これらの記事が面白い。
マイクロソフトの研究者がAIによって影響を受けやすい職種・影響を受けにくい職種を調査したのだ。自分たちの提供するAIチャットボットの分析によるものらしい。
その結果は、はっきりしていて、 通訳・翻訳者のような知的な職種がAIの影響を受けやすく、浚渫(しゅんせつ)船オペレーター のような現場仕事の職種の方がAIの影響を受けにくいそうだ。
まあ、例によってわざわざ調査するほどの結論ではないかもしれない(笑)。AIが知的作業の補助になる以上、知的職業にほど影響を与えるのは常識に照らせば明らかだ。しかし、科学的研究というのはときにそういう当たり前のことでも厳密な手法に従って調査して結論を明らかにすることが重要なのである。
この研究者は、AIの影響を受けやすいからAIに代替されてしまうとは限らない、と述べている。しかし、AIの影響を受けやすい仕事は、少なくともAIを積極的に使っていかないと経済上の競争に負けていくのは間違いないだろう。少なくとも、AIをうまく使いこなせない人たちは淘汰される可能性が高い。
たぶん向こう10年くらいで起きることは次のようなことだろう。
AI がこれら「AIに影響を受けやすい職種」のうち、相対的に単純作業に近い部分を担当するようになる。人間の役割はAIを使いながら、より人間にしかできない、現実の社会的局面における意思決定に移行していくだろう。従来、若手の初心者は単純作業から仕事を始めたが、そういうキャリアが難しくなることはありうる。職種全体が「知的だがAIによってほぼ完全に代替できてしまう仕事」の場合は、その職種自体がなくなるかもしれない。
「AIに影響を受けにくい職種」はあくまでも2025年時点のものであって、仮にAIに支援された知的ロボットが安価になれば、逆に大きく「AIに影響を受ける職種」に変化しうる。その場合の影響を受け方は、知的な職種と同じく、相対的な単純作業からAIロボットに代替され、人間の仕事はより広く社会的文脈を含む意思決定の分野に押し出されていく。「AIに支援を受けた現場仕事の知的職種化」が起きる可能性がある。この変化に対応できない労働者は仕事を失う可能性があるかもしれない。
知的職種がAIにどういう影響を受けるかは比較的予測しやすい。一方で、現場仕事の職種にAIが与える影響は、AIロボットの実用化の時期による。
AIロボットの実用化が大幅に遅れた場合は、次のようなある種「ディストピア的」な労働世界が出現するかもしれない。
その世界では、知的な職種は完全にAIにとって代わられてしまった。かつて高給を得ていた知的職種は消滅し、その取り分は、AIの所有者(の大企業)に帰属することになった。しかし、現場仕事を担当するロボットの発達は不十分で、それは人間が担当し続ける必要があった。人々は、AIからの指示のもとに肉体労働をするようになった。それはある意味、「全職種のギグワーカー化」とも呼べた。現場に配置された人々はスマホアプリ上のAIから刻一刻指示を受けて与えられた仕事をこなすだけの存在になった。
従来、大学卒業者向けとされた職種はAI化によってほとんど消滅してしまった。その一方で、報酬の支払われる職種は、高校・専門学校卒業者向けのものばかりになってしまった。従来の「いい大学→いい会社」という人生コースが消滅し、人々は大学に進学しなくなった。
……とまあ、これはさすがに極端で、ここまでの事態にはならないかもしれないが、現場仕事のキャリアを目指す人たちが増えることはあり得るかもしれない。AIが知的職種の仕事をより多く代替すれば、相対的に現場仕事の報酬の方が高くなっていくかもしれない。
しかし、私の考えではこうした諸々はすべて過渡期の調整事項であって、最終的には「すべての」仕事がAIによって代替されると考えている。それまで何十年かかるかはまだわからないが。今の時点で我々が覚悟しておくべきことは、「労働の世界ではこれからあらゆる変化が起こりうる」ということだろう。それに伴って、私たちの人生も大きく変化する。しかし、その最終的な姿はまだ誰にもわからない。