立っていて、そのささくれ立った心が、危なっかしい政治的状況を作り出している。それがさらに不安定になるのかと思うと頭が痛くなる。
AIは禁断の果実だったのかもしれない。しかし人類はそれを口にしてしまった。これから訪れるであろう難しい時代を何とか乗り切っていくしかない。